第16話朝ごはん

「うっ...。せん...ぱい。なんで...ここに?」

「そんなことは後だ!お前血だらけだぞ!?すぐ病院に連れて行ってやる。」

そうだ。思い出した。さっき俺はあの変な奴から胸を刺されたんだ。

まだ血が乾ききってないな。そんなに時間は経ってないのか。

刺された位置を手で確認するがなぜか痛みがひいており、傷跡すらもなかった。

死んでもおかしくないレベルだったよな。なんで無傷なんだ?

「俺はなんか...大丈夫みたいです。無傷ですよ。」

「じゃあ。なんだこの血は?何があったんだ。」

さっき、自分の身に起きたことを事細かに先輩に話した。変な男がやってきたことやその男はクアと名乗っていたこと、自分はそいつから刺されたということそしてそいつはなぜか理蟹先輩を狙っているということ刺されたはずなのに傷がふさがっているということ...夢だったんだと思いたかったが、この大量に残っている自分の血が夢ではなかったことを裏付けてしまっている。

「なるほど。信じがたい話だが...嘘を言っているようにも思えん。」

「今何時ですか?」

「7時23分だ...。今日は学校休め。死にかけたあとだしな。」

それはできない。クアって男の顔を知っているのは俺だけだ。顔を知らない先輩は、たちまち殺されてしまうだろう。

「あのクアって男、おそらく俺たちの学校の生徒の一人です。学校にいるときに襲われるかもしれません。奴の顔を知っている俺がいれば、少しはその危険性が減ると思います。」

「学校の生徒だと!?恨みをもたれることなんてした覚えがないんだが...。殺されるほどのこと...か。心あたりが全くないんだが。」

先輩の顔が曇る。

「なぜここに来たんですか?俺の家の場所を知ってたことに驚きです。」

「いや、ここらへんでさっき大きな磁場の乱れを感じてな。駆けつけてきた、と言うわけだ。」

「磁場の乱れ...ですか...。」

さっきの奴と関係があるのだろうか?

「先輩は...もう学校に行く準備はおわっているみたいですね。ちょっと待っといてもらえますか?俺の準備が終わってないんで...。先輩はそこのソファーにでも座って、くつろいどいてください。」


「ん?もう準備は終わったのか?」

「ええ。終わりました。いきましょうか。」

「お前、朝ご飯は食ったのか?」

「いえ、食べてませんけど...。まあこんなこともあったので、もういいかなと...。」

「朝ご飯は食べろよ。元気でないぞ?」

母親みたいなことを理蟹先輩から言われるとは...。

「すぐ食べられるものもないし、いいですよ。」

「はぁ。しょうがねぇな。私が作ってやる。」

まじかよ。どんなゲテモノを食わされるんだ。

「おい。その目はなんだ。私が料理下手だと思ってるだろ?」

「そ、そんなことないですよ。お願いします。」

常識から外れている人間に、常識的な朝飯など作れるのだろうか?


「こ、これほどの料理を先輩が作れるとは...。」

俺の予想に反してもの凄くうまそうな料理が出てきた。店で出てくる料理みたいだ。短時間でこのクオリティはすごすぎる。

「驚いたか!チキンソテーとイタリアンチャンプルーだ。ハーブソルトを本当はかけたかったんだが、そんなしゃれた物ここにあるわけないからな。仕方がない。」

理蟹先輩はどや顔である。

くやしいが認めざるをえない...。だが問題は味だ。まあこんなにうまそうな見た目をして、まずいということはないだろうが...。

パクッ

なんだ。これは...。

「せ、先輩。これ...何を入れたんですか?」

「何って、普通の食材を入れただけだが。どうだ?うまいだろ?」

なぜだ。こんなにおいしそうな見た目なのに、おいしそうな匂いもするのに、味が絶望的にまずいんだぁあああ。

だが、ここでまずいと言えば、先輩がかわいそうだ。俺のために作ってくれた料理だ。絶対に食べきらねば。

「お、おいしいですね。せ、先輩すごいなぁ。」

「なんか顔色悪いが大丈夫か?」

俺は学んだ。やはり非常識側の人間に普通においしい料理を作ることは不可能なのだと。











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