第22話 ドクロと鳳凰

 鳳仙が長治郎の屋敷に向かっていた頃、カミナと神人の戦いは続いていた。


「チッ、なんだ~あの野郎は。撃てども撃てども当たりやしね~」

(銃は至って普通の単発式ライフル。音が消えたのは消音装備を付けたからか。それにしても…………)


 カミナが考えている間も、様々な角度から止む事無く銃弾が撃ち込まれる。


(分からねーのはコレだ。撃たれた後の銃弾が自由に角度を変えて来やがる。これじゃ相手の場所が特定出来ん。考えられるのは二つ。確認出来るのはこっちか)


 仮説を立てたカミナは完全に動きを止め無防備になる。


「お! チャ~ンス。喰らえ」


 放たれた銃弾が初めてカミナに当たった。


(さすがに少し痛いが、予想通りの威力だな。これなら問題ない)

「ふざけんな! ようやく当てたと思ったら、ちょっと流血してるだけじゃね~か。なんだ、あの化け物は」

(次はここか)


 数メートルほど移動するカミナ。やはり構える素振りは無い。


「なんだ? ちょっとだけ動いて、なにがしたいんだ? まぁ、良いか、当て続ければいつかは死ぬだろう。最悪、時間稼ぎが出来れば問題ね~しな」


 再び放たれる銃弾を、当然の様に喰らうカミナ。この流れが数十回続いた。


「おいおい、ホントになんなんだ? 気味が悪い」


 次の弾を込めるため、一瞬視線を外した神人。再び構えた時、カミナは居なくなっていた。


「ん? なんだ。どこに…………」

「よう、見つけたぜ」


 声のする方に向くと、そこにはカミナが立っている。


「な、バカな!? なんでここが。1キロメートルは離れてるんだぞ」

「高い所から撃ってると思ってたが、まさかこんな所からとはね」


 神人が狙撃を行っていたのは街外れにある小屋の中からだった。


「一体どうやって。ただ俺の弾を喰らってただけだろ~?」

「弾の角度が変わった回数とそれに伴う威力の変化。その平均値からここに当たりを付けたのさ」

「無防備に俺の弾を喰らってたのはそのためか。しかし、そんな芸当が出来るヤツなんて……お前は一体?」


 神人に対して距離を詰めていく。


「俺はカミナ。神殺しだ」


 カミナは手に何かを持っている。


「さて、弾の軌道が変わるのはこの透明な虫が理由だな? 変わった虫だ、羽音も立てずに浮遊し、銃弾を弾性で跳ね返すとは。下でもなかなかお目に掛かれねーぜ。この虫を操るのがお前の能力だな」

「な、なんでそれに」

「軌道が変わる時、弾の速度が必ず一瞬落ちていた。なにかにぶつかっている証だ」

「クソ、クソ~!」


 神人はライフルを捨て、リボルバーを連射する。


「そもそも、普通の銃で俺を殺すなんて無理。冷静さを欠いた奴なら尚更だ」


 発射されたリボルバーの弾は、全てカミナの手の中に。


「お前はあまり相手を嬲るタイプじゃないみたいだな。一発で仕留めることに美学を持っている、そんな感じだ」


 カミナは手の中にある銃弾の中から一発を指にセットし構える。


「美学や流儀がある奴には、誰であろうと敬意を持って向き合うのが俺の義だ」


 指先から弾かれた弾丸は神人の眉間を見事に貫通し、一瞬の内にその戦いにケリが着いた。


(気になるのは、どうやってコッチの位置や動きを見ていたのかってことだが。…………なるほどな)


 倒れた神人の近くに落ちていたのはモニターの付いた小さな受信機。


(これで見てたのか。カメラの類はなかったと思うが。あの虫の中に似たような能力を持ってるやつが居るんだろうな。それにしても、技術格差が激しい。神都の文明レベルはタコの所と似てるのか? おっと、急がねーと)


 カミナは長治郎の屋敷へと向かう。

 屋敷に辿り着いたちょうどその時、鳳仙と景隆の死闘が始まった。


(アイツが景隆か。確かに良い腕だ。…………それにしても禍々しい殺気だな)

「よっと。どこに行ってたんですか? カミナ」


 閉ざされている正門の脇にある高い塀を、ケルノスが虎徹を抱えて飛び越えて来た。


「あん? なんだお前、復活してたのか」

「えぇ、とっくに。かなり嫌な感じがしたので、裏門からこっちを見に来てしまいましたよ」


 長治郎と景隆同様、いやそれ以上の衝撃波と熱波が起こっている。周囲で倒れていたゴロツキ共は喉が焼け次々に息絶えていく。


「並じゃ耐えれませんね、この戦い。見物するのも命懸けだ。大丈夫ですか? 虎徹さん」

「えぇ、なんとか」

「クレアを外に逃がして良かったぜ。あの子じゃ、まだこれには耐えられねーからな」


 剣戟が激しさを増すにつれ、周囲の温度もどんどん上がる。燃えやすいモノには着火し、更に温度が増していく。


「まさにヒートアップですね」

「お前ならとっくに燃やされるか斬られてるんじゃねーのか?」

「どうですかね、私の糸は剣や刀とは相性が良いですし、炎にも強いですから。まぁ、ここまでになると自信はありませんけど」

「正直だな」

「これだけの戦いを目の当たりにしてしまうとね。で、どう見ます?」

「今のところ五分だ。どっちが勝ってもおかしくねーよ」

「助太刀しないんですか?」

「そりゃお前もだろ。これは鳳仙自身の手でケリをつけなきゃ駄目だ。まぁ、もし負けたら骨ぐらいは拾ってやろーぜ」

「…………そうですね」


(ちっ、まさかコイツがここまで腕を上げてるとは)

(やっぱり強い。単純な炎の強さじゃウチの方が負けてる)


 互角ゆえに二人の勝負はなかなか決着がつかず、疲労とダメージは蓄積していく。


(まずいね~、俺は体力ね~からな。そろそろケリを付けとくか)


 ひと際力を込めた一振りで、一旦距離を取る景隆。離れた瞬間、今までに無いほどの血を刀に込める。


(ケリを付ける気だな。下手に受けたら致命傷になっちまう。ウチも全力でいかないと)


 景隆の様子から次の一撃で全てが決まる事を悟った鳳仙も、今までとは比較にならない程の血を込めた。

 双方の刀から炎が消え、水を打ったような静けさが辺りを包み込む。


「…………ちょっと構えた方が良さそうですね」

「あぁ、そうだな。……うん? あれは。ちょっと待てよ」


 カミナは一瞬でその場から消えた。それと同時に、二人の刀から再び炎が舞い上がる。今までとは比較にならない大きく、高温な炎が。


「テメーが居なけりゃ、俺が跡目だったんだよ~。こうなったのはぜ~んぶテメーのせいだ、鳳仙」

「アンタは狂っちまった。絶対にアンタに跡目を継がせるわけにはいかない」


 黒い炎はその形を巨大なドクロに変え、赤い炎は鳳凰へと変わる。


「これで終いだ~!!」

「景隆ー!!」


 二つの強大な炎の激突は爆発を生み出し、辺りは真っ白な閃光に包まれた。爆風によって舞い上がった塵芥が閃光と共に消えた先に見えた二つの影。一つは突っ伏し、一つは立っている。その影の持ち主が分かった時、勝負の結果も自ずと見えた。

 立っているのは景隆。突っ伏しているのは鳳仙である。


「お嬢ーーー!!!」


 虎徹の叫びが響き渡る。 

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