第2話


『なるほど、なるほど、、』


俺、榊原 優と幼馴染のマリーこと相原 麻里香はどうやら異世界転生をしてしまったらしい。

そして今俺と話している金髪美少女のエルはこの異世界の第一村人である。


『優の話、すっごく面白かったですわ!』


エルは楽しそうにそう言った。

俺は日本の文化のことや、地球について色々な話をした。


俺も話しているうちに楽しくなり、夜まで話し込んでしまったようだ。


勿論、俺がぼっちでヒキニートであることは一切言わなかった。

否。

言えなかった。


エルは好奇心がとても旺盛で、たくさん質問をしてくるため、俺も少々嬉しくなって調子に乗ってしまった。


『優の居た日本?はきっととても楽しい所なのですね!!行ってみたいです。』


そう目を光らせながら話すエルの目には、あたかも俺が充実した日々を過ごしていたように写っているに違いない。


(やべー、有る事無い事言っちゃったよー、。

後からただのボッチのひきこうもりってバレたら最悪だな。)


俺は冷や汗をかいた。

俺の話はさて置き、エルの話もまた俺からすれば未知なものだった。


この異世界について、エルから聞いた話で分かった俺のいた世界との違いは大きく二つある。


一つ目は、この世界には二つの大陸しかないらしい。


北にはアールコン大陸、南にはエレレーク大陸という大きい大陸がある。

地球よりも小さいのだろうか?


そもそもここが惑星であるのかすら、解明されていないらしい。

夜になっても星は見えない。


二つ目は、人間などの動物に加えて魔物、そして天使と悪魔が存在するとい

う。

これが俺がいた世界との一番の違いである。

俺はこれを聞いて異世界だと確信した。


そしてどうやら悪魔と天使は敵対していて、アールコン大陸は悪魔領に。

エレレーク大陸は天使領になっているらしい。


人間はエレレーク大陸にしか住んでいないという。



『魔物に天使に悪魔!?ほんとにそんなものが存在するの?』


俺は驚きを隠せずに聞き返した。


『ええ、いますよ。

ここからはだいぶ重い話になってしまうのだけれど、良いでしょうか?』



エルは少し悲しげにそう言い、俺が頷くと重苦しい口調で話し始めた。


『実は、10日ほど前に、天使が全滅してしまいました。』


俺は背筋が凍るのを感じた。


(さっきのエルの話では、天使が人間と協力して悪魔と戦っていたからこの世界の均衡は保たれていたって、、)


エルは話を続けた。


『悪魔が何らかの方法で今までの何倍もの勢力を得てしまったのです。

だから、、』


バタン


ドアの開く音とともに下の階から、陽気な声が聞こえてきた。


『エル〜、帰ったぞい』


男の声だ。

エルが下に向かって返答する。


『おかえりなさーい!今行きます!』


そしてエルは俺にまた後でねと言って、部屋を出て下の階へ降りていった。


(すっごい話の続きが気になるんだが、、)


少しの不安は生じたが、それよりもマリーが心配になった。


そして前の部屋にマリーが寝ていると言っていたので、様子を見に行こうとベットから立ち上がり部屋を出た。


通路を挟んで目の前にドアがあった。


(というか、女の子が寝ている部屋に勝手に入って良いのかな。

しかも嫌われてるし。)


少し恐れながらもやはり心配だったので、ドアを開けてベットに近づいた。


そこには綺麗な黒髪が乱れ、綺麗なうなじが見えて、やけに色気を醸し出していた。


そして日本人とは思えない真っ白な肌に長いまつ毛。


(美少女だわこれは。)


そう心で呟いたのと同時に、マリーは眼を開いた。


『うわっ、!』


不意を突かれて驚いた俺はそこそこに無礼な反応をしてしまった。


『うわって、、最低ね』


マリーは具合悪そうに悪態をついた。

しかし、俺と同じく意識はハッキリしていて傷跡も見当たらない。


『ここは何処??』


マリーは俺に尋ねた。

マリーはかなり冷静な様に見えた。


(これならすぐに現状を飲み込めるだろうし、話しとくか)


そう思った俺は、異世界転生をしたこと。

天使や悪魔についてもざっと話した。



『バカでしょ?あんた。

見ず知らずの女のそんなデタラメじみた話を信じたの?』


『はっ、、

たしかに、何の根拠も無いかもしれん、。』


マリーに言われて初めてエルに対して疑いの感情を持った。


(どうにもあの金髪美少女は説得力がすごいらしい、。)


『ともかく、今は自分たちの目で確認するしか無いわ。』


俺はマリーの意見に賛成した。

確かに可能性は高いが、まだ異世界と決まったわけではない。


『そういえば、俺たちを殺したあの男はどうしてマリーを、。』


『あんな奴知らないわ!いきなり押し倒されて、。』


(通り魔?ついて無さすぎる。)


俺とマリーには確かにコンビニで殺された記憶があった。


下からエルの声が俺を呼ぶ声が聞こえた。


『ずんぶんその女に気に入られてる様ね。』


マリーは少し不機嫌そうにそう言いった。


下に降りると、さっきの声の主であろう男とエルが木でできたテーブルを囲んで椅子に座っていた。


『やっぱり目が覚めたのですね!!

話し声が聞こえたからそうだと!

よかったです〜。』


エルは興奮気味にマリーに話しかけ、嬉しそうに微笑んだ。


『はい、エルさん?が看病してくれたと聞いたわ。

一週間もありがとう。』


マリーは少し照れ臭そうに礼を言った。俺も続いてお礼を言った。


『改めてありがとう、エル。』


『いえいえ〜そんな〜。』


今度はエルが照れ臭そうだった。


『この人は私のお爺ちゃんです。

さっき夜狩りから帰ってきたんです。

狩人なの。』


エルがそう紹介すると、温厚そうなお爺さんもこう言った。


『目覚めてくれて本当に良かった、。

さぁ今日はたくさんおたべなさい。』


料理は4人分用意されていた。


俺はマリーの方を見て喜びを共有しようとしたが、マリーはお辞儀をしてすぐに席に着いた。


(そういえば嫌われてるんだった、。地味に気まずいな。)




エルが作ったという料理はとても美味しかった。


(改めて完璧美少女や!!)


俺は叫んだ。勿論心の中で。


食事が終わると、エルのお爺さんが話を始めた。


『エルからはさっき聞いたのだが、やはり別世界から転生してきたのじゃな?』


『俺はそうでないかと思ってます。』


不服そうなマリーを片目に俺はそう答えた。

するとエルのお爺さんは続けた。


『それは災難じゃのう、。

実は最近天使が滅ぼされたために

エレレーク大陸とアールコン大陸の間にあった光の壁に大きな穴が開いたのじゃ。

時間が経つにつれ、その穴は広がっていってるという噂じゃ。』


『つまりその穴から悪魔が入って来てるということですか??』


お爺さんはゆっくり頷いた。


さっきの不安が再び湧いて来た。


この世界での主な戦闘は魔法に大きく偏っている。


さらに、大半の人間が使える人間魔法というのは主に身体強化であるが故、破壊力に長けている悪魔魔法にはほとんど歯が立たないという。


そして天使魔法も、攻撃は多少できるものの、回復が主だった。

その為、昔から人間と天使が力を合わせて悪魔と闘っていた。


お爺さんは話を続けた。


『おそらく平和の均衡はまもなく崩れ、エレレーク大陸も悪魔と魔物に占領されてしまうやもしれん。』


『そんなっ、、』


さっきは俺が騙されてるとか言っておきながら、マリーが不安そうに呟いた。


次はエルが話し始めた。


『しかし、エレレーク大陸の中心部に位置するバベル王国からの手紙が、最近届いたのです。

その手紙には、強力な魔法を使える人間の転生に成功したと書いてありました。』


『じゃ、じゃあ悪魔たちにもきっと勝てるんじゃないのか!?』


俺は期待を込めて聞いた。

エルは微笑みながら頷き、続けた。


『ええ!そこでなんですが、もしかして優とマリーがその転生者たちなんじゃないのかって、』


『冗談じゃないわ!!

悪魔となんて、私戦えないわよ!!

第一、魔法なんて一切使えないわ!』


マリーは勢いよくエルの見解に反論した。


それもそうだ。

全く見知らぬ土地にいきなり呼び出され、世界を救えなんて無理な話だ。


『俺もマリーと同じ考えだよ。

そもそも転生させる魔法がこの世界にあるんだな。』


俺はそう言ってマリーを見た。


『じゃあ!!私たち現世に帰れるのかしら!?』


マリーは焦りながらエル達に聞いた。


『確証はないが、おそらく王都に行けばなんとかなるかもしれん。

おぬしらは空からなんの前触れもなく降って来た。

きっと王国が意図して読んだ転生者とはまた別な可能性が高いじゃろう。』


お爺さんはそう答えた。

俺とマリーはホッとした。


俺はゲームや漫画の主人公には憧れるが、自分が勇者になんてなりたいとは思っていなかった。


(悪魔?魔物??そんなん俺が倒せるわけねーし!!)


『じゃあわたし達は、バベル王国?へ行くことにするわ。』


マリーはそう言って、続けて話た。


『どうすればバベル王国へ行けるの?

電車とか車なんて無さそうだし、、』


そうマリーが話している途中、地震のように家が揺れ始めた。


『な、なんだこれ、!!?』


『きゃぁっ!』


俺とマリーはまるで何かが近づいて来るかのように、徐々に大きくなる揺れに驚いた。


エル達も驚きを隠せない表情を浮かべると同時に、エルは何かを悟ったようにこう呟いた。


『ど、どうして悪魔がいるのです、、??』


そうエルが言った瞬間、耳が引き裂けるような甲高い雄叫びが聞こえた。


『ウグォォァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!』


俺たちは耳を塞いだ。次の瞬間、ものすごい爆発音と共に家の窓が割れ、床や壁にヒビが入った。


『家が崩れてる!!

みんな外に出るのじゃ!!!』


お爺さんがそう叫び、俺たち4人はすぐに家から飛び出した。


『アツッ!!、、

なんじゃこりゃぁー、!!』


俺は家を出るなり叫んだ。

なぜなら、あたり一帯には燃え盛る炎の海が波打っていたからである。


俺たちは絶叫した。


『し、しんでる!、、』


マリーが視線の先には、焼け焦げてしまい、男か女かもわからなくなってしまっている死体が横たわっていた。


『グググググガ』


すぐ近くから不気味な音が聞こえた。

そして50メートル程先に、この悲惨な事態を引き起こしたであろう悪魔の姿があった。




この後の事は本当に一瞬の出来事であった。



その悪魔はものの1秒で俺たちの前に移動してきた。


絶望。

恐怖。


おそらくその場にいた4人全員がこの感情で満たされていただろう。


『アワレナニンゲンヨ、シニカタヲエラベ。

グググググ』


悪魔は我々に身の毛もよだつ声でそう言った。


俺は膝をついた。

立っていることすらままならなかった。


(俺、、また死ぬのか?

誰も守れずに、、また、。)


いや、俺は分かっていた。

ここで俺が囮を引き受けて、他の三人を逃がせる可能性だってゼロではないだろうと。


でも、俺は立てなかった。

その瞬間。


『エルシールド!!!』


エルは叫んだ。

俺たちの目の前に魔法陣が現れ、青く光る壁のようなものができた。


『後ろにある井戸から逃げてください!!』


エルは俺たちにそう言った。


『でもっ!!』


『貴方達2人を巻き込むわけにはいかないのです!!!

早く!!!!』


エルがそう言った瞬間、悪魔は鋭い爪の生えた腕を振りかざした。


悪魔が腕を振り下ろすと同時に、エルのお爺さんはエルを後ろに突き倒した。


悪魔の爪は結界を貫通した。


グサッ


『お爺ちゃんっ!!!!!!』


エルは泣き叫んだ。

悪魔の細長い五本の爪が、お爺さんの胸を刺したのだった。


『うっっ、にげ、、ろ、ぐはっ。』


お爺さんは最後の力を振り絞りそう言うと口から血を吐き、絶命した。


俺はすぐに泣き叫ぶエルを抱き抱え、井戸に向かってマリーと猛ダッシュした。


『ごめんっ!!、、

お爺さん!!!!!』


後ろを見ると悪魔はお爺さんの頭に齧り付いていたいた。


そう、捕食を始めたのだった。

俺は吐き気を抑え、必死に走った。



そして、俺たちは底の見えない井戸に飛び込んだ。



































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