第7話 4/14-B 買い出し(休憩と帰り)

「お待たせ。おお、凄い量」


  待ち合わせた鯛焼き屋の近くに置かれたエクステリア展示兼用のベンチ。奴の横にはカート。

 その上には二つのでかいエコバッグ(義姉さんの手作りだ!)。中にはきっと、どっさり肉や魚や豆腐や乳製品(こっちのバッグはちゃんと中が保冷仕様になってるぜ)、カレーやシチュウのルウ、お菓子や水出しお茶、甘い飲み物、調味料。

 あと、下の段にはビールが一箱も乗っかってた。うーんだんだんそういう季節か。親父も兄貴も呑むからなー。


「疲れたー」

「お疲れー」

「……食う?」

「鯛焼き?」

「は、まだ。お前の好み聞いてないし熱々かりかりが、あれはいい。けど、今は暑いから」


 そう言って保冷の効いた方のバッグから奴はアイスを出した。


「二つに割る奴じゃねえの?」

「あれはまだ寒い」

「ふーん」


 差し出したのはお高いアイス、のスーパーだからこその値引き品。

 入っていたのはラムレーズンと抹茶。迷わずアタシは抹茶を取る。


「この好みは知ってるんだー」

「お前がいつも抹茶ばっかり食うからだろ」

「抹茶美味いじゃんー」

「高校ん時からそうだったろ。ばばくせーなー」

「そこは大人びていたといえよなー」


 と言いつつフタを開け…… 開け…… ようとして、なかなか開かない。


「貸してみ」


 お高いアイスクリームの中蓋ビニルは時々無性に取れにくい。

 そしてアタシの指先は常に竹のせいで乾燥して割れやすい。感覚が殆どない。それをこいつは知ってる。

 竹はともかく水気を吸う。アタシの手はそれでどんどん固くなっていった。

 おかげでこいつを素手でなで回すのもちょっと怖かった時があったけど、ハンパなく怒られたんで、できるだけハンドクリームは塗る様にしてる。

 ちゃんと今日も買ってきた。

 結論としては、ニベアは偉大だ。


「ほい」

「うす」

「ありがとうは」

「ありがとーございましたー」

「だからその小学校の配膳してくれる上級生にするような言い方やめい」

「んだって、あれ言いやすいしー」

「……ああああお前がそんなこと言ってるからラムレーズン溶け出してきたじゃんかーこれ抹茶より溶けやすいんだぜ」

「ごめんー一口食う?」


 そう言って差し出すと、もう反射的に食いついてきた。


「お返し」

「む」


 確かにもうラムレーズンはふにゃふにゃになっていた。



 結局鯛焼きはその場ではなく、持ち帰りに変更。

 軽トラの中で食べることにしたのは何でだ、と聞かれたので。


「たまには餌付けしたい」


 食ってから信号待ちで殴られた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る