20話 剣士、アキネス⑤

「それじゃあ、今日はひとまずかいさーん!」


 エルティナは元気そうにそう言ったが、僕は何をすればいいのかが分からなくなった。……というよりも何をしようかとても迷っていた、の方が正しいかもしれない。

 ギルドから少し歩けば商店が並んでいる。この世界の食文化はまだまだ未知のものが多いし、魔法で動く道具というのも見てみたい。はたまた、単純にこの街を探検してみたかったりと僕の好奇心は当分尽きそうもないのである。


「おい新い……アキ、ちょっと付いてこい」


 エルティナとファレルが思い思いに街中へと消えていくなかで、僕はアキネスに呼び止められた。

 このアキネスという人物はいまいちつかみどころがないので、今から何処へ連れていかれるのか分からない。こういう時にファレルの読心術って便利だよな……。


「ボーっとしてないで早くついて来いよ?」


 少し考え事をしていただけではぐれてしまいそうなほど彼の徒歩のスピードが速い。もう仕方がないので特に何も考えることなく足早に付いていくしかなかった。


 そして到着したのは一軒の武器屋。入口横のショーケースには剣やよろいの一部なんかが飾られていてとてもカッコいい。

 アキネスはそんなものには目もくれず、店内へと入っていったので僕もその後を追うように店に入っていった。


 店内はまさに武器屋、という感じで様々な武器が所狭しと並べられている。

 一言に剣といっても、日本刀から西洋剣、青龍刀まで幅広く取りそろえられているし、長さも素材も種類も全く違う剣が同じ「剣」として一括りになっているのが不思議なくらいだ。

 それにしてもこれを見せに来てくれたのだとしたらアキネスもかなり気の利く人である。わざわざ案内してくれるなんて……。


「フリット、いるんだろ?頼みごとがあってきたんだ」


 客が店員を呼ぶことは不思議な事ではない。ただ、その店員であろうフリットという人物とアキネスの間に客と店員以上の何かがあることは呼び方で分かる。


「アキネスか、今日最初の客がアキネスとはがっかりだよ」


 現れたのは背が高く痩せ型の店員。すすのような黒いしみが服や顔についていて、このお店の店員でありながら鍛冶屋であるのかもしれない。

 それにしても、いくら顔なじみとはいえ態度が横暴すぎるのだが……。


「こいつに制作の魔法を教えてやることはできるか?」


「こっちだって暇じゃねぇんだ、知らない奴に魔法を教えるほど俺はお人好しじゃないんでな」


「そうか、来月から素材の割当優遇を別の店に移すことにしておこうか?」


「冗談じゃねえ!何がどうなったらそういう結論に至るんだよ!?」


「じゃあこいつに魔法を教えてやってやれよ、どうせ客が来なくて暇だったんだろ?」


「うるせえ、たまたま今日は客が少ないだけだ。……はぁ、一時間だけな」


 うわぁ強引な取引。もう少し上手なやり方は無いのかと思ったが、魔法を教えられる人がこの人だったとするならば昨日のアキネスの表情にも合点がいった。


「一時間だけだと!?冗談じゃない、覚えられるものもそれでは覚えられないだろ?」


「十分な時間だよ、そもそもこいつに才能があるんだったら一時間で余裕だろ。無理だったら才能がない、それだけの話だ」


 すすだらけの顔がにやりと笑った瞬間に僕はぞくりとした。この人はあまり得意な人間じゃないかもしれない、いや、むしろ性根が腐っているとすら思った。


「大丈夫です、一時間でも」


 だからこそ、この人を打ち負かしてやりたいと思った。

 製作の魔法を一時間で覚えられたらこっちの勝ちだ。

 アキネスは僕の言葉に若干驚いたようだったが、僕の顔を見た途端「やれやれ……」と呟いた。こうなった僕は止められない。


「仕方ねーから一時間でいいよ、俺は店内にいるから何かあったら呼んでくれ」


 アキネスがそう言うと、僕は店の裏手へ案内された。

 こじんまりとした作業台と所々にある木材や鉱物。溶鉱炉のような所はなかった。


「ほら、これ。緑の魔石だ。それをケースに嵌めれるように変形させろ」


 と言われて無造作に投げられたのは明るいエメラルドのような正方形の鉱石。

 目の前には宝石を嵌めこむのにぴったりな木のケースが置いてある。

 しかし、それ以上の事は言われなかった。どうやら教える気はないらしい。


 仕方がないので向かいで同じことをやり始めたフリットを見てみる。

 指先で研磨するように触っていくと少しづつ形が変形していく。なるほど、形を変えてやるのはそういう感じなのか。

 僕も真似してやってみると面白いように形が変わり始めた。この調子だ、僕はどんどんと没頭していき、美しく輝くダイヤモンドカットにまで仕立て上げる。

 出来上がったものを見ていたら、ふとフリットが呆れたようにそれを見ている。


「まあ、初心者にしては上出来なんじゃないか……?」


 その声は、少し震えていたような気がした。


=====


【おまけ】


 まさか本編だけで二千文字超えるとは思っていませんでした。

 本当は今回もおまけをつけようとしたのですが、流石に一話の量が多くなってしまったので今回はおまけは書きません。

 その代わりに、おまけだけの回を書きたいと思います!

 明日にはおまけ回投稿しようと思っているので、そちらもお楽しみに!

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