第7話 苔

 若い女性の間で、苔を育てる流行があるという。癒されるとのことだが、渋い趣味だと感じるのはオジサンだけかもしれぬ。もちろん、癒される苔の種類には限りがあって、何でもいいというわけではない。

 苔は、乾燥に強いものなら街中でも育つが、基本的に湿気の多い山奥で自生する。日本の苔は、一八〇〇種類あるらしい。随分と古い種族のようで、根ではなく仮根でへばりついている。なかなか逞しい。

 逞しく育つ苔だからこそ、手軽に育てようとする人も出てくる。でも種類によっては、世話が大変だったり、そもそも採ってはいけなかったりする。別の環境に移された苔は、迷惑に感じたりはしないだろうか。

 宮崎県南部に、世界で唯一、苔専門の研究所がある。研究所のある市内には、自然のままの渓谷があって、約三〇〇種類の苔が自生している。中には、絶滅危惧種のカクレゴケもある。さすがにこれは採れない。

 地元の人には黄金色に輝くとも言われるカクレゴケ。実際は緑色がメインで、緑の多い渓谷では本当にカクレている。何時間か探したけれど見つからず、写真を見せていただいて我慢した。カクレ上手の苔だ。

 カクレゴケの渓谷には伝説がある。氏神が岩を抉って石鬼を造り、悪い鬼を退治。抉ったところが滝になり、渓谷の流れを豊かにした。カクレゴケの癒しには、神の許しが要る。ここで一句。苔茂る石段へ風来たりけり。

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