預言者ーアラビア語版からの訳出ー

ねくたりん

【本文を読む前に】作品について

 本文に移る前に、ジブラーンの『預言者』がどのような作品であるか簡単にご紹介したいと思います。


■作品について

 本作品は、20世紀前半に、レバノン出身の文学者ジブラーン・ハリール・ジブラーン (1883-1931) によって書かれた散文詩です。ジブラーン自身の手によってアラビア語版(アラビア語題名: النبي An-Nabīy)と英語版 (英題:The Prophet) の2言語で発表されました。今回はそのうちのアラビア語版を和訳してみました。底本は Jibrān Khalīl Jibrān (2016) An-Nabīy, Ad-Dār l-Miṣrīya l-Lubnānīyaです。

『預言者』は、ジブラーンの作品のうちでも世界的に知られており、これまでに30を超える言語に翻訳されています。確認出来た限りでは、小林薫氏による『プロフェット(予言者)』(1972)が、日本で最初の邦訳であるようです。上皇后美智子陛下も本作品を愛読されていたそうで、相談役の神谷美恵子氏(1914-1979、精神科医・エッセイスト)に紹介されています。神谷氏は、『預言者』を含むジブラーンの詩を日本語に翻訳し、1975年に雑誌『婦人之友』にそれらを連載しています。

 小林氏・神谷氏以外の和訳としては、これまでに


 佐久間彪『預言者』(1984)

 堀内利美『預言者アルムスタファは語る』(1993)

 有枝春『預言者のことば』(2008)

 船井幸雄『預言者』(2009)

 池央耿 『ザ・プロフェット』(2009)


 が発表されています。



■あらすじ

 舞台はオルファリーズという架空の港町。町の長老ムスタファーは、住民たちから敬愛されていました。彼自身は町の暮らしに順応する一方で、自分の生まれ故郷の離島に帰ることを切望していました。オルファリーズに来てから12年目の秋、ついに故郷の島へ向かう船便がやってきました。ムスタファーは喜ぶと同時に、町の人々と別れることを惜しみます。町の人々もムスタファーが行ってしまうのを悲しみ、彼を引き留めようとします。その時、群衆のなかから占い師のミトラが現れ、ムスタファーにこのようにお願いします。あなたが持っておられる教えを我々に説き明かしてくださいと。ムスタファーは求めに応じ、愛、結婚、子ども、与えること、飲食すること、仕事……、さらには宗教、死についての人生哲学を人々に教え諭します。


■作品成立の経緯

 前述の通り、本作品は、ジブラーン自らの手によってアラビア語版と英語版の2言語で発表されています。彼はまず自分の母語であるアラビア語で草稿を書き、その後英語に書き直しました。最初のアラビア語版草稿は、1898年、彼がわずか15歳の時に書きあげています。日本でいえば中学3年生程度の少年が、これほどまでに深く人生への洞察を持っていたとは驚きです。その後もジブラーンは本文に何度も推敲を重ねました。アラビア語の最終版がいつ頃確定したかは、調べてみたものの、分かりませんでした。

 英語版の最初の草稿は1910年に書かれ、アラビア語版同様何度も推敲が加えられました。1923年に最終版が確定し、米国のAlfred. A. Knopf社から "The Prophet" として出版されました。

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