異界大戦 4

『別に、構わんよ。ここまで眷属が葬られてしまうとは考えてもなかったからな。ここは一旦引かせてもらおうと思うのだが・・・』

「ん?」


邪神龍が、グルフェルの顔を睨みつけてきた。


『まさかこの様な少年に負けるとは・・・ならば・・』


邪神龍の大きな口元が上がったように見えた。


『ただ、私が引く代わりに、そちらの最高戦力を持ち帰らせてもらうぞ?』

「グルフェル様!!」


ラリーアが叫ぶのと同時に、邪神龍も動き出す。その巨体に似合わず俊敏な動きで、グルフェルに向かって襲い掛かってきた。


「させません!」


鬼人族のクティナが邪神龍の前に躍り出ると、大金棒を召喚させ大きく開けた口、目掛けて横殴りに振り抜く! 


ガッキーンキーンキーン!!!


龍の牙と大金棒がぶつかり金属を打ち付けるような音が響き、双方が弾かれる。


『ほう! 竜神の一撃を弾くか・・少年の強化もたいしたものだが、鬼人族の女もどうしてやるではないか』

「はん! うちの大事な人に手を出すなんて良い度胸しているわね! 次はその牙の一つでもへし折るわよ!」


初撃を防いだ事で、隙が空き、グルフェルにを中心に、取り囲むように彼女達が布陣する。


「いい、みんな! グルフェル様に邪龍の指一本でも触れさせないわよ!」

「分かっているって!」

「旦那! 安心しな。絶対守ってやるからな!」

「当たり前です。グルフェル様の支援強化を頂いている私達が負ける訳がありません!」


『はは、これは困ったな。少年よ。愛されているなぁ。羨ましいぞ?』


邪竜の言葉に、グルフェルは赤面してしまっていた。


「グルフェル! 何赤くなっているのよ!」


魔人族のパルフェルカが、そんなグルフェルに活をいれた。


「ご、ごめん! 気をつける!」

『さて、ではもう一度行くぞ?』


邪神龍は、そこで言葉を止め、一瞬動きも止まったかに見えた。


「?」


その瞬間だった。超が付くほどの素早さで、邪神龍はその巨体な長い胴を使って、6人が輪になり防御陣形を取っていた彼女達をさらに外側で取り囲む。

次の瞬間その輪が急激な動きを見せ彼女達を巻き潰そうと一気に縮んだ!


「クッ! ダメ! 物凄い圧!」


彼女達は、グルフェルの支援で強化された体と、自分達の魔法防御を重ね、なんとかその圧力に耐えていた。


「ラリーア姉さま! これでは身動きが・・・」

「確かに。でもこの力が向こうも続く事はありません! 動きが止まった時が勝負です!」


ラリーアの的確な判断で、彼女達は我慢し立て続ける事が出来そうだと感謝していた。

しかし、物事がそう簡単に上手くいくわけが無かったのだ。


龍の胴体の締め付けに気を取られていた、彼女達の真上から物凄い圧力が圧し掛かってきていた。


ギィヤァアアアアア!!!


轟音ともいうべき咆哮が頭上から降り注ぎ、あっという間にグルフェルを飲み込んでしまった。


「い、いやぁあああああああああああ!」


ラリーアがその光景を呆然と見つめ、クティナが悲鳴をあげる。


「な、なんじゃ!? 邪神龍の頭はこっちに・・・」


吸血族のサりダが指を指しながら龍の頭を指していた。

そこには確かに頭が存在していたのだが、でも確かにグルフェルを飲み込んだ頭も彼女達の目の前にあったのだ。


『どちらも本物だ! 我は双頭龍なのだよ。片方が殺されても大丈夫なように念のため一つは隠しておいたんだが、結果的にお前さん達の主人を殺すのに役立ったよ』


嬉しそうに答える邪神龍。


『それでは、約束通りこのまま、異界に一旦引くことにしよう』


そう言って呆然とする彼女達を尻目に異界門の穴へとその巨体な体を沈みこませていく


『さあて、これでこの地に未練も無くなったし、力を蓄え・・・』

『な、なんだ? 急に体が!?』


急に動きが悪くなった邪竜神。


「あれは!?」


誰かが指をさしで確認していった方向を見て、ラリーア達が驚いていた。


グルフェルを飲み込んだ龍の頭よりちょっとした、首の辺りに球体の魔法陣が龍の皮膚を破り外に出初めていた。


「あれは、グルフェル様の魔法陣! ラリーア! しっかりしなさい!」

「な、何?」

「よく見なさい! あれはグルフェル様の魔法陣よ! グルフェル様はまだ生きている!」


『ごめん、みんな。油断したよ』


心配する彼女達にグルフェルの念話が届いた。


「グルフェル様!」

「旦那! ご無事で」

「よかっですぅ!」


皆が、龍の喉元を中心に膨れ上がる魔法陣を確認した。


『念のため、僕の周りに小さくだけど防御結界を貼っておいて良かったよ。瞬殺されずにすんだ』

「グルフェル様! 今助けます!」

「・・・・・・・・・・・」


ラリーアの言葉にグルフェルからの反応が無かった。


「グルフェル様?」

『ごめん、瞬殺はされなかったけど、体半分もっていかれちゃった』

「?!!!!」


グルフェルの無事だと思った彼女達の顔から血の気が引いていく。


『みんな、僕はこのまま封印の制御に全ての魔力を使う・・・』

「そ、そんな、そんな事をしたら死んでしまうのじゃ!」


吸血鬼族のサリダが、必死の形相で叫ぶ。


「ごめんね、サリダ。でもこの機会を逃したら、もう二度とチャンスは無いよ。だから・・・みんな、後の事はお願い。ラリーア今までありがとう」

「・・・グルフェルさまあああああ!」


『や、やめろ! やめてくれー!!』

『一緒に行くんでしょ? 異界に。付き合ってあげますよ』


球体状の封印結界が急激に大きくなり、巨大な邪神龍を包み込んだ。


彼女達が見守る中、結界の球体は一気に小さく縮小し小さな家程の大きさにまでなると、そのまま異界門の穴へと沈んでいった。

すると、それを追うように幾重にも穴を塞ぐように多重の結界が発生。

邪神龍の気配が完全に地上世界から消えたのだった。


「こんな結末、望んでいませんでしたよ・・・」


後の記述では、彼女達はその場から一週間は居続けたと描かれていた。


そして月日は流れ300年近くの時が過ぎ、ファルナザードの世界に平和な時代が続いていた。

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