あの子に出会う前の話
私の名前は『
生まれた時から、私の周りには人が多かった。毎日私のお世話をしてくれるにメイドに、保育園に送り届けてくれる運転手。料理を作ってくれるコックさん。
それでも、両親の姿を家出見た事はあまりなかった様に感じる。
それは、物心がついた小さい頃からずっとだ。
みんな保育園の発表会や運動会には両親または、父親か母親のどちらかが来ていた。でも、そんな行事に私の両親が来ているのを見た事がない。
最初の頃はみんなと違う事にさみしい気持ちを持っていたけど、小学校に上がる頃にはもう……諦めていた。
今思うと、その頃の私は何に対しても興味を持たないとてもかわいくない子供だっただろうと思う。
そんな頃、両親は私に色々な習い事をさせていたけど、特に好きだったのは『習字』だった。
最終的に、私はずっと『習字』だけを続けた。
中学の頃は『書道部』に入り、色々なコンクールに作品を出し、たくさん入賞した。
でも、両親がそんな私をほめる事はなかった……というか、そもそも家にいる事自体ない。
それでも、習字が好きだったから特に気にはしていなかった。別に両親に認められたくて続けていたワケでもないからだ。
まぁ、メイドや執事がほめてくれたのは、素直にうれしかった。
ただ、そのまま高校に入学して一年生が終わった後。私を取り巻く環境が少し変わった。
私は、高校も部活はもちろん『書道部』に入っていた。
しかし、私が二年生になる時、先輩たちが卒業してしまうと、私以外の部員がいなくなってしまう……という事になってしまった。
結局、一年が入る前に書道部はなくなる事が決定した。
まぁ、書道部がなくなっても先生がコンクールには個別で出してくれると言ってくれたので、実はあまり気にしていなかった。
そんな時だった。彼女『
「コレ、先輩が書いたんですか?」
「え?」
その日はいつもの様に書道室でコンクールに向けて作品を書いていた時だった。
ただ、最初。私はこの女子生徒がどこから現れたのか分からなかった。それくらい音も立てずに突然この場に現れた様に思えたくらいだった。
「あっ、あなたは?」
「あっ、すみません。私は二本木恋って言います」
「二本木……」
「恋です。恋愛の『こい』と書きます」
「なっ、なるほどね。あっ、私は黒井マリナって言うの」
「黒井先輩ですね」
「それで、どうしたの? こんなところに新入生がくるなんて……」
「えっ、あ……えと。ちょっと……その」
恋ちゃんの様子から、私は「迷った」という事を察して、彼女を教室まで送り届けた。
「それじゃあ、私はコレで……」
そう言って書道室に戻ろうとしたところで、恋ちゃんが「あのっ」と私を呼び止めた。
「はいっ?」
「また行ってもいいですか?」
私はその言葉に一瞬耳を疑った。今までそんな事を言ってくれる人はいなかった。
「いっ、いいよ」
「じゃあ、また放課後行きます」
その次の日に彼女が放課後来てくれた時は本当にうれしかった。そうして、私たちは仲良くなった。
「私、先輩の作品。好きです」
「え」
だから、いきなり彼女からそんな事を言われて驚いた。でもそれ以上にうれしかった。
そんな彼女が他の人たちに好かれないはずがない……私はそう考えた。
現に彼女に救われたという人がかなりいた。そこで私は、彼女のファンクラブを作ることにした。
そこから私は変わった様に思う。
元々あまり人と関わる事自体を避けていたけど、ファンクラブを作るとなるとそんな事を言ってはいられない。
だから、色々な人と話す様になり、私自身も変わったらしく「明るくなったね」と言われる様になった。
そして、今ではファンクラブのメンバーいや、会員は一クラス分くらいほどの大きなモノになった。
私を変えてくれた彼女から生徒会の誘いを受けた時、私は「喜んで」と答えた。
ずっと一緒にいたメイドや執事たち以外から、私の作品をほめてくれた彼女の役に少しでも立てると思っていたから――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ……と、黒井先輩いたんスか」
「吐き気はおさまったかしら?」
「まぁ、だいぶよくなったッスけどまだお腹がちょっと……」
そう言って上木は自分のお腹をさすった。
「全く、食べ過ぎよ」
「いやぁ、おいしそうなモノを見ると……つい」
上木の言葉に黒井も「まぁ、気持ちは分かるけど」と苦笑いで返した。
「でも、なんで黒井先輩がここにいるんすか? 別に執事さんたちもついていてくれたし、ここにいる必要はないと思うんすけど」
「ん? 確かにそうね。でも……」
「??」
「今、二人きりにしてあげないと多分、勇気を出せないだろうから」
黒井の言葉に上木は、分からず首をかしげた。
しかし、すぐに何を言っているのか分かったらしく「ああ!」と言いながら手をたたいた。
「でも、いいんスか?」
「何を?」
「俺は、てっきり黒井先輩は先輩と二本木が上手くいくのは嫌なのかと思っていたッスから」
「………」
上木の言葉に黒井は黙り、少し歩き出した後。
「そうね。確かに、二人が上手くいくのは私としては面白くないわね」
「…………」
「でも」
「でも?」
クルッと回り、後ろを歩いていた上木の方を向き――。
「自分の大切な人が幸せになるのなら、こんなにうれしい事はないでしょう?」
そう言ってかわいらしくウインクをしてきた。
「……そうッスね」
上木はそんな黒井に対し、小さく笑って答えた。そして、二人はゆっくりとお互いの『大切な人』がいる部屋へと向かって歩いていった。
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