第7話 死のダンス


「なんか騒がしいと思ったけど、お前のせい?」


奥の部屋に入ったカミナは、まだ幼さの残る顔立ちの青年と対峙する。


「お前がバロルか?」

「そうだけど、お前は?」

「カミナ、神を殺す者」


その言葉を聞き、バロルはケラケラと笑う。


「は~、オモシロいねお前。神を殺す? カスの使徒を何人殺したのか知らないけど、使徒と神人は次元が違うぜ」


 言い終わると同時に、カミナに向けて高速で鉄球が飛んで来た。問題なく避けるカミナだが、後ろの分厚い石で出来た壁にめり込んでいる鉄球を見ればその威力の凄さが分かる。


「お、避けるんだ。まぁ、30%ぐらいしか力入れてないからね。これぐらいはやってくれないと楽しめないもんな」

「今ので30%? 冗談だろ。遅すぎて眠くなったぜ」


 カミナの挑発を受けて、バロルの表情が少し険しくなる。


「は? あんまり調子乗んなよ雑魚が」


 さっきよりも数段速い速度で投げられた鉄球。今度は避けることなく、余裕の表情でそれを掴み取るカミナ。


「余裕だな。子供の遊びだ」


 小馬鹿にされたことでバロルの顔から遊びが消える。


「いいぜ、本気でやってやる」


 そう言うと同時に、バロルの背中から左右二本づつ、元からあったのと合わせて計六本の腕が生える。さらに、今まで使っていた鉄球とは違う、黒い鉄球を取り出した。


「少しは楽しませてくれよ。すぐにミンチになるのはナシだぜ」


 六本の腕から繰り出される高速の鉄球による波状攻撃が始まった。


(鉄球はさっきのより重いな。ゴムみたいな糸も付いている。手元に戻るし遠心力で威力も増していくわけか)


 常人ならとっくの昔にミンチになっている様な猛烈な攻撃に際して、カミナは眉一つ動かさず避け続けると同時に、冷静な戦況分析をしている。対して全く攻撃が当たらないバロルは動揺し始める。


(クソ、なんだコイツ。これだけ攻撃を避け続けられるなんて。・・・・・・余裕はなさそうだな)


 縦横無尽に動き回っていた鉄球を全て手元に戻すバロル。


「どうした? 降参か」

「黙れよ虫ケラが」


 六本の腕、全ての筋肉が今まで以上に盛り上がり、脈打つ血管もより強く拍動していることが見て取れる。


「もう飽きた。避けてばっかりで全然ツマンネーから終わりにしてやるよ」


 今までの速度とは比較にならない程のスピードで繰り出される鉄球。これがバロルの全力である。が、次の瞬間にバロルは凍り付く。


「こんなもんか」


 カミナは避けもせず、とんでもない破壊力になっている鉄球を全て叩き落としていた。


「俺も飽きた。ただ馬鹿の一つ覚えで鉄球投げてくるだけなんてな。終わりにしようぜ」


 それまで無防備だったカミナが構える。瞬間、バロルは自分が喰われる側の存在であることを本能的に察知した。


「神屠孔雀掌」


 距離を詰めていくカミナの周りに、徐々に掌が増えていく。加速度的に増えていく掌、数メートルの間合いが詰まる頃には正に掌の壁が出来上がっていた。


(!? なんだこりゃ。奴の手は二本から増えてない。ってことはほとんどが残像か。ならホンモノだけを見分けて避ければ・・・・・・)


 バロルも神人。状況を見て戦うための様々な思考を巡らせる。が、到底間に合わない。


(避け……いや、ムリ。当たる。どうするガードか? 耐えられるか?)


 決断を下す前に、カミナの掌がバロルを完全に捉える。全身に無数の掌打を浴びながら、バロルの体は後方へと吹っ飛んだ。


 そのあまりのスピードにカミナの腕周りからは蒸気が上がっている。驚いたのは攻撃を受けたバロル。


「……? おいおい、全然イタくねーよ。なに? 今のってただの見せかけかよ」


 起き上がりカミナを指さすバロル。


「なんだよビビらせやがって。こんな軽い攻撃じゃオレに勝てるわけないだろ?」


 悪態をつくバロルに対し、冷徹な笑みを浮かべてその場を去ろうとするカミナ。


「あ!待ちやがれ」


 背を向けたカミナに対して鉄球を投げようとした瞬間、バロルの体に激痛が走る。


「あ~ぁ、やっちまったか」

「お、お前。一体なにを」

「孔雀掌でやったのは単純な物理攻撃じゃない。お前に死のダンスを踊らせるための準備だ」

「し、死のダンス?」

「お前の骨に細かい亀裂を大量に入れた。今、お前が鉄球を投げようと力を入れたことで亀裂の深い所から順番に骨が折れていく」


 カミナの説明の通り、バロルの骨は徐々に折れていく。折れた所をカバーするために別の所に力が入り、そこが折れるという連鎖。正に死に向かう激痛のダンスだ。


「孔雀掌の応用、崩落骨。拷問用の技であんまり好きじゃないんだが、人の死を弄ぶお前には丁度良い技だ」


 骨が折れれば、当然折れた骨があらゆる所に突き刺さる。骨の折れる痛み、骨が臓器や筋肉に突き刺さる痛みを感じ、血を吐きながらバロルは死のダンスを踊っている。


「痛いか? でもな、それでも足りないんだよ。殺された人が感じた痛み、クレアやシンが感じた心の痛みに比べれば、まだまだ」


 しばらく経ち、バロルは床に崩れ落ち息絶えた。


(やっぱりこういう殺し方は性に合わないな)


 苦々しい表情を浮かべながら、カミナはクレアの待つ町へと帰って行く。

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