メッセージ

 君が出発してすぐの頃は一日になんどもメッセージを送り合っていた。「おはよう」から「おやすみ」まで。今日食べたご飯の話とか、道端で犬に吠えられたとか、そんなどうでもいいような話ばかりしていた。そんなふうにメッセージのやり取りをするのが楽しかった。

 もとから君は無口な方で、二人でいても喋っているのは私のほうが多かった。それに、出発する前はメッセージを送っても既読スルーされることが多かったから、こうやってメッセージが返ってくるのが嬉しかった。君は「なんて返せばいいかわからなかったから返せなかった」と、言っていた。悩みながら返信してくれるのだな、と、思うとそれがより嬉しくなった。

 だけれども、段々と頻度は落ちていった。「おはよう」の返信が「おやすみ」になった。「少し忙しい」や、「今、電波が届かないかも」と言う言葉が混ざるようになった。今では一週間に二、三度、そっけない返信が来る。

 君は今、どこで、何を考えているの?

 聞きたいけど、聞くのが怖いと思ってしまう。もう、追いつけないほど遠いところに君がいるということを理解りたくない私がいる。

 そうだ、君の声が聞きたい。あの、優しくて温かい、少し低いのんびりとした声が聞きたい。

 小さな勇気を全部使って

「電話していいかな」

と、メッセージを送る。もちろん返事は期待しない。きっと君は忙しいから、声を聞けなくても気にしない。

 いや、気にしないようにしなくてはいけないのだ。

 返事は翌朝返ってきていた。

「ごめん、また後で」

 わかっていたけれど、少し寂しくなってしまう。でも、今はこれでいい。君が私に返信してくれた。それでいい。

 でもやっぱり、君に会いたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る