第17話 刀と銃とイイ人

 リーダー格の男の声を合図に、周囲に居る男達が一斉に動き出す。


「やれやれ、誰を狙ってんだ?」

「それはカミナでしょう。神殺しの手配所が回っているはずですから」

「何!? そんなもんが出回ってんのか?」

「なんで嬉しそうなんですか。 クレア、鳳仙さん。気を付けて…………」


 振り返った先にすでに鳳仙の姿は無かった。


「ホウセンさんならどこか行ったよ、あっという間に」

「くそ、また逃げられた。お嬢はまだそこまで遠くには行ってないはずだ。手分けして探すぞ」


 男達は散り散りに街に消えていく。


「……どうやら私たちが狙いではなかった様ですね」

「鳳仙が狙いみたいだな」

「えぇ! じゃぁ、ホウセンさんが危ないってことでしょ!」

「そうですね。か弱い女性が狙われているとは、放ってはおけません」

「う~ん。多分、大丈夫だと思うけどな」

「なに言ってんのカミナ! 早く探さないと」


 クレアの顔は真剣な眼差しがカミナにグサグサ刺さる。


「あ~、分かった分かった。じゃ、俺がちゃちゃっと探すから、お前らは先に宿を決めて大人しくしてろ」

「私も行く!」

「良いのかクレア? 俺は本気で動くぞ。付いて来れないお前は当然だが抱えて動き回ることになるぜ」

「…………お気をつけて」

「おう、一応お前たちも気を付けとけよ」


 カミナは一瞬の内にクレア達の前から姿を消す。


「何かあったんですか? とても苦々しい顔をしていますが」

「うん、ちょっとね。さ、私たちは宿を探して待ってよう」


 男達から脱兎のごとく逃げた鳳仙は、夜を迎えてより華やかに、賑わいを見せている花街に身を隠していた。


(ふ~、危ない危ない。クレア達とちょっとはしゃぎ過ぎた。ま、ウチの全速力に追いつける奴はそういないし、気配も出来るだけ消したから大丈夫…………)

「よぉ! 元気してる?」


 振り返った先にカミナが立っている。


「なかなかの足だ。気配の消し方も上手い。まぁ、及第点だな」

「な、なんでカミナが?」

「お前の匂いと気配を辿ってな。クレアが心配してたから追いかけて来たんだよ」

「そうか、クレアが。突然逃げちまって悪かったね」

「まったくだ。で、さっきの奴らは?」

「あぁ、あれは…………。なぁ、カミナ。そのことも含めて話があるんだ。ウチに付いて来てくれないか?」

「あん? …………なんか訳ありみたいだな」


 宿を探すクレアとケルノス。


「ん~、やっぱりこれだけ人が多いと、飛び込みじゃなかなか泊まれないね」

「そうですね。まぁ、宿は沢山あるようですし、探していれば見つかるでしょう」

「うん。…………カミナはちゃんとホウセンさんを見つけられたかな?」

「心配ないでしょう。それより、この先は裏道の方になっていますね。引き返しましょうか」


 道を戻ろうとした瞬間、パン!と乾いた破裂音が響き渡った。


「銃声!? なぜこんな所で」


 その音の正体に気付いた街の人々は慌てて逃げ回り、パニックが起こっている。


(私たちが狙われている可能性は低いが、油断は出来ない)


 周囲のパニックを見て動揺するクレアをケルノスが糸で囲む。


「うわ!? ケルノスさん、これは?」

「『アイアン・クレイドル』。私の糸で作った物なので安心してください。この中に居れば普通の銃弾なら問題ありませんから」


 銃声は単発ではあるが、断続的に続いている。


「ケルノスさん、音のする方に行ってみようよ」

「な! なにを言っているんです」

「危ないのはわかってるけど、もしかしたらホウセンさんかも知れないでしょ」

「ぐっ、確かにその可能性はゼロではありませんが」

「お願い!」

「…………分かりました」


 ケルノスの籠で守られたまま、銃声のする方向へと進んで行くと数人が刀を抜いて左見右見している。


「あ! アレってさっきの」

「えぇ、鳳仙さんを襲おうとした奴らですね」


 パン! パン! と銃声がする度に、男達が一人また一人と倒れていく。


「助けてあげよう。ケルノスさん」

「そんな義理はないでしょう。それに悪い奴らかも知れませんし、単なる仲間割れの可能性もあります」

「そうかも知れないけど。でも、助けて話を聞けば、さっきのホウセンさんのこともわかるかも」

「ふむ。…………確かにそれは一理ありますね。分かりました」


 ケルノスは生き残っている男に近づき、『アイアン・ドーム』を展開。両手の糸を全て防御に回す事で、ケルノスを中心とした半径3メートルに網の目状で高密度なドーム型の防御壁を作る事が出来る。『アイアン・クレイドル』の応用である。


「あ! 君たちはさっきの。…………これは一体?」

「詳しい話は後で。とりあえず、このまま我慢しましょう」

「我慢って。待っていても敵は倒せんぞ」

「では、どうするつもりですか? 敵は遠距離、刀と銃では勝負になりませんよ」

「ぐっ、しかし」

「とにかく我慢してください。撃っても意味がないと分かれば止めるはずです」


 ケルノスの言う通り、数発の銃弾が撃ち込まれた後、狙撃は止んだ。


「やれやれ、さすがに少し痛いですね」

「かたじけない。助かりましたっつ!」

「あ、この人ケガしてるよ」

「手当も必要ですね。早急に宿を探しましょう」

「そ、それなら、この道の先に知り合いの宿があります。そこなら…………」


 気を失った男を連れて、宿へと向かうケルノスとクレアだった。


「ここが連れて来たい所?」

「そう、ウチの家」


 そこにはとても立派な門構えの屋敷があった。広い屋敷を進み、一番奥にある広間へと通される。


「おう、帰ったか鳳仙」


 スキンヘッドに口髭をたくわえた眼光鋭い初老の男性が、ゆうゆうと煙管を噴かして座っている。


「俺は言ったよな、一人で出歩くなって。お前、今の状況が分かってんのか?」

「あぁ、悪かったよオヤジ。でも、見つけたんだよ。イイ人が」

「隣の男か。イイ人ってんなら、試しておかねーとな」


 瞬間、カミナの間合いに初老の男性が飛び込む。同時に高速の抜刀術から放たれる斬撃。


(速い!? 避けるにはスペースが足りんな。受けるか)


 刀身に対してカミナも高速の蹴りを放つ。両者が触れた途端、衝撃波が起こり周囲の畳や襖が吹っ飛ぶ。


(ほぉ、俺の抜刀術を受けるとは)

(ちっ、なんつー斬撃だ。タメが少なかったとは言え、『蟷螂一閃脚(とうろういっせんきゃく)』で互角かよ)


 力を測るにはその一撃で十分。互いに距離を取り、攻撃を止めた。


「どうやら、馬鹿娘の目に狂いは無いようだな」

「アンタ、凄いな」

「旦那もなかなかどうして、その若さで大したもんだ。俺は『長治郎』、焔一家の頭をやってる」

「俺はカミナ。よろしくな」

「カミナか。よし」


 長治郎はその場に正座し、床に手を付け頭を下げる。


「鳳仙を、娘をよろしくお願い申し上げます」

「…………はい?」


 突然の展開にあっけに取られるカミナであった。

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