なんか、姉ちゃんはアニメ好き


姉ちゃんはアニメが好きだ。中でもジ●リ作品がお気に入り。


「めーいちゃーん」

 今日も姉ちゃんは僕を携え、八回目の地上波放送をキャラクターの声真似を被せながら元気に視聴していた。


「……何今の?」

のだけれど。


「え? え? なにこれ? どうゆうこと?」

 突然姉ちゃんの顔色が変わった。

「どした、姉ちゃん?」

「嘘でしょ、そんな、なんで……今まで……ああ…… My God」

 My Godって、姉ちゃん。言うかね、姉ちゃん。


自分が何を口走ったかもわかっていない様子の姉ちゃんは(特に珍しいことでもないけれど)僕など目に入らない様子で、画面を見つめながらさらに何事かをぶつぶつと呟いていた。


そして、次の日。

「ちょっと、いい?」

 寝る前の麦茶を飲もうとしたら、母さんに捕まった。

「最近、お姉ちゃんってどう?」

 そして面倒くさい質問が飛んでくる。どうって言われても……。


「別に普通だけど、なんで?」

「学校とかで悩んでたりしない? 虐められたりとか?」

「……なんで?」

「お姉ちゃんね、明日うちの田舎に帰るって言いだしたの。一人でよ」

「……ほう」

「しかもね、田舎の裏山のことを色々聞いてくるの。滅多に人が来ない場所はどこだとか、大声出しても気づかれない森はあるかとか、人の重みを支えられるくらい丈夫な枝のある木はあるかとか。もう、怖くって変なこと考えてなきゃいいけど。あんた何か知らない?」

「……知らないよ」

「本当に? 些細なことでいいのよ? 知らない」

「知らないって、大丈夫だよ。ただの気まぐれだって」

 追いすがる母さんを振り切って、自室に逃げ込んだ。ベッドに潜り込み、暗い天井に向かって息を吐き出す。


母さんに嘘をついてしまった。

姉ちゃんは間違いなく変なことを考えている。僕はそれを知っている。

「やめてくれよ、姉ちゃん……」

 まさかそこまで思い詰めていたなんて。でも、これだけは例え母さんにも言えることじゃない。


 もう一度ため息をつくと、いつかの姉ちゃんの横顔が暗い天井に浮き上がった。

 真剣なまなざしでテレビの画面を見つめる姉ちゃん。そこに映っていたのは隣のトトロの放送終了後に流れたテロップ。


――このへんないきものは まだ日本にいるのです。たぶん。


母さん。

姉ちゃんは……トトロを探しに行くつもりです……たぶん。

見つかるといいな、姉ちゃん……。

 

姉ちゃんは、来年受験だ。

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