なごみ怪談

尾八原ジュージ

第1話 リングピロー

 奈々さんの知り合いに、比佐子さんという人がいた。姉の由美さんの親友だった。


 数年前、由美さんの結婚式のときに、比佐子さんがリングピローを作ってくれた。


「正方形のクッションの上に、小さいテディベアがふたつ載っていて、足の裏に姉と旦那さんのイニシャルが刺繍してあるんです」


 奈々さんはそう説明してくれた。


「すごく凝ってて可愛くて、私も結婚する時はこんなのが欲しい! って比佐子さんに言ったら、じゃあそのときは作ってあげるね、と約束してくれました」


 だが、由美さんの結婚式で交わしたその言葉が、ふたりにとって最後の会話になった。


 それからまもなく、比佐子さんは亡くなった。交通事故だった。


 まったく不慮の事故だったのだが、彼女はその数日前から、普段は会わない友人に電話をかけたり、由美さんに借りていた本を返しに来たりと、まるで死期を察していたような行動をとっていた。


「姉に聞いたんですが、比佐子さんってよく予知夢を見たり、勘が当たったりする人だったそうです」




 それから年月が経ち、今度は奈々さんが結婚することになった。


 式場を決め、着々と式の準備が進む中で、彼女は悪戦苦闘していた。リングピローである。


「うちは、私も母も姉も、みんな不器用で」


 と、奈々さんは苦笑する。既製品を買おうと思い探し回ったが、頭の中に比佐子さんの作ったものが理想としてあるせいか、どうにもピンとくるものが見つからなかった。


 かといって、姉のものを借りるわけにもいかない。ものがものだし、第一テディベアに刺繍してあるイニシャルが違うのだ。


 そんなある日、奈々さんの実家に荷物が届いた。送り主は比佐子さんの母親だった。


 宛先は由美さんではなく、奈々さんになっていた。丁寧に包まれた箱を開けてみる。


 リングピローだった。


 由美さんのものと同じく、クッションに2体の小さなテディベアが載っている。細部は変えてあるが、雰囲気はほとんど同じだった。


 手紙が入っていた。比佐子さんの母親からだった。ひさしぶりに比佐子さんの使っていた部屋を掃除していたら、「冴木奈々様へ」と書かれた段ボール箱を見つけたという。その中に入っていたのが、このリングピローだった。


 おそらく、由美さんの結婚式の直後に作ったものだろう。奈々さんはそう思ったのだが。


「テディベアの足の裏に、私と彼のイニシャルが入っていたんです」


 奈々さんと彼が出会ったのは、比佐子さんが亡くなった後だった。




 奈々さんの結婚式では、そのリングピローが使われた。披露宴会場にも飾られ、その出来映えに感心して、写真を撮っていく招待客も多かったという。


 由美さんに会った時には、今でも比佐子さんの話になるそうだ。

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