第22話 夢

 ━━1月8日

 冬休みが明けて2日目。今日は約2週間ぶりに美零さんがお見舞いに来てくれることになっている。


 昨日の夜に美零さんから、『明日からお見舞いに行く』とメールが来た。そのときの嬉しさは今でも忘れられない。


 久しぶりに美零さんと話せるのが楽しみで、無意識に歯磨きや洗顔をいつもより入念にやってしまう。


 「おはよー。朝ご飯の時間だよー。」


 大翔が身支度を整えていると、藤咲さんが朝食を届けに来てくれた。


 「おはようございます。」


 「ん?なんか今日はいつもより元気だね。なんかいいことでもあったの?」


 普段はアレだが藤咲さんは案外人のことをよく見ているらしい。そのせいか、大翔のちょっとした変化にもすぐに気づいてくれる。


 「今日は久しぶりに美零さんが来てくれるんですよ。」


 「えーそうなんだ。私はてっきり大翔君は振られたもんだと...」


 「振られてないし、そもそも付き合ってもいません。何回言えばわかるんですか。」


 「っふふ。大翔君が面白いからつい。ね?」


 可愛らしく手を合わせて上目遣いでこちらを見てくる。あざとい。


 初見だったらイチコロだっただろうが、藤咲さんのことをよく知っている大翔にはかなり耐性が付いていた。


 「か、かか、可愛く言っても無駄です。」


 「あははは。やっぱり大翔君は面白いね。じゃ、私はほかにも仕事があるんで。」


 藤咲さんは敬礼のようなポーズをとって仕事に戻って行った。


 朝から元気な藤咲さんに疲れ、ちびちびと朝食を食べていると、母からメールが来た。


 『今日の4時ごろに山内先生がお見舞いに行くってよ。』


 (そういえば前に来た時、冬休みが明ける前に来るって言ってたような気がする。まあ結局来なかったけど。)


 『わかった。』とだけ返信して、再び朝食を食べ始める。


 「はあ。やっぱり食べづらいな。」


 体の節々が痛む。特に腕がかなりの筋肉痛で少し動かすだけでじんじんしてくる。


 その原因は、リハビリが解禁されてから一緒に始めた筋トレのせいだろう。


 部活をしていた時にやっていたものの中でも軽めのものをやってみたのだが、長い間運動をしていなかったせいで、体によく効いたようだ。


 朝食を食べ終え、予定の時間より少し早いが、リハビリルームに行くことにした。



 ━━「はあ。今日も結構きつかったな。」


 今日のリハビリを終え、部屋に戻る前に少し休憩をとっていた。


 普段使わない筋肉を使うので、最初は1つのメニューにもかなりの時間がかかってしまったが、今ではだいぶ慣れてきた。


 正午になったころ休憩を辞め、自室に戻り昼食を食べ始めた。


 昼食を食べ終え、山内先生が来るまでの間、だいぶ体に疲労がたまっていたので、少しだけ昼寝をすることにした。


 3時にアラームをかけて目を閉じる。すると、大翔の予想以上に疲れていたようで、すぐに眠りについてしまった。



★✦★✦★✦★✦★✦★✦★

 目を開き、周りを見渡す。大翔は自分の知らない場所にいた。


 自分が何のために、どうしてこんなところにいるのかわからない。


 大勢の人ごみの中でを遠くから見守っている大翔。


 大翔には今の状況がよくわからなかったが、けれど、ここでを待っていれば、その理由がわかる気がした。


 その何かは黒い影のようで、輪郭すらはっきりしない。


 「あれは、なに?」


 影はゆっくりと大翔に近づいてきていた。


 得体のしれない影が近づいてくる。それでも不思議なことに恐怖はない。大翔の心はどこまでも落ち着いていた。


 だが、影が近づいてきて、ぼやけていた輪郭が徐々にはっきりしていくにつれ、胸が締め付けられるような思いがした。


 自分でもこの思いが何なのかわからない。今まで一度も感じたことのない感情だ。


 「あれは、ひと?」


 少しづつ影に形が付いていく。その人のような影は女性のように見えた。


 「だれ?」


 顔の部分に黒い影がかかっているせいで誰だかわからない。だが、近づいてくるにつれ、確実に影は薄くなっていった。


 あと少し、あと少しで影の正体がわかる。胸の締め付けは今までにないほど強まっていた。


 だが、影の正体まであと一歩というところで突然、影の歩みが止まった。


 影は少しの間動きを止め、後ろを振り向いて元いた場所へ戻って行った。


 「!?」


 だが、影が後ろを振り向いた一瞬の間、黒い影がかかっていたはずの顔が大翔にははっきりと見えた。


 「!?」


 後ろを振り向く一瞬にも満たない短い時間。影がかかっていて本来は見えないはずの顔が見え、2人の目が交わった。


 一瞬の出来事。そのはずだった。それでも大翔には断言できる。あの影は確実に美零さんだった。


 そして、大翔が見た美零さんの瞳には涙が浮かんでいた。


 「美零さん!美零さん!どうしてこんなところに!?」


 大翔が必死になって声をかけるも、美零さんが戻ってくることはなかった。


 だが、一瞬。ほんの一瞬だけだったが、美零さんは今にも泣きだしそうな顔でこちらを見た気がした。


 気が付くと、胸の締め付けは収まっていた。



★✦★✦★✦★✦★✦★✦★

 自分の名前を呼ぶ声に起こされる。


 目を開くと、そこは大翔のよく知る病室だった。


 (さっきのは全部夢だった?)


 あまりによくできた夢に気が付くことができなかった。夢の中で見たものや、感じた思いが偽物だとは思えなかった。


 少しの間夢のことを思い出していると、ドアをノックされていることに気が付いた。


 (やばい。誰かが部屋に来てたの忘れてた。)


 「入っていいですよー。」


 どうやら目覚ましでは起きられなかったようで、時刻はちょうど4時頃だった。


 完全に目は覚めてなかったが、さっきの声は内山先生だろう。


 (久しぶりに来てくれたんだ。さっきの夢のことはいったん忘れよう。)


 ただの夢のはずなのになぜか大切な気がする。忘れてはいけないような気がした。


 

【あとがき】

 突然なんですが、僕はパソコンを使って書いてるのですが、今までたまに―――― ←を使っていて、パソコンだと全部つながっているように見えるんですが、スマホだと全然そうは見えないみたいで、変な感じになっていることに気が付きました(笑)


 もしかしたら僕だけなのかもしれませんが、今までの話の中で、そういう間違いがあったら、できるだけ直していきます。


コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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