第5話 誕生日パーティ

 子供たちと隠れんぼをして遊び、ジェシカが作ってくれた料理を食べ(勝手にドジっ子だと思っていたけど、普通に美味しかった)、特に幼い子供たちを寝かしつける。

 教会に時計が無いので、デバッグコマンドで作った懐中時計を見てみると、時刻はまだ午後八時だった。


「まぁテレビもなければ、ゲームも無いもんな。照明だって、魔法で明かりを灯すか、ロウソクだし、暗くなったら寝るよな」


 おそらく、夜寝るのが早い分、朝起きるのも早いのだろう。

 日本では残業や徹夜が当たり前だったから、健康的な規則正しい生活が出来そう……とは言っても、アリスが魔王化しない事が前提条件だし、そもそもこんな時間では眠たくないが。


「さて、今の内に確認だけしておこうか。デバッグコマンド……テレポート。設定、教会の庭」


 洗濯物を取り込みに行った庭へ音も無く移動したが、教会の周辺に街灯なども無いため、真っ暗だった。


「デバッグコマンド……視界確保。設定、オン」


 デバッグコマンドにより、真っ暗な中でも昼間と変わらないくらいに周囲が見渡せるようになった。

 とはいえ、これは近くに居る人が不審に思うだろうし、常時有効にしない方が良いだろうな。

 一先ず、現在の俺が使う事の出来る神聖魔法と精霊魔法を一通り使ってみて、効果の程を実際に確認する。

 ……うん。これなら大丈夫だろう。

 俺が想い描いた、対盗賊団の作戦も何とかなるハズだ。


「平和で安全な世界で暮らすため、絶対に成功させてやるっ!」


 強い決意と共に、アリスのプレゼントの準備を済ませて、今日は就寝する事にした。


……


「うわぁー! ウィルーッ! 見てー! あっちに教会が見えるよーっ!」


 翌朝。十二歳の誕生日を迎えたアリスの為に、孤児院の皆でピクニックに来た。

 ちなみに行き先は、子供の足で教会から約一時間程歩いた場所にある、少し小高い丘の上だ。

 ゲームの中だと、オープニングイベントを終えた後、勇者のレベル上げをするための場所なのだが、アリスが魔王化する前だからか、今の所モンスターには遭遇していない。

 丘の上は見晴らしが良く、周囲に遮蔽物も無いので、俺とジェシカで周辺にモンスターが居ない事を確認しつつ、子供たちと追いかけっこをしたり、歌を歌ったりして遊ぶ。

 ……街並が中世ヨーロッパ風の世界で、子供たちが皆金髪だったり茶髪だったりするのに、歌が日本の童謡なのは、俺を含めてストレングス・クエストを作った開発メンバーが全員日本人だからなのだろうか。

 まぁそもそも、喋っている言葉やアイテムの名前が日本語なんだけどね。

 そんな訳で、遊んだ後はシートを広げて、持ってきたお弁当を皆で食べたんだけど、


『ごちそうさまでしたー!』


 もちろん風習も日本がベースになっている。

 俺の勝手なイメージだけど、外国って食事の前後は「いただきます」や「ごちそうさま」とかじゃなくて、お祈りとかするんだよね?

 ……と、ゲームの世界へのツッコミはこれくらいにして、そろそろ盗賊団対策を始めますか。


『デバッグコマンド……天候操作。対象、アネイスの街周辺。設定、曇りのち雨』


 声に出さずデバッグコマンドを使用すると、雲一つ無く晴れていた空に――これも天候操作で快晴にしたのだが――灰色の雨雲が集まり始めた。


「あら? さっきまで晴れていたのに、雨が降りそうね。皆さん、急いで帰りましょう」


 雨雲に気付いたジェシカの呼び掛けで、アリスを含めた子供たちが唇を尖らせるが、それでも素直に従って街を目指す。

 途中で疲れたと言う四歳の女の子、エミリーを俺が抱っこする事になってしまったが、途中で少しずつ調整しながら、全員が教会へ入った後に雨を降らせた。


「もぉーっ! せっかくの誕生日なのに雨が降るなんて、ツイて無いなー」

「まぁまぁ。それでもピクニックには行けたし、濡れずに帰ってこれたでしょ? きっとアリスちゃんの誕生日だから、神様が雨を降らせるのを待ってくれたのよ」


 アリスもジェシカも、すまん。

 天気を操ったのは俺で、神様でも何でも無いんだ。

 けど、これもアリスを魔王に覚醒させない為だから、許して欲しい。


「じゃあ、ちょっと早いけどアリスちゃんのお誕生日パーティにしましょう! 皆、手伝ってー!」


 外は雨が降っている上に、ささやかながらもパーティが開かれるのだから、もう誰も教会の外には出る事はないだろう。

 なので、デバッグコマンドで教会の庭へテレポートすると、


「精霊魔法――アース・ウォール!」


 ステータス画面で、最高レベルの10まで上げた、土の壁を生み出す魔法を使い、教会の出入り口を固める。

 続いて、


「精霊魔法――ディグ!」


 地面に穴を掘る魔法を使い、準備が完了した。

 再びテレポートで俺の部屋へ戻り、何事も無かったかのようにパーティへ参加する。


『アリス、十二歳のお誕生日おめでとーっ!』


 ささやかだけど、いつもより少しだけ豪華な食事と、子供たちが普段口にする事が無いというクッキーを食べた後、


「アリス。お誕生日おめでとう」

「ウィル。それに皆……ありがとうっ!」


 子供たちが描いた絵や手紙と共に、少しくすんだ銀色のブレスレットをプレゼントした。

 これは、昨日寝る前にアイテム生成で作り出した「天使の腕輪」という、身に着けているだけで常時防御魔法が展開されるアクセサリーを、あえて古く見せかけた物だ。

 本来ゲーム終盤の街で売っている高額装備なので、ボロボロの教会にあっても不自然とならないように、中古品に見せかけている。

 アリスがどんな事で覚醒するか分からないし、本当は全員に装備させたいくらいなんだけど、いきなり全員に配るのは怪しいので、何かある度にプレゼントしていこうと思う。

 そしてピクニックの疲れと、外が雨という事もあって、子供たちがいつもよりも早く就寝したので、


「さて……行くか」


 俺はまたもやテレポートを使い、庭へと移動した。

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