第6話 子供たち

 有紀さんは大学の春休み中に、友人の実家に招待された。


 そこは小さな田舎町で、都会っ子の彼女には、家のすぐ近くに山が迫っているという状態が、とても新鮮に感じられたそうだ。


 友人の家族は歓迎してくれた。中でもお祖母さんは特に気さくで明るく、孫娘の友達が訪ねてきたことを喜んでくれた。


 ただ、お祖母さんの話す方言が、有紀さんにはよくわからない。話しかけてくれる内容が理解できない、ということが少し心苦しかったが、「大丈夫、おばあちゃん気にしてないから」とフォローしながら、友人が通訳を務めてくれた。


 そうして実家に一泊させてもらった、その夜のこと。


 有紀さんがお風呂を借りて、友人の部屋へ戻ろうとしていたとき、トイレから出てきたお祖母さんと鉢合わせした。


「あれ、どこのぼこんとうずらか」


 彼女を見るなり、お祖母さんはそう言った。


「へぇ遅いのに、有紀ちゃんとこのぼこけぇ。あれれ」


 有紀さんが首を傾げていると、お祖母さんはしわしわの顔に照れ笑いらしきものを浮かべながら、


「へぇいんじゃんけ。あれ、ばあちゃん間違えちゃっとう」


 とおどけたように言うと、そそくさと部屋に戻っていった。


 何なの? とは思ったが、とりあえず有紀さんも友人の部屋に戻り、その後は何事もなく眠ってしまった。




 翌日、友人に最寄り駅まで車で送ってもらった。


「有紀さぁ、おばあちゃんが言ってたんだけど。昨日の夜、有紀の周りに子供がいっぱいいたってよ」


 藪から棒に、ハンドルを握る友人が切り出した。


「有紀の周りをぐるぐる回ってたけど、消えちゃったんだって。あのときはつい胡麻化しちゃったけど、やっぱり何だか心配だから教えてあげて、って言われたよ」


 特にわからなかった「ぼこんとう」という言葉は、「子供たち」という意味だったようだ。


「何それ……?」


 有紀さんには、子供はいない。いたこともない。幼い頃に亡くなった兄弟がいる、などという事情もない。


「ただ、心あたりっていうか……私の住むアパートの近くに、人形供養で結構有名なお寺があるんですよね。何の根拠もないんだけど、何でかなぁ、関係あるような気がするというか……」


 とりあえず、その後参拝には行ってみたという。その後「子供たち」がどうしたかはわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る