第36話 現実を知った俺、何かを察する幼馴染

「なぜ……だ……」


 中学1年の秋、ある日の夜。

 誰もいない自室で、俺はスマホを持つ手と声を震わせていた。

 

 日本最大のネット小説登校サイト。

 『小説で食おうぜ!』で『神野 綴(つづり)』として活動を始めてはや1週間。


 俺は早速、高さすらわからない壁にぶち当たっていた。


 『小説で食おうぜ!』には人気ランキングというものが存在する。 


 まずはそこに入ることが、書籍化への第一歩となるのだ。


 しかし、


「なぜ……全然伸びないんだ……!?」


 ベストセラー間違いなしと、自信満々で送り出した我が処女作は書籍化どころか、ランキングに入る気配すらなかった。


 当然だ。


 自己満足のタイトル、あらすじ、読者ニーズを全く汲み取っていない内容。

 なんの工夫も凝らされていないキーワドタグ。

 SNS等を活用した宣伝も一切なし。


 そんなので、一日に何十、何百と新規で投稿される『食おうぜ!』から一頭抜き出ようなど、甘いにもほどがあったのだ。


 当時、中学1年生だった俺は知識も、経験も、なにもかもが足りていなかった。


 ただ好きなものを好きなように書けば、自動的に読者から読まれて人気も得られると思っていた。


 現実は違った。


 読まれるためには、人気を得るには、それ相応の実力をつけなければならなかったのだ。

 

「こんなはずじゃ……」

 

 机に突っ伏し、項垂れる。


 頭の中で、先日交わした凛との約束がぐるぐる回る。


 あんなに威勢良く啖呵を切っておいてこの有様は……。


「なんとかしないと……!!」


 唯一救いがあった点があるとすれば、俺の元来の性質上、すぐに諦めなかったことだ。


 なにかが間違っているのだと、俺は自分の作品を何度も見直した。


 きっとここが悪かったに違いない、きっとここをこうすればもっと面白くなる。


 そうやって何度も書き直し、投稿を続けた。


 だが、無駄だった。


 もう一度繰り返す。


 この時の俺は、何もかもが足りていなかったのだから。



 ◇◇◇



「小説は、順調ですか?」

「ゔぇっ」


 下校中。

 凛の問いかけに、潰れたかえるのような声をあげてしまう俺。

 

「あー……」


 ぽりぽりと頭を掻く。


「まあ……うん、ぼちぼちっ……かな?」


 わかりやすくキョドった。

 心臓がひやりとする。


 そんな俺の反応に凛は一瞬きょとりとした後、思案気な顔をして、


「そう、ですか」


 それ以上は深く突っ込んでこなかった。


 ただ一言、


「頑張ってくださいね」

 

 言って、にこりと微笑んだ。

 しかしその笑顔には、微かに憂いの色が浮かんでいた。


 俺もそれを、察した。


「あ、ああ……ありがとう」


 後ろ手で頭を掻く。

 多分、バツの悪そうな顔をしていたと思う。


 内心、焦りと羞恥でいっぱいだったのだ。


 でも、凛が応援してくれている。


 だから頑張らなければと、奮い立つ自分もいた。



 しかし、それから毎日投稿を続けても……状況は、なにも変わらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る