生に対する諦念と苦しみがにじみ出している苦界の一風景を描いた佳作

生きること、自分自身であること、社会の一員であること、性の対象であること……あらゆることが苦しみに変わります。ギリシャ神話のミダス王は触れるものを全て金に変えてしまいましたが、主人公は触れる世界を全て苦界の穢れに変えてしまうようです。その中の成員になりすまして生きなければならない宿命がどれほどつらいものなのかが伝わってきます。
ウロボロスの蛇のように、あるいはメビウスの輪のように始まりも終わりもない世界で、うたかたの愛とやすらぎを得て、それから失望と裏切りの日常に戻る。その痛みが伝わってきました。