第10話 第二章 魔法姫(6/7)

【約3400文字】



【トロピ界に召喚された勇太は、ラスト勝負に勝ってシールをゲットしないと、現実世界に帰った時に焼死する。しかし、ラスト勝負をする/しないはミマの一存にかかっていると、蛇のナーガが言うのである】



「必ず勝負をするって訳ではないっすよ! 召喚した異世界人がこのトロピ界で悪さをしたり、態度が悪くて依頼者の意に沿わないクエスト結果だったりすると、ラスト勝負をしなくてもいいんすよ!」


 なんだよ、それ! そんなの困る! 俺の命がかかってるんだ!

「俺が生きるか死ぬかは、ミマの気持ちにあるのかよ!」

 不安が溢れ出す!


 強気のナーガ。

「姫様の機嫌を損ねると、勇太は死ぬっすよーっ!」

 地面にいる蛇だけど、意地悪顔で見下ろすようだ。


 比例するように、勇太の顔から血の気が引いていく。

「そんなあ~~。毒見がうまくいっても、ダメなの?」


「ダメな時はダメっす!

 召喚された異世界人は、トロピ界では不死身っすからね。悪いことをやりたい放題っす。

 毒見じゃ無理かも知れないっすけど、異世界人の能力によっては、1人で1国を乗っ取ることだってできるっすよ。

 そうなると、ラスト勝負無しにシールを剥がすっす。すると、異世界人は強制送還されて、トロピ界は助かるんすよ。

 異世界人は焼死するっすけどねぇ~~」

 べーと言わんばかりに赤く細長い蛇舌を出して、2つに割れた先端をヒラヒラとさせて馬鹿にした。


 異世界人は一種の脅威なのだ。


「国の乗っ取りとか、全然、しないってっ! だから、ラスト勝負はちゃんとしようよ」

 気分的には勇太は泣いていた。


「国の乗っ取りとまでは行かなくてもっす、不死身をいいことに悪いことをした異世界人は過去にもいたっすからね」

 厳しい顔を緩めない。蛇には泣き落としは効かないのだ。


「ナガイ!」

 ここにきて、ミマの怒りが爆発する。静観していたが我慢できなくなったようだ。

「かわいそうなことを言ってはなりませんわ! 勇太はあたしが呼んだのですわ。無事に帰っていただく責任が、あたしにはございますわ」

 学級委員長のように見下ろした。


「姫様ーーっ! 異世界人はみんな不死身の霊体っすよ。何をやらかすか分からないっす。気を許してはならないっすよっ!」

「勇太は毒見役です。変なことはやりませんわ」


 ちょっと、今、予想外の言葉があった。


『霊体?』


 勇太には別次元の言葉だ。

「ねぇ、不死身の霊体ってどういうことなの? 俺って霊体なの?」


 ナーガは至って普通に勇太を見る。

「召喚の時に聞いてないっすか? 異世界人の体は霊体っす。肉体に思える体は、霊体が肉体のように振舞ふるまっているだけっすよ」


 イラシャがそんなことを言ってたような気もするが、意味がよく分からなかった。不死身の理由は幽霊だからなのだ。

 でも、自分が幽霊になったなんて、まるで自覚がない。


 トントン ペチペチ スリスリ

 頭やほおを軽く叩いたり、腕をこすったりするが、いつもと変わりがない。

「全然、肉体だよ」


「アタイの言葉を聞いてなかったっすか? 肉体のようにっすよ。霊体と言っても機能も感触も肉体と同じっす」


「俺って死んだの? 幽霊になったの? 幽霊だから、俺は不死身なの?」

 自覚もなく死んでしまった浮遊霊の気分。


「違うっすよ! 勇太は死んでないし、幽霊じゃないっすよ。肉体から抜け出た霊体っす。


 勇太が帰る時間は、ここに来た時間と同じはずっす。だから、元の世界に肉体は置きっ放しっすよ。霊体だけがここに来たっす」


 なるほどだった。

 行く時間と帰る時間が一緒と言うことは、一瞬と言うことだ。

 つまり、肉体は現実世界に留まったままと解釈できる。


「肉体はここに来ていないのか」

 勇太の肉体から抜けた霊体が、肉体の真似まねをしているらしい。


 ナーガは勇太よりミマである。

「姫様! 異世界人は不老不死っす。悪いことをやりたい放題っすよ。

 だから、気を許してはならないっすよ。ラスト勝負も、その時になったら、よく考えるっす」


 勇太を極悪人であるかのように警戒するナーガであるが、ミマは違う。


「ナガイ、勇太は勘の毒見役ですのよ。信頼がなかったら、あたしが毒にやられてしまいますわ。

 勇太、ごめんなさいね。クエストが終わったら、ちゃんとラスト勝負をして、無事に帰っていただきますわ。安心するのですわ」

 ミマは勇太にすまなそうな顔をして両手を合わせた。


 勇太には可愛くお願いされているみたい。

「ありがとう、全身全霊を込めて、毒見役をがんばるよ。霊体だけに」

 勇太の全身は霊体だから、全身全霊と言うと全部霊なのだ。


「霊体だけには余計でしたけど、嬉しいですわ」

 意味は伝わらなかったようだが、ミマは笑顔をくれた。声にも心がこもっていた。


 これが、また可愛い!

 勇太は見えないパンチを食らった気分。



 こんな女の子を毒殺なんて、とんでもないな!

 絶対に俺がミマを守ってみせる!

 拳に力が入る勇太だった。



 だがナーガは、まだ厳しい表情を崩さない。

「それでも言わせてもらうっす。姫様に悪いことをしたら、アタイがラスト勝負を阻止するっすからねっ!」

 蛇眼じゃがんがキラリと光った。


「だから、悪いことなんてしないよ!」

 しつこいので困ってしまう。


「男はスケベっす! スケベも悪いことに入るっすよ!」

 蛇眼がどんどんとにらんでくる。


 ゲッ! 男の本質を見抜かれてる!

「し、しないよ! スケベなことなんて、しないって! でも、ラスト勝負はシールに触らないと、できないんでしょ?」

 シールを貼った場所が、Hな場所ってこともあるのだ。


「それが、どうしたっすか?」

「シールは体の大事な所に貼ってるって、イラシャさんが言ってたから。ミマの大事な所って、どこなのかなぁって」


 ミマを見た。

 縮こまって赤くなってる。

 期待だ!


「イラシャって、誰っすか?」

 ナーガは知らないみたい。

「イラシャ・イマセさんだよ。俺を召喚した人だよ」




「やっと、スイッチが入ったケロ!」




 誰? ナーガよりも、高い声だ! ミマでもない、別人の声!  女の子か? 子供か? 知らないうちに一人増えたの?


 キョロキョロ

 勇太は辺りを見回すが、他に人間はいないし。2匹目の蛇も見当たらない。


 声は勝手に続ける。

「なんだ? ……ケロ? 見えないケロ! 邪魔な布ケロ! 食ってやるケロ!」


 ビリ ビリリッ!

「キャーーーーッ!」


「うわっ!」

 ミマの左胸!

 ビキニの布が突然に破けてなくなった!

 と言うよりも、真ん中に大きな穴がポッカリといた!


 見えちゃうじゃん!

 勇太は慌てるやら、嬉しいやら。


 でも、違う!


 さらされたのは、ミマの素肌じゃない!

 カエルの絵!

 色が塗ってない漫画のようなカエルの絵だ。

 そんな絵がミマの左胸に貼ってある。


 おそらく、これがシールである。


 男のてのひらくらいの面積を持つ丸いシールだ。

 晩秋、初冠雪はつかんせつが山の頂上を覆うように、シールが左胸の頂上を優しく覆いながら貼ってあった。


 だが、おかしい。シールにはシワがないのである。

 女の子の胸は柔らかい曲面をしている。その曲面に平面のシールを貼ったのなら、どこかに余りのシワが生じるはずなのだ。

 だが、このシールには1筋のシワもなく、肌にピタリと貼ってあるではないか。


 どうやら、高級貼り薬のように伸縮性に富んだ材質のようだ。


 しかし残念である。

 ピタリな割にはどんなに角度を変えて見ても、頂上の突起部分は確認できない。シールは突起を目立たなくする性能も兼ね備えているようだ。

 勇太は未知なるたくみの技を実感したのだった。



 そう! これが、勇太が帰る時に剥がすシールなのだ!

 カエルの絵だし、帰る時に剥がすのだから、カエルシールと言ってもいいだろう。と、言うより、絶対に語呂合ごろあわせだ。


 そして、ビキニにできた穴は大きかった。

 シールの面積よりも広く、かつ、が容易に抜け出るくらいに穴は広かった。



 ポロリッ!

 ポヨンッ!



 ぬ、抜け出た! 


 一瞬、カエルシールが跳ねたようにも見えた。


 しかし、違う!


 が丸ごと抜け出たのだ。

 もう、皆さんはお分かりのことと思うが、とは、あの浮かび上がるようなミマの柔らかい胸の体積を言っており、それが丸ごとビキニの穴からポロリとそっくり抜け出てしまって、ポヨンと跳ねたという訳だ。


 ヨヨン ヨヨン ヨヨン


 余韻!

 抜け出た胸には微妙な揺れが残っている。


 カエルシールが開けた穴は十分に大きいと思ったが、実のところ少々窮屈だったのだ。ふもとわずかにしぼられ、山がより急峻きゅうしゅんとなり安定感を欠いている。


 つまり、胸は付け根を絞られて、より揺れ易くなっていたのだ!


「ヤベッ!」

 ブォッ! パーッ!


 勇太の鮮血が、再び空中に舞った。


 あえて言おう。その空中散布は必然であったのだと。







【優しいミマによってラスト勝負はやってもらえそうです。そして、勝ってゲットするはずのシールはミマの左胸に貼ってありました。そんなポロリに、勇太は再度出血したのでした。

 次回、シールに名前がつきます。さらに、新たな登場人物も……。そして、少しあらかじめ決めた文字数より多いです】






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