第5話 和解、そして……

「おしっこの臭いは一年も取れなかった」


 ルユザのおしっこに入っていた竜の因子が俺の中に入り、奇跡的に適合した結果、俺は戦刃竜気を獲得した。

 しかし人間の身体に竜の因子の力はあまりにも重く、長い闘病生活を余儀なくされたのだった。


 そして、ルユザのおしっこの臭いは取れなかった。

 

 家畜達は俺を見ると服従の姿勢をとり、穏やかな気性の魔物さえも興奮して襲い掛かって来た。

 俺の力を目的とした様々な陰謀にも巻き込まれた。

 そうして、戦いの日々は長い間続いた。

 

 家族に危害が及ぶので、俺は故郷を離れて旅をした。

 おしっこの臭いを漂わせた俺は、まともな生活はできなかった。

 

 何度もの出会いと別れ。

 一番恐ろしかったのは、発情期の雄ドラゴンに追い回されたことだった。

 

 そして、遥か北の地の温泉で俺自身が一皮剥けたとき、おしっこの臭いも温泉の中へと消えて行った。

 

 少年時代は終わり、俺の精神は大人へと変わった。

 

 俺は故郷に戻って戦いの日々を封印することを決めた。

 家族は俺をハンバーグで迎えてくれた。

 妖精にお願いして力を封印してもらい、また穏やかな日々を過ごす事ができるようになったのだ。

 

「お前はどうして俺におしっこを掛けたんだ?」


 過去を回想して、そしてあの旅の日々を思い出して気持ちが落ち着いた。


「ごめんなさい」


 ドラゴンが光を放ち、その姿を少女へと変える。

 記憶に残っている、あのルユザだった。

 

 

「私はあなたが好きになった。だから私はあなたをドラゴンの掟に従って、おしっこをかけた」

「そんな……」


 がくりと膝を突いた。

 

 あれが好意によるものだったなんて、まったく分からなかった。

 驚愕の真実に打ちひしがれる。

 こんな美少女に好意を持たれて、憎むこと何でできやしないじゃないか!!

 

「ルユザごめん。俺は君を誤解していたよ」

「いい」


 そしてルユザが俺に抱き着いて来た。

 

「大好きロイ」

「ルユザ」


 とても嬉しかった。

 でも、俺には幼馴染の……。

 

「ごめんルユザ。俺には幼馴染のエディスが……」

「? エディス……。もしかしてロイは勇者エディスを知ってるの?」

「ああ、故郷の幼馴染だ。ルユザも?」


 コクリ。


「学院の同級生」


 なんだって!!

 ついに、エディスの手がかりを得る事ができた。

 

「ロイはエディスを」

「ああ。でももう長い間会ってないんだ」


 落ち込む。

 

「わかった。エディスは私の親友。ロイは大切な人」


 ルユザが空間魔法を使う。

 光り輝くゲートが現れ、その向こうから懐かしい気配を感じた。

 

「向こうにエディスがいる。会って話して来て」

「ルユザ……」

「私は、その後に改めて気持ちをロイに伝える」


 力強い瞳が俺を見つめていた。

 

「ありがとう」


 そして俺はゲートを潜った。

 

 ……。

 ……。

 

 暗い場所だった。

 柔らかい感触が顔を包み、暖かいものが身体を流れて行く。

 

「え」


 その声は、懐かしいエディスの声だった。

 

「エディス!? 俺だロイだよ!!」


 暗く息苦しい。

 エディスの気配は近くに感じるのに。

 

「エディス!!」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 バチーン!!


「ぐわっ!?」


 大きな衝撃を受けて壁に激突する。

 

「何だ一体!?」


 不可思議な事の連続に頭が付いていけない。

 しかし晴れた視界の先に、涙目のエディスがいた。

 

 彼女の両足の間に下げられた布。

 そして、ずぶ濡れの俺。

 

「まさか……」


 俺の身体からは、エディスのおしっこの臭いがした。

 

「ルユザ!! あの邪竜が!!」


 絶体絶命のピンチだった。

 

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