第6話 目指せ!異世界征服!!
目の前に座る美女、ルノワは異能の力が使える。だからこそ、肝心の質問を彼女にしなければならなかった。
「なあルノワ、お前
ルノワは一度瞑目した後、静かに語りだした。
「――それならば、まずはなぜ私があの場所にいたのかを話さないとな。私はあの場所に五百年ばかり封印されていたんだよ。まあ、ちょっと記憶とは違う場所だったがな」
「五百年!? 封印されていた⁉」
「そうだ。五百年ほど前、私は闇の神ブラゾとして大魔王に力を与え世界征服を進めていた」
――世界征服!?
邪神の類じゃないか、と思ったが話の腰を折ると進まないので、アラタは口を紡ぐことにした。何より、そう語りだした彼女の顔は真剣そのもので、とても嘘や冗談を言っているとは思えなかった。
「そんな中、邪魔する者がいた。私を止めようとする光の神ルミナ等の加護を受けた勇者だ。勇者は次々に大魔王の配下を撃破、ついには大魔王をも打ち滅ぼした。そして世界混迷の原因として闇の神である私も勇者と仲間達による秘術によってあの場所に封印されたというわけだ」
「――世界混迷の原因って! やっぱ邪神の類じゃねーか! やっていること完全に世界の敵とかRPGのラスボスのポジションだろ」
我慢できなくなったアラタのツッコミに、ルノワは「そう褒めるな褒めるな」と照れて頭をかくが、褒めた気は毛頭無いので少し腹が立った。
「人払いの結界が張ってあったらしくてな。お前が来るまで小動物一匹として寄ってこなかった。何の要因かお前が入って来ることができて契約したことにより、
「じゃあつまりお前はあの壁の中に五百年間封印されていたってことか?」
「その通りだ。アラタが近づいてきてくれたから神託の応用でテレパシーを使うことができてな、精神に直接感応するものだから言語が関係なくて幸運だった」
あれは石室に反響していたのではなくて、本当に頭に呼び掛けていたのか。ルノワの言っていることが本当だとすると、もしかしてとんでもない禁断の封印を解いてしまったんじゃないか、とアラタは気が遠くなる思いだ。
そんなアラタはさておいて、「そういえば」とルノワは前置きをして話を進めた。
「いつ元の世界にお前を返せるほどの力が戻るか、といった話だったな。安心しろ、お前が大魔王となってこの大陸を征服しきる頃には可能だろう」
「はあっ!? 俺が大魔王になる!? なんでそんな話になるんだ?」
「なんだ? 邪神と契約しておいて世界征服をしないのか?欲が無いやつめ。謙虚は美徳だが、謙虚すぎる男は大物になれんぞ。神の力の源は信仰や崇拝だ。そういったものを手っ取り早く集めるには世界征服が一番! おすすめプランだ!」
ついに自分を邪神と称するようになったアラタの眼前の女神様は、怪しい勧誘員のように満面の笑みで世界征服を勧めてきた。家に帰るために「ちょっと世界征服~」ってノリで、まだ来て一日のこの世界に喧嘩を売るような真似はできればしたくなかった。
「なあルノワ、ほかに何か方法はないのか? できれば平和的な方法がいいんだが」
「まあ、あるにはあるぞ。私以外の神の力を借りるのだ」
「私以外の神ってさっき言っていたお前を封印した光の神ルミナとかいう神々だろう? 本当に力を貸してくれるのか? また封印されるのがオチだろ」
今しがた自身の口から過去に激しく敵対したと語ったように思ったが、そんな相手に頼み入ごとをするのは面の皮が厚いのかなんなのか。そんな喧嘩をうった相手協力を求めて易々と協力してくれるのか疑問に思う。
「そうとも限らんさ。だいたい私もあいつらに用がある。ん? 復讐なんかじゃないぞ?アラタは疑問思わないか?私たちの言葉が普通に通じていることに」
「何を言っているんだこの女は」とアラタは思った。先ほど“言語知識を共有した”と自分の口から説明したではないか。そんなアラタの考えを見透かしてか、ルノワは返事をまたずに会話を続けた。
「いいかアラタ? 私は五百年間封印されていたんだぞ。それなのに私の知識内の言語や常識が通用している。普通五百年間もあれば人の言語も文化も大なり小なり変化しているはずだ。この村の光景や言葉遣いはまるで封印される前のままだ」
「単にこの村が田舎だからとかじゃないのか? それとも五百年間も経ってないとか……?」
「いいか? もう一度言うが私は神だぞ。時間はきっちりと把握している。それと500年もの時が経てばどんなに田舎でも目に見える変化があるはずだ。お前の世界でもそうだろう?」
「私は神」の真偽はさておきアラタは考える。もとの世界での五百年前というと西暦1500年代だろう。不勉強なアラタはどのくらいの時代かぱっと思い浮かばないので、必死に満腹で眠くなっている頭を働かせる。
「ヒトヨムナシク……じゃなくてイゴヨク広まる――って戦国時代くらいじゃないか! 確かにおかしいな!」
やっと理解したか、とルノワは満足そうに頷いた。
ルノワの認識が確かなら確かにおかしい。スマホやパソコンが無い時代というのならともかく、西暦1500年代というと刀と火縄銃の戦国時代だ。現代の言葉や生活様式とはまるで違うもののはずだ。
アラタは女神だとか封印だとかというルノワの言を信じるしかなくなっていた。第一、ルノワが虚言癖でもなければ嘘をつく理由がない。
「何故この五百年間で人間達の生活に変化が無いのか。私の大いなる疑問の一つだ。他の神どもに確認する必要がある」
ルノワは真面目そうな顔でそう宣言した。長きにわたる封印が解けた直後に世界がどうこうと考えるあたり、意外としっかりした女神なんだろうなとアラタは思った。
「一応確認しておくが、俺はこの世界を救うために召喚された勇者とかいうわけではないんだな?」
「こっちの世界に来たのは偶然だろうな。それにお前がなるべきは勇者などではなく大魔王だ。世界征服はいいぞ、浪漫だ」
やっぱり選ばれし勇者になって大活躍、といった路線ではないと再確認してアラタは一人落胆した。パソコンもゲームもなさそうな危険溢れる世界。せめて勇者となって剣と魔法の大冒険がしたかった……。
しかも自分が契約したのは可愛らしいお姫様などではなく、世界征服をおすすめしてくる自称邪神様だ。ああ元の世界に帰りたい。
「お前の置かれている状況はだいたい分かったようだな。夕食まで少し寝るといい。村長達にも現在の世界について尋ねることがいくつかある」
そこまで喋ると満足したのか、ルノワは簡素なつくりのベッドに横になったので、アラタもそれにならおうと横になった。
「……眠れない」
隣に美女が寝ているのを意識すると、疲労困憊なはずの身体はいっこうに眠くなってはくれなかった。
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