第30話 女心が難し過ぎて困るウィル

「ごめんね、アリス。遅くなってしまって」

「ううん。帰って来てくれたから、いいよ。ただ、ちゃんと帰って来てね。不安になっちゃうから」

「あぁ、大丈夫だ。俺はちゃんと帰ってくるよ。だって、ここが俺の帰るべき場所だからな」

「うん……」

「よし、じゃあ寝ようか。普段なら、とっくに寝ている時間だろ? さぁベッドに行こう」


 アリスを促し、子供たちが寝る孤児院へ連れていこうとすると、


「ねぇウィル。今日は一緒に寝ちゃダメ?」

「えっ!? そ、それは……」


 一緒に寝たいという想定外の言葉が飛んで来た。

 どうしよう。アリスの意見は最優先にすべきだけど、流石に十二歳の女の子がオッサンと一緒に寝るのはマズイだろ。

 ……もちろん俺が。

 当然何もする気はないが、ロリコン呼ばわりされるどころか、最悪投獄されるのではないだろうか。

 これがエミリーくらいの幼い女の子や、今日お世話になっている冒険者ギルドのお姉さんの一番下の妹さん(小学一年生くらい)なら、寝かしつけてあげている……で済むし、構わないんだけどさ。

 それに何より、今日は宿屋ではなく、冒険者ギルドのお姉さんの家に泊まっている。

 あてがわれている部屋に誰かが来て、俺が居なかったら大騒ぎになるかもしれない。


「えっと、アリスも十二歳だしさ。流石に俺と一緒に寝るっていうのは良くないんじゃない?」

「どうして?」

「どうして……って、アリスは女の子で、俺は男だし……」

「一緒にお風呂は入っているのに?」

「そ、それは……でも、他の子も一緒だろ?」


 暫くアリスが何かを訴えかけるように、上目遣いでジーっと俺を見つめ、


「……バカ……」


 小さく何かを呟いて、アリスが孤児院へと歩いて行った。

 うーん……年頃の女の子は難しい。

 一先ず、これで魔王化とかって訳では無さそうなので良かったけどさ。

 とりあえず、自分の部屋に戻ると鍵を掛け、デバッグコマンドでギルドのお姉さんの家へと戻る。


「……すぅ……」


 幸い、一番下の妹さんはぐっすり眠っていた。

 ただ、足で蹴ってしまったのか、乱れている毛布を直し、リビングへと戻る。


「あ、寝かしつけ出来ました?」

「はい。大丈夫ですよ」

「けど、凄いですね。中々寝ない子なので、普段はもっと時間が掛かるんですけど」

「そ、そうなんですか?」


 いや、めちゃくちゃ早く寝付いてくれたんだけど。

 教会へ行って、アリスと会話した時間を合わせても、こっちの方が早いって事か?


「あ、ウィルお兄ちゃんが居たー! ねー、どこに行っていたのー?」

「え? えっと、妹さんを寝かしつけていたんだよ」

「じゃあ、私といっしょに寝よー! さっきのお話の続きを聞かせてー!」

「あぁ、さっきお風呂で話したあの話?」

「そうそう。続きが気になるんだもん。毒りんごを食べたお姫様はどうなるの?」


 一番下の妹さんから遊んで遊んでって言われていたけど、そういえば二番目に小さい妹さんも一緒にお風呂へ入っていたな。

 流石に、一人で着替えたり身体を洗ったから、すっかり忘れてしまっていた。

 これでご両親やお姉さんの育児負担が減るのであれば、泊めてもらう身だし、こっちの妹さんの寝かしつけもするか。


「よし、少しだけ続きを話そうか。えっと……じゃあ、ちょっと行って来ます」

「す、すみませんね」

「いえいえ。故郷で聞いた昔話を話しているだけですから」


 二番目に小さい妹さんの部屋へ行き、日本では誰でも知っている、かの有名なお姫様を目覚めさせる方法について話し、他の話も……と、ねだられたので、光る竹の中に居たお姫様が月に帰る話をして、気付けば俺も一緒に眠ってしまっていた。


 翌朝。

 いつの間にか一緒に眠ってしまっていた幼女を起こさないように、身体を動かさずに教会へ移動すると、子供たちと一緒に朝食を食べ、行って来ますと言って、再び幼女の部屋へ。

 朝食は済ませたのだが、お姉さんの家でも朝食が出され、食べない訳にはいかないので完食し、


「すみません。本当に助かりました。泊めていただくだけのはずが、食事までいただいてしまって」

「いやいや、助かったのはこちらの方ですよ。村を助けてもらい、育児を助けてもらい……昨日は、母が久々にゆっくり眠れたと言っていましたから」


 お姉さんに乗合馬車の停留所まで送ってもらった。

 ちなみに、家を出る時は一番下の妹さんから、もっと遊んで欲しいと抱きつかれてしまったのだが……出来れば子供よりも、成人女性にモテたいと言ったら怒られるだろうか。

 俺としては、このギルドのお姉さんくらいとお付き合いするのが適正な年齢だと思うのだが。


「ウィルさん。さっきから、お姉さんを見過ぎじゃないですか?」

「え!? いや、お世話になったからさ。別に変な意味は無いよ?」

「へー」


 あれ? 何故かグレイスが少しご機嫌斜めだ。

 ……昨晩、子供たちの相手ばかりで、あまりグレイスと会話出来なかったからとか?

 いや、そんな訳はないか。

 一先ず、クイーン退治の為に立ち寄った村を発ち、出張所ではない、ちゃんとした冒険者ギルドのあるヴェルノの街へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る