第44話 雪の日

 山田さんの住んでいる地方で雪が降った。


 彼らの住む辺りでは、車は生活必需品だが、ある程度雪かきをしないと、車庫から出すことすらできない。朝早く起きて、膝の高さを超える雪を、奥さんと手分けして庭の隅に寄せていった。


 山田さんが門扉の辺りの雪をかいていると、家の前の道路をえっちらおっちら歩いていく人がいた。スーツ姿の男性だ。


 まだ除雪車が来ていないので、道路にも雪が積もっている。彼は水の中を泳ぐように、両腕で空気をかきながら、雪の中を進んでいた。


 こんな日にどこへ行くのか知らないが、大変だなぁ……と視界の端で見ていると、ちょうど山田さんの目の前で、男性が「あっ!」と声をあげて前のめりにバターンと倒れた。積もった雪の中に姿が消えた。


「大丈夫ですか!?」


 慌てて歩み寄ると、男性の姿はなく、真っ白な雪が人型に凹んでいるだけだった。




 そもそもあの男性は、こんな寒い雪の日にスーツだけで歩いていた。


 と、後になって気づいたという。

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