A-LIVE!

一飛 由

第1話 羽白蒼空というアイドル

 羽白蒼空はじろあおぞらというアイドルがいた。


 小さな芸能事務所の所属ながら、デビューシングルでランキング3位という快挙を成し遂げ、このままいけば時代を築けると言われた逸材だった。


 だが、そんな彼女に訪れたのは、残酷な悲劇だった。


 デビューシングルの発売を記念して行われたミニライブの帰り。


 会場近くにあったコンビニエンスストアのすぐ前の道路で、彼女は無灯火のバイクと接触事故を起こした。


 それでも、通常であれば数週間もすれば退院できるケガで済むはずだった。


 しかし、彼女の場合は違った。


 頭の打ちどころと、打ち付けた場所が悪かったのだ。


 救急搬送された病院では、6時間を超える大手術が行われた。


 一命こそ取り留めたものの、彼女の意識は戻ることはなかった。


 無論、旬な人物だったこともあり、彼女の事故はすぐに全国に報道された。


 テレビの報道番組でも特集が組まれ、法律の改正を求める声や自動ブレーキに関する話題が毎日のように繰り返されていた。


 ただ、そんな情勢も、長くは続かなかった。


 ひと月も経たないうちに、政治家の不祥事や芸能スキャンダルでメディアは塗りつぶされ、羽白蒼空の名前は世間から消え去っていた。


 ――それから2年。


 人々の記憶からも、かのアイドルの名前がすっかり抜け落ちてしまった頃。


 首都郊外に位置する、小さな病棟の一室で、アイドルだった少女は再び目を覚ましたのだった。

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