第17話 クダリ石墓群
俺とイヌガミのセンサー類は通信リンクしているので、あたかも俺自身がイヌガミであるかのように状況を認識できる。
さらにアオイとも晶紋でつながっているから三人一体みたいなものだ。
俺とアオイは準備場にいながらにして、イヌガミの視界を得ていた。
マサキが操るイヌガミは四本足の走行モードでクダリ石墓群に侵入して、奥へと進んでいく。
ここはまるで無人都市のようだ。縦横に走る道路とその脇に立ち並ぶ建物にしか見えない。
道を行くハイブリビルドたちはタイヤ足を短く引っ込めて、単なるタイヤのように使っている。そうすると見た目は車にとても似ていた。
マサキはリビルド攻撃よりもまずは調査を優先している。
最も重要なのは牧場がリビルドに襲われないよう手を打つことだからだ。その原因を調べねばならない。
リビルドたちの動きをかいくぐりながらマサキは慎重に進む。
地形のデータは統御球に蓄積されていく。こうしたデータや学習結果は他の同型機と共用できる予定だ。大きな売りになるだろうと俺は考えている。
しらみつぶしに地形をデータ化していくと足は遅くなる。
他の出場者たちがあちこちで戦闘を始めて、リビルドの活動が一気に激しくなってきた。
角を曲がった先に、広い道路を横一列に埋め尽くした大型リビルドの突進光景が見えた。
「あれは大型ハイブ種、ブロヴィアントだよ! 正面にいちゃだめ!」
アオイが警告。
ブロヴィアントは全長十二メートル以上、横三メートル、高さ四メートルの鉄塊に八つのタイヤ足が付いた重量級だ。車で言えば大型トラックに匹敵する。
ブロヴィアントが突進していく先にはスパイダーウォーカーがいる。
スパイダーが大型といっても、ブロヴィアントのほうが圧倒的に重い。しかもそのブロヴィアントが並んで突進してくるのだ。ぶつかればスパイダーは簡単に粉砕されるだろう。
「援護します!」
イヌガミは走行モードで跳躍、中央を走るブロヴィアントの一台を狙って頭部にとりついた。
ブロヴィアントは嫌がって発電槽から全身に放電。
しかし絶縁対策済みのイヌガミには無効だ。
プロヴィアントは払い落とそうと蛇行、隣のブロヴィアントとこすれて火花を飛び散らせる。反動で反対側の一台ともぶつかり、どれもが大きくバランスを崩した。
脇のブロヴィアアントが道路をはみ出して、よろけながら立体物の角に激突。
中央の二台はぶつかった衝撃で傾いて横転、道路を滑る。
「ブロヴィアントはお腹が弱点だよ!」
アオイの指示を受け、ひっくり返ってさらけ出されたブロヴィアントの腹部を爪で貫いていく。
転換臓と蓄電槽に致命的なダメージを受けてブロヴィアントは動かなくなった。
腹部の穴からは金属粒がこぼれてくる。ブロヴィアントが捕食してため込んだものだ。これを持って帰れば評価は上がる。
しかし獲物をひとまずおいて、マサキはスパイダーに向かった。
ここまでの戦闘で傷ついたのかスパイダーは動かない。
「大丈夫ですか」
「すまんが、近づいて足の付け根を見てくれ」
乗員が返事する。元気な声でけがはしていないようだ。
マサキはイヌガミを近づけて関節部を確認しようとする。
そのとき四本の足が急に動いてイヌガミを囲んだ。さらにスパイダーは胴体を接地させると残りの四本足をイヌガミの周りに打ち下ろす。
イヌガミはスパイダーの八本足によってがんじがらめにされてしまった。
「どういうことですか!」
「ああ、どうも、ぶつかられて故障したみたいだ。足が勝手に動いてしまった」
「そんなわけないでしょう!」
「ははは、檻に入れられた狼みたいだぞ!」
スパイダーの乗員たちが嘲笑する。
スパイダーの足先からそれぞれ糸が射出されて、さらにイヌガミを縛っていく。
「おや、糸が勝手に出てしまったようだ。故障のせいだ、すまんすまん」
「お姉ちゃん、罠だよ!」
アオイが叫ぶ。
俺は急いでマサキに呼びかける。
「脱出方法は考えられるか!?」
「……ルールでは故意の妨害はどうなりますか」
「失格だが、こいつらは最初から覚悟の上だと思う」
「では、故意の破壊はどうですか」
「やはり失格だ。相手が悪かったとしても評価は下がるだろう」
「そうですか……」
「脱出できそうにないのか?」
「私が考えているのはそういうことではないんです。この反則に報いるしかるべき罰はなんだろうってことです。そして決めました!」
「イヌガミ、格闘モード!」
マサキは狼型の機体から人型機体へとモード変更操作。
前足の爪がスライド後退して拳が現れる。
前足の肩関節が胸部横位置に回転移動、獣の前足から人型の腕となった。
腰部の関節機構が展開して腰部と後足の関節位置を変更、太腿部と連結して足を延長。
爪がスライドして脛に回り、靴状のパーツが展開して現れる。
獣の後足から人型の足に変わる。
頭部、胸部、腹部、腰部の関節機構が作動して狼から人へのフォルムをとる。
変形を完了した。ここまで半秒。
「クロウ、超振動!」
前腕の爪が激しく高速に振動。かつてアズマドラゴンが発していた衝撃波の発生メカニズムを解析し、応用搭載した機構だ。エネルギー変換効率の高いオリハルコニウムがエネルギーを振動に変え、高硬度で軽量なミスリウムを発振させる。
イヌガミを取り囲むスパイダーの足に超振動クロウを当てる。
スパイダーの足全体がきしみ、振動しながらぶつかり合い、金物を削るようなけたたましい騒音を立てる。
イヌガミにまとわりついていた糸がブツ切れになって落ちていく。
スパイダーの足から胴部に振動が伝わり、乗員たちをも激しく揺さぶる。
「や、やめ、やめ」
「た、た、たす、けて」
しばらく振動を続けると乗員たちは声も出なくなった。
イヌガミは取り囲む足をかき分けて出てきた。
「今度は自分たちでなんとかしてくださいね」
泡を吹いている乗員に言い残して、イヌガミはその場を離脱した。
まき散らした騒音を聞きつけて、多数のリビルドが接近してくる。
マサキは振り返らない。
イヌガミは探索を続ける。
戦闘音を確認したので慎重に接近してみる。
角から覗くと、立ち並ぶ石墓のひとつに登ってベテラン猟師のガモンが狙撃を行っていた。
石墓の周囲は各種リビルドの残骸だらけだ。
ガモンが使っているのは統御球を搭載したグソク改。彼はグソク改を標準規格に採用させたいのだろう。気に入ってもらえたのはうれしいことだが。
大型リビルドが集まりすぎると、ガモンは別の石墓上へと跳んで位置変更。上手く戦っている。
さすがと感心した時だった。
突然、石墓に大穴が開いた。爆発音の直後に風切り音。周り中に飛び散る破片。
いきなり足場を失ってグソク改は落ちる。ぶつかり、転がり、跳ね、下まで落ちて倒れた。
一体なんだ、砲撃されたのか?
音が後から来たということは超音速の物体が飛来した?
この世界で火薬は使われていないんじゃなかったのか?
「アオイ、わかるか?」
「ううん、近くからじゃないことだけ!」
「助けます!」
リビルドに囲まれようとしているグソク改へとマサキは移動。
さっき罠にかけられたばかりだというのに全くマサキは凝りない奴だ。しかし、そこがいい。
倒れているグソク改からは血がにじんでいる。心音は聞こえるが、意識はないようだ。
イヌガミは走行モードになって背中にグソク改を背負い、ウルフテイルで固定。
急いで会場へと走り出す。
安全そうなルートを選びながら走り抜け、クダリ石墓群を抜け、はるばる牧場まで戻ってきた。
かなりのタイムロスだが仕方ないか。
審判のエンマにグソク改を受け渡す。
「よくやってくれたよ。後は任せな」
治療師が集まってきて応急措置を始める。
ゴンドウが審判長に文句をつけ始めた。
「途中抜けは失格だろう! 第二十八工房は評価終了だ!」
「途中で会場に戻ってきて補給や修理を受ければ失格じゃ。救助で失格にはならん、当たり前じゃろう」
気にしなくていいようだ。
俺たちはクダリ石墓群へと戻ることにする。
しかしあの攻撃はなんだったのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます