第21話 闇色の力!?

 ドタバタしまくった夕食を終え、疲れを取るお風呂タイムだ。

 エミリーたち幼女組をお風呂へ入れながら、ゆっくりとお湯に浸かって癒される。

 だが先日と同様に途中からアリスが入って来てしまい、目のやり場に困りながらも……何とか就寝にこぎつけた。

 ある意味では凄くキツい一日だったけど、アリスとグレイスの仲は、時間が解決してくれるだろう。

 ……と思っていた

 だが翌朝、その俺の考えが甘過ぎる事を思い知らされる。


……


「……ふぁ。……ん? なんだこれ?」


 朝、目覚めると、毛布がやけに温かくて柔らかくなっていた。

 ムニムニと掌に吸いつくような手触りで、不思議といつまでも触っていたくなる。


「…………んっ」


 何だ? 耳元から変な音が聞こえたぞ?

 なので、心地よくていつまでも眠り続けたくなる魔性の毛布から、気合で抜け出そうと目を開けると、


「……え!? グレイス!? な、何をしているんだ!?」


 顔を真っ赤に染め、何かに耐えているかのような表情を浮かべたグレイスが俺のすぐ隣に眠っていた。

 しかも、極々僅かな布しか無い半裸で。


「だ、だって……私、本当に花嫁修業に来たんだから、当然夜の……」

「ウィルー! おっは……」

「あ、アリス!? 違うんだっ! これは……」


 タイミング悪くアリスが部屋に飛び込んできて、俺と半裸のグレイスを交互に見る。

 マズい。アリスは精神的ショックを受けると魔王化する恐れがある。

 事実はどうあれ、育ての親である俺のこんな姿を見てしまったら、思春期のアリスがどう思うかは明白だっ!


「――ッ」


 無言のまま俺を見つめるアリスから、昏い……闇の様に昏い何かが溢れだした気がした。


「アリスッ! 誤解だ、誤解っ!」


 叫びながら、視界からグレイスを隠すようにしてアリスを抱きしめる。


「グレイスは、この教会へ来たばかりで、寝ぼけて部屋を間違えただけなんだ」

「……誤解?」

「そう、そうだよ。俺もさっき起きて、グレイスと一緒にビックリしていた所だったんだ」

「そ、そっか。部屋を間違えちゃったんだよね? び、ビックリしたよー」

「あ、あぁ。グレイスは、うっかりさんだからな」

「えーっと、そ、そうだ。朝ご飯が出来たから呼びにきたんだったー。もう皆待ってるよー」

「よし、じゃあ行こう。すぐ行こう。アリス、着替えたらすぐに行くから、先に行っててくれ」


 何とか勘違いで押し通せたらしく、アリスから出ていた昏い何かは完全に消えていた。

 アリスが「わかったー」と言いながら、部屋を出て行き、一先ず胸を撫で下ろす。

 いや、マジでビックリした。

 あれが魔王の魔力の片鱗なのだろう。

 今の――レベル三十台の俺では到底勝てる気がしなかったぞ。


「ウィルさん……今の魔力は?」

「ん? 何がだ?」

「お気付きになられませんでしたか? アリスから溢れ出ていた闇色の魔力……おそらく、あれは暗黒魔法ではないかと」

「な、何を言っているんだよ、グレイス。そ、そんな訳ないじゃないか」

「ですが、あの魔力は、かつて私が戦ったゴブリンメイジが使う暗黒魔法と同じ……いえ、それとは比べ物にならない程、遥かに濃く、大きな魔力でした。ウィルさん、あの少女は……」


 やばいぞ。本来、聖騎士となる――今時点でも聖騎士の素質を持っているグレイスが、アリスの持つ魔王の力に勘付いたかもしれない。

 何とか……何とか話を逸らさなくては。


「ウィルさん。一度、彼女を王都にある教会で、神聖魔法を得意とする司祭様に看てもらった方が良いかと思うのですが」

「そ、そうだな。だ、だけど、俺も実は教会の牧師で、それなりに神聖魔法は得意なんだ。で、俺の見立てでは、アリスは何の問題も無いはずだ」

「ウィルさんも神聖魔法が使えるのでしたね。しかし、やはり司祭様ともなると、同じ神聖魔法でも効力が全く違います。王都に行った時、一度そのお力を目の当たりにして、真の神聖魔法とはこのような力があるのかと、感動した覚えがあります。ですので、どうか一度あの少女を王都へ……」


 グレイスの正義スイッチがオンになってしまったのか、凄い勢いで捲し立てられる。

 このままでは、俺が押し切られてしまう。

 何とか、何とかグレイスの話を止め、こっちが主導権を握らないと……あ! これならどうだ!?


「ウィルさん。そういう訳ですので、先程の闇色の……」

「グレイス。いろいろ言ってくれるのはありがたいんだが、その……いいのか?」

「いいのか? とは、何がでしょうか?」

「率直に言うが……胸が見えてるぞ」

「……きゃぁぁぁっ!」


 男のベッドに入ってきておいて、今更だとは思うのだが、一先ずグレイスの話を終わらせる事に成功した。

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