第26話 クイーン討伐

 一先ず冒険者ギルドで話を終えると、頭をストレングス・クエストに切り替える。

 あのゲームシナリオからは脱したつもりでいたが、中々思い通りに事は進まないようだ。

 だが今は一先ず、このイベント――クインビー討伐をクリアしなければ。

 オープニングと終盤はよく覚えているんだけど、中盤辺りの記憶が曖昧なんだよな。

 えーっと、確かクインビーとのボス戦は結構大変だったんだよ。

 というのも、プレイヤーが唯一操作出来る主人公リアムは、遠距離攻撃手段が少なくて、AI操作の魔法使いキャラや弓使いのキャラが主戦力になるからだ。

 そのリアムの数少ない攻撃手段も魔力を消耗するし、剣が主体のリアムは魔力が少ないから、結局仲間を守る防戦一方になって、もっと攻撃しろよ……って、結構なフラストレーションが溜まる……って、何気にこのクインビーとのボス戦に限っては、確実にクソゲーだな。

 で、こんなバトルを企画したバカは誰だよっ! って、こんなのやってらんねーよって思って……そうだ! ふざけんなって叫びながら、俺がこっそり裏攻略法を作ったんだ。

 いろいろ思い出してきたぞ。正規の攻略法でも倒せない事はないが、裏攻略法を使えばもっと簡単に倒せるようにしたんだ。

 そのためには、先ず……


「ウィルさん? 大丈夫ですか?」

「え? 何が?」

「何が……って、さっきから何度もお呼びしているのに、全く気付いていただけなかったので」

「あ、ごめんよ。ちょっと考え事をしていてさ」


 気付けば心配そうな表情を浮かべたグレイスに、至近距離から見つめられていた。

 思考が日本に戻っている時に、美少女金髪JKに至近距離から見つめられると、ビックリしちゃうね。


「ところで、ウィルさんの仰る通り、クイーンが居るとなると、やはり遠距離攻撃が可能になる武器が必要ですよね?」

「まぁ普通はそうだね。キラービーは尻尾の先の針が唯一の攻撃手段だから、絶対にこっちへ近づいてくる。だから、その時に攻撃すれば良いんだけど、一方でクイーンビーは魔法攻撃を仕掛けてくる。だから、こっちへ近づいて来ないし、その上キラービー・ナイツを際限無く召喚してくるからね」

「なるほど。では、やはり私が弓矢を……」

「待った。普通は……って言っただろ? クイーンを正攻法で倒そうと思ったら、遠距離攻撃は必須だし、かなり苦戦する事になるけど、遠距離攻撃無しにクイーンを倒せる方法があるんだ」

「え? そうなんですか!?」

「あぁ。だから、その準備のために先ずは道具屋へ行こう。大丈夫。準備さえすれば、クイーンは楽勝だよ」


 冒険者ギルドに居た時は、神妙にクイーンの強さを語ってしまたけれど、攻略方法を思い出せばなんて事は無い。

 しかも、それなりに必要なアイテムがあるんだけど、今の俺はデバッグコマンドで作り出せるからね。

 一先ず、グレイスと村の道具屋へ行き、必要な物の中で売っている物は購入する。

 そして、道具屋に無かった物は、こっそりデバッグコマンドで生成し……よし準備は完了だ。

 必要な物は全て鞄に入る大きさだし、元から持って居た事にすれば問題ないだろう。


「じゃあ、グレイス。クイーン討伐に向けて、最後の準備だ」

「はいっ! ウィルさん、何をしましょう」

「これは重要だぞ。美味しい昼食を探して、かつ食べ過ぎないようにする事だ。どうせなら美味しい名物料理を食べたいし、でも山登りをするから食べ過ぎると辛くなる。自制心との戦いだな」

「あ、あの……ウィルさん。私、元より、そんなに食べないんですけど。それに、先程の道具屋で、どうしてあんな物を買ったのか、意図が分からないんですが」

「揃えたアイテムの意味は、後で説明するよ。それより……あのお店なんてどうだ? 山の幸を使ったパスタって書いてあるけど」

「あ、でも反対側のお店には、山菜彩り定食って書いてますよ?」


 定食かパスタか……いや、グレイスの事を考えたらパスタ一択か。

 ……って、これは、


「グレイス。もしかして、俺の為にそこそこ量が有りそうな定食を薦めてくれているのか?」

「ウィルさんこそ、私の為に量が少なそうなパスタを推してますね?」

「……ははっ、そんなに気を使わなくて良いのに」

「……ふふっ、ウィルさんこそ」


 互いに気を使い合っていただけだと気付き、一先ずグレイス好みのパスタ屋さんへ。

 結局、互いに普通盛りのパスタを注文し、グレイスが多いと言う分を俺が貰ったところで、


「さて、行くか」


 クイーン討伐に出発する事にした。


「はいっ! 今回はゴブリン・ロード戦みたいな恥ずかしい姿は見せませんからね?」

「あぁ、期待してるよ。グレイス……本当にな」


 守りに専念してくれれば、グレイスは出来る子のハズなんだ……本当に。

 俺とグレイスは、クイーンビーを倒す為に、雲一つ無い暑い日差しの中で、緩やかな山登りを始めた。

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