最弱勇者と最強王女〜無能力のまま転生したけど、ドSなヒロインが最強なので、なんとか世界を救えそうです〜

モモノキ

最弱勇者、最強王女と出会う

第1話 異世界転生

 ――何だよこのクソPC、めちゃくちゃ遅ぇ


 俺は今、本格的RPGゲーム『孕ませ魔導士 ~勇者パーティを追放された魔導士、最強スキル『孕ませ』により無双する~』(R-18)をダウンロードしている。

 馬鹿みたいな名前だが、有名クリエイターと有名イラストレーターがタッグを組んだエロゲ界の期待の新作だ。


 俺はこのゲームをプレイするために、実家からこのボロアパートの2階に引越し、発売日に合わせて仕事の有給を取った。

 こんな恥ずかしいゲーム、実家じゃ絶対できないからな。


 ダウンロードバーはまだ20%ほどしか進んでいない。

 こんなことなら、パソコンも買い替えるべきだったが、今は引越をしたため金が無い。


 ――こりゃ、あと1時間は掛かりそうだな。飯でも買いに行くか


 パソコンをそのままにし、スマホと財布をポケットに入れて家を出た。


「うわ、すげぇ……虹じゃん」


 そういえばさっきまで雨が降っていたな。

今は晴れた穏やかな朝なので、綺麗な虹が見えた。

『今日は何かいいことがありそうだな』と口笛を吹きながら、階段に足を降ろす。


 ずるっ!


 足が……滑った……


 ――濡れた鉄の階段はよく滑る


 やばい……受け身を……取らないと……


 ――周りの景色が、スローモーションのように見える


 あれ? これやばくね?

 真っ逆さまに落ちる。地面に頭がぶつかる――







「……ぷはぁ! 生きてた!!」

「いや、貴殿は死んだ」

「は? 誰だよおっさん」


 目を覚ますと、病院のベッド……じゃなさそうだ。真っ白な空間。

 ここはどこだ? っていうか誰だこの白髭のおっさんは。


「その問いに答えよう。我はアポネの神である」

「アポネさんね」

「アポネとは星の名前である。貴殿の地球とは別次元の星だ。我はそのアポネの神だ」


 自称神様がそう言いながら手をかざすと、目の前に青い惑星のような大きな球体を召喚した。

 直径は俺の身長くらいある。どうやらこれがアポネという惑星らしい。地球にかなり似ている。


 この種も仕掛けもない神秘的な力を見せつけられると、どうやら本物であると信じざるを得ない。


「俺死んだってマジ?」

「マジだ」

「で、なんで俺はこんなところにいるの?」

「その問いに答えよう。貴殿の魂をアポネに転生させるためだ」


 ふーん、そっか、死んじゃったのか。

 はらまど(孕ませ魔導士の略)をプレイできなかったのは残念だが、そっか、異世界転生か!


 いや、待て待て。マズいぞ、PCを起動したままだ。

 異世界に行くのはいい、楽しそうだし。でも、あのけっぱなしのPCが気がかりだ。


 親に俺の死はそのうち伝わる。そして遺品整理であのアパートに入ることになる。

 するとどうだ? あのPCの中身が親にバレる。俺は隠れオタクだったからびっくりするだろう。


 だめだ、それだけはだめだ! なんとかしてあのパソコンを破壊しないと。


「転生するにあたって、何か一つ特別な力を授けよう」

「力とかどうでもいいから、俺のパソコンのHDDハードディスクを破壊してくれ! あとスマホも」

「それが貴殿の望みか?」

「ああ、なんとかならねぇのか!?」


 神様の肩を揺らしながら、必死に懇願する。

 アレがばれるとまずい。あんなもの見られたら、芋づる式に俺のオタク趣味が親にバレてしまう。


「その問いに答えよう。可能である」

「よし! 神様、お願いします」


「それではスキル『記憶媒体破壊HDDデストロイ』を授けよう。今は地球とアポネの境界線上にいる。今であれば地球に干渉し、破壊も可能であろう」


 そう言って神様は巨大なディスプレイ映像のようなものを床に映し出した。

 映し出されたのは俺のアパートだ。

 うわっ、人だかりができてる。俺の死体に野次馬が群がってるようだ。おいそこの女子高生、写真を撮るな。どういう神経してんだ。


「さぁ、スキル『記憶媒体破壊HDDデストロイ』を使うのだ」

 ――は? 使うってどうやって……まぁ、適当でいいか。


「『記憶媒体破壊HDDデストロイ』!」


 手をかざして、そのままスキル名を叫んだ。

 すると映像に映る死体の俺のポケットが、煙を上げて爆発した。どうやらスマホの方は破壊できたようだ。

 野次馬どもがびっくりして腰を抜かしている。ざまぁ見やがれ。


 その調子でパソコンの方も破壊することに成功した。

 もうこれで心残りはない。


「それでは、貴殿の魂をアポネに転生させよう」


 こうして俺は異世界に旅立った――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る