第3話
そうして、今日。
この三時間後にはそのクリスマスパーティーが黒井の家で開催される……という状況に至っている――――。
ちなみに『クリスマスパーティー』の話が出たのは一週間くらい前の話で、休みがなくプレゼントを買いに行けるのは今日くらいしかなかった。
「……で、先輩は何を買うつもりなんすか?」
「ん? ああ、やっぱり普段使いを考えてノートと文房具を……」
「え」
「なっ、なんだ。ノートや文房具なら使い道に困らないだろ」
「いやいや、先輩。こういった『プレゼント』というモノに対してこういったモノは避けるべきっスよ」
「なに、そうなのか」
俺はここに来て新事実に驚いた。
「そうです。この『プレゼント』で必要なモノは『使い勝手がいい』と『特別』というモノが大事」
「いっ、いやでもな。コレでもらってもいらないから……と言われて捨てられるのは嫌だろう」
「確かにそうです。ですが、この文房具も一見使い勝手が良さそうではある。ですが、そもそも文房具は人によっては『好み』というモノがあります」
「たっ、確かに」
特に気にしない人もいるだろうが、気にする人は「ここじゃないとダメ!」というこだわりを持っている。
「もし、この文房具をもらって二本木や黒井さんにとって使いにくいモノだった場合……」
「最悪、捨てられるかも知れない……だと」
その最悪の事態だけは避けなければいけない。
二人がそんな事をする人だとは思えないが、もらうだけもらって忘れた頃に結局一度も使わずに……という事はありえる話である。
なおかつプレゼントの中でも比較的『無難』と言われている文房具で失敗するという事は、将来的にプレゼントを選ぶ時も『無難』を選んだつもりが、失敗してしまう可能性は十二分にある。
「それに、これは女性向けのモノでもあります。これが仮に……仮に俺に来た場合の事を考えると……」
「!!」
そうだ。きちんと上木の事も考えて選んでいたはずなのに、気が付けば『女子寄り』の考えをしてしまっていた。
コレでは、万が一俺が選んだものを上木がもらった場合リアクションに困ってしまう。
「まぁ、先輩のプレゼントを今こうして教えてもらっているのでそれをもらっても別に驚きはしないっスけど」
「…………」
優しい……なんと優しい答えだろうか。俺は上木の優しさに思わず感動した。
「……まだパーティーまでには時間がある。やはりここはもう少し考えてみるべきだな」
「……そうっスか。じゃあ、俺は俺で買うので、一時間後にここに集合って事でいいっスか?」
「あっ、ああ」
「俺も俺でプレゼントを買わないといけないんで」
「そっ、そうだったな。悪い、手伝ってもらって」
「いえ……。ところで、俺は色々言いましたが結局のところ。一番なのは、その人が『考えた』という事実だと思うんスよ。俺は」
「え」
「他の人に何を言われたって、ちゃんと考えたのなら、自信を持てばいいっていう話ッスよ」
「…………」
この時、俺はまたも感動した。いや、それ以上にそう言い切る上木が、とてもかっこうよく見えた。
しかし、上木の言うとおりでもあるな……とも思う。
そして、守りかつ安全な方法をとろうとしていた自分をはずかしいと思った。誰がなんと言おうと結局は、その人の気持ちが一番大事なのだ。
「じゃあ……頑張って下さい」
「ああ、そっちも」
そうしてお互いの健闘を祈って、親指をグッと立て、俺たちはその場を離れ、別れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……うーん」
しかし、俺はまだ悩んでいた。
確かに、上木の言っていた事は理解出来る。だが、それは相手が決まっている場合なのではないか……と、今回は誰に当たるか分からない。
そうなれば、やはり『無難』や『普通』と言われるものの方がいいのではないか……と思えてしまう。
でも、それで失敗するのも……。
「うーん」
この時、俺は気が付いていなかった。真剣に悩めば悩むほど、自分の顔が強張ってしまうという事を。そして、それを見た周りの人間がどう思うか……という事を。
「ひっ!」
「なっ、何どうしたの?」
「あっ、あの子。雑貨を見ながら怖い顔しているんだけど」
「えぇ……」
しかし、俺にそんな会話を店員の彼女たちの声は当然の様に届いてはいない。
そもそも俺は見られているという事も、そんな話をしているという事にも気がついていない。
「ただ、こういったモノをすでに持っている可能性があるな」
とりあえず、何を選ぶにしても『すでに持っているモノをあげる』という事も避けないとな……と、俺は店内を見渡した。
「あっ、でも。あれだけ真剣な顔で商品を見ているって事はもしかして……」
「なになに?」
俺の様子からどうやら『彼女のためにプレゼントを必死に選んでいる学生』とさきほどの女性店員たちは感じたようだ。
「……他にも少し見て回るか」
俺はそう独り言をつぶやき、その店を後にした。
そんな俺の後ろ姿を見送った店員は密かに「がんばれ」とエールを送られていた事を俺は全く知らない。
「それにしても個性……か」
ふと考えた。
確かに、個性に寄せれば『同じものを買ってしまう』という事は避けられる。だが、そうするためには己の事をよく理解しておかなければいけない。
「俺の個性……となると、やはり勉強になるのか」
しかし、残念ながら俺はまだそこまで『自分の個性』を理解出来ているとは言えない。
だからこそ、またもノートなどの文房具を手に取ってしまう。
しかも、先ほどとは違いそれこそ授業で使うような大学ノートの五冊まとまったモノを手にしていた。
「……と、コレはさすがに違うか」
俺は手に取ったところで我に返る。
「……ん?」
ちなみに、この『プレゼント交換』でのプレゼントの予算は特に決められてはいない。
しかし、ここで高いモノを渡せばそれをもらった相手がその対応に困るのは目に見えている。
それは、相手がたとえ恋ではなかったとしても……である。
だが、今。俺の目の前にある『それ』は、特別高くもなく、なおかつ『自分らしい』と思えるモノだった。
「……そろそろ行かないとな」
時計を見て俺は、あせった。いくら「色々見て決める」と言っても、あまりにも時間をかけすぎた。
俺はすぐに『それ』を手に取り、レジへと急ぎ、会計を終え、待ち合わせをしていた場所に着いたのは上木と待ち合わせした時間ギリギリだった。
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