第11話 ロフト

 後輩の野村が、最近妙に仕事を頑張っているという。そう聞いた人たちが一人残らず、「あいつが!?」と驚くような男なのだが。


 ワーカホリックの霊にでもとり憑かれたかと期待して、彼が頑張っている理由を聞いてみた。以下、野村の話である。




 先々月くらいかな、ロフト付きのワンルームに引っ越したんですよ。俺ん家、駅から遠かったでしょ? だから前から探してたんですけど。


 正直、ロフトはいらなかったんですけどね。掃除しにくいから。でも駅から歩いて5分くらいだし、安かったんですよ。これがねぇ、なんか人が居付かないらしいんで。


 で、案の定出るんですけど。


 ロフトにこう、柵があるでしょ。あれの間から脚がぶら下がるんですよ。


 誰かが上の方で仰向けになって、膝から下だけ出してぶらぶらさせてるみたいな感じ。ばらつきはあるけど、夜ですね。二日に一度は下がりますよ。


 いや、最初見たときゃ驚きましたけど、もう一回引っ越す金なんかないんですよ。それになんか、そいつがあんまり怖くなくって。だって脚ぶら下がってるだけだもん。


 前に一度ぶら下がってる時に、ロフトに上がって確認したんですけど、やっぱ誰もいないんですよね。そりゃ、誰かいたら俺も引っ越すかもしんないですよ。でもいないから。そしたらもう、奇抜なインテリアみたいなもんですし。


 女の脚なんですよ。キレイだし、ペティキュア塗ってるし。ぶっちゃけ美脚なんですよ。俺、脚フェチじゃないですか。いい脚なんすよ。ふくらはぎからくるぶしのラインが、こう。こうで。


 まぁでもねぇ。そんだけでもシアワセではあるんすけど。


 俺、脚フェチはその通りなんだけど、ハイヒールが好きなんですよ。そんなもん地面に刺さるだろ! ってくらいのピンヒール履いてる女の子が好きで。ロフトの娘はいい脚なんですけど、裸足なんですよ。


 したら、今度は俺の姉貴が引っ越すっつって、モノをめちゃくちゃ捨てたんですよ。手伝いに行ったんすけど、捨てるものの中にちょうど俺の好きな感じのハイヒールがあって。


 へへへ、その通り、もらってきちゃった。勝手にですけどね。


 で、靴磨いてファブリーズして、待ってたわけですよ。そしたらその次の日くらいに、またぶらっと下がったんで、おし来た! と思って。そんでロフトのはしごを上ってったんです。はしごから手を伸ばすと、ギリギリ脚に届くんですね。


 そん時、お化けに靴なんか履けるのか? すり抜けちゃうんじゃないか? って思ったんですけど。でも履けたんですよ! これが。ちょうどスポッとはまって。


 やったー! と思ったら、消えちゃったんですよ。靴と一緒に。もうガッカリ。まだ全然鑑賞してないんだもん。


 でもね、その翌日家に帰ってきて、玄関で靴脱いでたら、頭の後ろにコツーンと何か当たってきたんすよ。


 いてぇ! と思って振り返ったら、姉貴のハイヒールが落ちてました。


 俺、お古の安物だったから怒ったんじゃねーかなぁと思って。


 だから今度は、新品のいい靴買ったげるんですよ。それで今、金貯めてるんす。




 そういうわけらしい。

 今夜あたりまたぶら下がるだろう、と野村は嬉しそうに言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る