第3話 図書館に行こう

 メイストリートに戻ったことで賑わう露天商ロードに戻ることが出来た。露天商ロードは屋台へと変貌を遂げて食事を提供している。情報収集と晩御飯を取る為、屋台で買い物をした。そこで宿の場所が聞くことが出来た。

 格安で評判が良い宿と聞いたところ、古い洋館を紹介されたのだ。


「ここで合ってるよな?」

「合ってるだろ。キュウエンの館って書いてあるし」

「そうか……」


 記憶にあるヨハンは幽霊やゾンビが苦手だ。この世界はゴースト系のモンスターが存在する。実物しない者としてではなく魔物として存在するのだ普通に恐い。正直会いたくない。

 戦士であるヨハンがいくら剣や斧を振るおうとまったく歯が立たないのだから。


「中に入ろうぜ」

「あっ、ああ」


 恐る恐る洋館の扉を開いて中に入る。


「いらっしゃいませ」

「うわっー出たー!!!」


 蝋燭の揺らめきと共に腐った死体に出迎えられる。俺は叫び声を上げてランスの服を掴んで振り回した。


「ヨハン。大丈夫だ。こちらの方は幽霊じゃない。単なる老婆だ」

「えっ?」


 ランスに諭されてもう一度腐った死体を見る。明らかに骸骨のお化けだと思うほど痩せてガリガリの婆がいた。


「ほほほ、楽しいご友人ですな」

「すみません。二人で泊まりたいんですが」

「お二人なら銅貨3枚になります」

「では、とりあえず一週間お願いします」

「おいっ、ランス!」


 こんな腐った死体にしか見えない老婆がいる場所に一週間も泊まるなんて嫌だと抗議の声を上げる。


「仕方ないだろう。俺達は金がないんだ。ここまで安く泊めてもらえるんだぞ。ありがたいとは思わないのか」


 確かに金に余裕があるわけじゃない。


「うっ、確かにありがたい」

「なら従え」

「……わかった」


 ちなみに銅貨三枚は元の世界で三千円と同じ意味だ。ヨハンはしぶしぶ承諾して、部屋の鍵をもらう。


「夕食はどうされますか?」

「夕食もあるんですか?」

「ええ、銅貨1枚で黒パンとスープをお付けしています」

「今日は食べてきたので明日からお願いします。代わりに湯はありますか?」

「半銅貨一枚になります。今から一時間後に部屋の方にお持ちします」

「助かります」


 ランスが老婆から鍵を預かり部屋へと向かう。鍵と言っても簡単な錠を開けるタイプなので、シーフ系の職業じゃなくても簡単に開けることができる。


「本当にここを拠点にするのかよ」

「俺達の現状ではここがベストだ」

「……そうだけど」


 ランスが決めたことなら仕方ないと思えてしまう。主人公のランスの決めたことだ。今は仕方ない。だけど、金を稼げたら絶対にすぐに出て行ってやる。


「それより、明日は朝から城の方へ歩こう。街を把握してないと今日みたいに迷子になるからな」

「そうだな。それに図書館とかあるなら行きたいな」

「えっ!どうしたんだ?」


 ランスが俺の額に手を当てて心配してくる。


「何がだよ」

「いや、勉強嫌いなお前が図書館なんて」

「いいだろ、別に。俺にだって目標があるんだ」

「それはいいことだけど。雨が降らないといいが」


 ランスと他愛な会話をしている内に湯がやってきた。身体を拭いて硬いベッドに休息をとる。藁で作られたベッドの上でステータス画面を見ていた。


名前 ヨハン

年齢 14歳

職業 冒険者(ランクC)戦士

レベル 10

体 力 100/120

魔 力 17/17

攻撃力 100

防御力 89

俊敏性 121

知 力 5

スキル 斧術3


スキルポイント 10


 検閲という言葉を覚えただけで、知力が2も上がってるよ。ヨハンって……どんだけバカなんだ。知らなさすぎだろ。とりあえず勉強しよう。


 ステータス画面を見ながら一つの疑問が浮かんでくる。スキルポイントが10も余っている。本来何かスキルを覚えるときなどに使われるはずだ。なら、覚えるべきスキルがあるんじゃないか?スキルポイントを注視した。


「おっやっぱりスキル欄が出てきたぞ。いっぱいあるな。

ほとんど俺のレベルで覚えれるモノがないな。この中で必要なのはっと」


 スキルを物色しながら、目ぼしいスキルを探していく。気になるスキルが二つあった。


・ヒール、魔力を消費し、体力を回復する。ケガを治すこともできる。威力はその者の知力に比例する。


・経験値アップ、モンスター討伐や訓練などで得られる経験値を1.5倍にしてくれる。


 どちらもスキルポイントを6ポイント使うことで覚えることができる。魔法のスキルであれば、火属性や水属性も覚えられるようだ。


 まだまだレベルの低い上に薬草で金を使わないためにも回復の方が先決に思えてくる。経験値アップがあれば、スキルポイントもたまりやすいんじゃないか?ヨハンのレベルが10だから、多分スキルポイント10なわけだしな。


「とりあえず、魔法を使ってみたい」


 スキルポイントを使ってヒールを覚える。戦士が回復できて何が悪い。

スキルにヒールと表示されたことで、ヒールの呪文を唱えてみる。白い光が生まれて、身体全体が暖かい。光が消えるとなんだが元気になったような気がする。



 体 力 105/120

 魔 力  14/17


 おお!初めての魔法成功だ。ヒールを使うと魔力を3消費するようだ。

体力は元々100だったので、5回復した……知力に比例するってこういうことかよ。


「今の光はなんだ?」

「気にするな」

「気になるだろ普通」

「たいしたことないさ」

「本当か?」

「ああ、とにかく寝ようぜ」

「……まぁ、いいか」


 ランスも疲れているのだろう。短い会話で眠りについた。ヨハンは魔法を使えた興奮で、なかなか眠れなかったが、慣れない環境のせいかいつの間にか寝てしまっていた。


「ヨハン、起きろよ」

「うん?ああ、起きてるよ」

「起きていきなり嘘つくなよ。全然起きてないだろ」

「うるせぇな」

「今日は街の散策をするんだろ。早く起きろよ」


 ランスの怒鳴り声に目を擦り身体を起こす。洗面所など気の利いた物はない。館の井戸を借りて顔を洗う。


「それで、昨日は図書館に行きたいって言ってたけど本当に図書館でいいのか?」

「おう。俺は字も書けないからな。自分の名前ぐらい書けるようにしてから騎士になるぞ」

「確かにそれはそうだな。なら朝食を食べたら図書館に行こう」

「おう。ランスはそれでいいのか?」

「俺は適当に散策してくるよ」

「ズリい」

「ズルくないだろ。俺は普段から勉強してるからな」

「へいへい。サボってた俺が悪うございました」


 適当に朝食を済ませて図書館へと向かう。王都の図書館と言っても、貴族や王族が使うほど立派なものではなく。

 街の商店が共同で出資している寺子屋みたいなものだ。身分証を提示することで、本を読ませてもらえる。

 図書館といっても、貸し出したりはしていない。この世界では本は貴重品なのだ。


「じゃあ、俺は行くからちゃんと勉強しておけよ」

「中に入らないのか?」

「勉強はまた今度な。今日は街を散策してくる」


 本当に図書館まで送り届けると散策にいってしまった。ランスもここで勉強をすれば、知力と魔法のパラメーターを上げることができるはずなのだ。

 どうやらこの世界のランスは騎士=剣士職のようだ。


「どうも、図書館が初めてで、文字とか数字を勉強するのに分かりやすい本ってありますか?」


 俺は図書館に入り真っ先にカウンターに座る司書さんに声をかけた。図書館の中は思っていたい以上に広くて字も読めないヨハンではどこに何があるのかわからない。

 司書さんはピンクの髪に大きな眼鏡を付けた可愛らしい女性が座っていた。


「初めてのご利用ありがとうございます。文字と数字を分かりやすく勉強するための本ですね。こちらなどいかがでしょうか?」


 司書さんは近くに置かれていた本を差し出してきた。そこにはゴブリンでも分かる、文字と数字の覚え方と書かれていた。

 ページをめくると、1~10までの数字が書かれていた。ギリシャ文字でⅠからⅩまで書かれており、ご丁寧にフリガナは日本語で割り振られている。


 この辺は日本製のゲーム世界だからということだろう。


 次に文字の説明が書かれている。文字は、母音、子音に分かれ自分が発言している言葉が、どこに当てはまるかも書かれているので覚えやすい。


「確かに見やすい。これを読みたいです」

「はい。ではこちらにお名前を控えさせていただいてもいいですか?」

「ヨハン。これが証明書」

「ヨハンさんですね。私はアリスといいます。どうぞこれからも当館を活用ください」


 アリスさんのような文系美女に微笑みかけられて嬉しくなる。


 とりあえず自分の名前ぐらいはかけるようになろう。

文字の練習に取り掛かる。この国の文字は母音12個と子音30個を組み合わせて発音する。結構覚えやすく簡単だった。

 12×30=360個の文字とⅩまでの数字を全て覚えた頃。知力64まで上がっていた。言葉として知っていいても、文字を覚えることは相当難しいことだろう。

 一日でここまで知力が上がるのは驚きだが、元々転生者で一度勉強している者としてはこれでもまだ低い方だ。


「ふぅ~これで一通り終わりだな」

「随分と熱心でしたね。もう日が暮れますよ」


 本を閉じて一息つこうとしたら、アリスさんに声をかけられた。


「ええ、俺って今まで勉強をしてこなかったんです。勉強を始めると意外と面白いものだなって」

「ふふふ。口調も随分と変わりましたね。そうですね。本は知識の宝庫です。その楽しみが分かっていただけたのなら何よりです」


 アリスの好感度が上がったのがわかった。


「また来てもいいですか?」

「是非お待ちしています」


 可愛らしい眼鏡女子のアリスに満面の笑みで言われれば嬉しいのは当たり前だ。


「じゃあ近いうちに」

「はい。さようなら」


 アリスに別れを告げて、図書館を後にした。宿では剣を振るランスが鍛錬していた。

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