第18話 教会への帰還

「あちらに見えるのが、ウィルさんが運営されている教会と孤児院なんですね」

「あ、あぁ。十数人の子供たちの面倒を見ている」

「流石ですね。街の人たちから一目置かれるわけですよ」


 今、俺は自分の家へと帰ろうとしているだけなのだが、どういう訳か話し方がおかしくなったグレイスが、逃がさん! とでも言いたげに、ピッタリと俺と腕を組んで歩いている。

 何故だ。どうして、こうなった?

 グレイスを救助しに行ったまでは良かった。

 グレイスの正義感が発動し、ゴブリン・ロードを倒したのも良しとしよう。

 それから一緒に野宿をして、冒険者ギルドへ行って依頼の完了報告を行って、何故かグレイスのお父さんに絡まれて……どうも、この辺りの対応をミスったらしい。

 グレイスが二十歳を過ぎた成人女性なら、一緒に居てくれたら諸手を上げて喜ぶ所なのだが、流石に女子高生はなぁ。

 歩いている間、何度もグレイスの胸が俺の腕に当たっていると思っているうちに、教会へ着いてしまった。


「凄い。とても綺麗な教会なんですね」

「あぁ。いろいろあって、最近修繕してもらったんだ」

「へぇー。あ、敷地で子供たちが遊んでますね」


 グレイスに釣られて見てみると、子供たちが庭でサッカーっぽい遊びをしている。

 だが一方で、一人庭の端で、本来は勇者となるはずだったリアムが、一心不乱に剣の素振りをしていた。

 ……うーん。もう魔王が現れる事は無いし、止めさせるべきか?

 けど……良く考えたら、リアムには剣の才能があって、勇者として魔王を倒した後は……どうなるんだっけ?

 どこかの国に仕えるとか、騎士になるとかか?

 いずれにせよ、そのルートはもはや無くなっていて、でもリアムはこれから何かしらの職業に就かなくてはならない。

 となれば、おそらく就くと思われるのは、冒険者や騎士だから……このまま剣の修行をさせるべきだな。

 せっかく英雄という肩書があるので、誰か有名な剣士とかを紹介してもらって、リアムの師匠になってもらおう。

 そんな事を考えつつも、遊んで居るのは男の子ばかりだったので、先ずは教会の中へと入る。


 というのも、元々アリスには研修に行くと言って出て来たからな。

 ちゃんと帰って来たアピールをして、魔王化に影響が出ないようにしておかなければ。

 ちなみにグレイスについては、研修先で新米冒険者を預かって欲しいとお願いされた……と、口裏合わせしている。


「ただいまー」

「あ、ウィルー! おかえりーっ!」


 教会の中へ入ると、俺に気付いたアリスが走り寄って来た。


「ただいま、アリス」

「お仕事は無事に終わったんだねー!」

「あぁ。まぁ仕事というか、研修なんだけどな」

「何にせよ、ウィルが無事に帰って来てくれて良かった……って、そっちの女の人は?」

「ん? あぁ、この子はグレイスって言うんだけどな。研修先で新米冒険者の面倒を見てくれないかって頼まれてさ」


 アリスがグレイスに気付いたので、中へ入ってもらい、そのままジェシカたちが居る場所まで進む。


「ウィルさん、おかえりなさい。そちらの女性は?」

「あぁ、アリスにはさっき伝えたが……この子はグレイス。研修先で預かってくれって言われてな」

「グレイス=ベネットです。ウィルさんの許で修行させていただくために参りました。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 グレイスがジェシカや子供たちに挨拶をしていると、


「ウィル。修行って、何の修行をするの?」

「え? そうだな。いろいろ……かな」

「いろいろって?」


 アリスが変な所に興味を持ってしまった。

 こんな細かい所まで口裏合わせをしていないし、正直に冒険者としての修行とは言い難いな。

 冒険に出るという話になれば、俺も一緒にどこかへ行くと言う話になり、アリスの魔王化に影響を与えてしまうかもしれない。

 一先ず、魔法の修行という事にしようと思ったら、


「お嬢ちゃん。私は花嫁修業をするのよ」

「花嫁修業? じゃあ、貴方は誰かと結婚する予定なんだ」

「えぇ。そのうち、きっと……ね」

「……へぇー。ふぅーん」


 グレイスが飛んでも無い方向へ話を持って行った。

 よりによって花嫁修業だと!?

 こんな所で花嫁修業だなんて言うから、アリスが疑惑の目をグレイスに向けてしまっている。

 というか、そもそも花嫁修業に教会へ来るってどうなんだ!? ……いや、孤児院でもあるからギリギリセーフか? 子供が苦手だから今から慣れておくためとか。

 ……かなり苦しいが。

 何にせよ、今から俺が否定するのも変な話だし、一先ずそれに乗っかるか。


「そ、そうなんだ。花嫁修業もするし、後は身を護る為に魔法の修行とかもする予定だ」

「……その言い方だと、ウィルがこの人の魔法のお師匠様になるの?」

「そ、そう……だな」

「……ふーん。そうなんだねー」


 なんだろう。

 さっきから徐々にアリスが不機嫌になっていっていないか?

 やはり花嫁修業は無理があったか!?


「ところで、花嫁修業もウィルが指導するの?」

「え、俺!? いや、それは……ジェシカが居るじゃないか」

「わ、私ですかっ!?」


 ごめんよ、ジェシカ!

 とりあえず、アリスだ。アリスが平常心で居られるようにしたいんだっ!

 俺が望んでいるのは、ただそれだけなのだが、


「で、その人はいつまでウィルにくっついてるの?」

「私? 花嫁修業ですから」

「……へぇー」


 何故かアリスとグレイスの間に、火花が散っているような気がしてしまった。

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