Heavy Drinker

丹波このみ

第1話 呑み屋ではお静かに♪

世界中の酒が集まると言われている街、ガリュフ。

年中お祭り騒ぎのこの街は、世界各国から美味しい酒を求めて老若男女が押し寄せる。

街のいたる所に飲み屋があり、人の出入りも多い。

そんな街でも、人通りの少ない路地はある。地元の人間でも滅多に訪れない小さな路地裏に、その店はあった。

看板らしい看板もなく、言われなければわからないような、まるで壁に描かれた絵のような扉がひとつ。

そしてその扉の前に大きい女と小さい女の二人連れが立っていた。

小さい女がなんの躊躇いもなく扉に手をかけた。無造作に開けられた扉の中に二人の女性が消えると、路地裏は再び静寂に包まれた。


中は思いの外広かった。

静寂に包まれていた路地裏とは違い、一歩足を踏み入れると賑やかな声が聞こえてくる。

来訪者に客の目線が一斉に扉に集まる。

圧倒的に男性が、しかも荒くれ者と呼ぶに相応しい者が多い中、女性二人の組み合わせは場違いなように思える。

しかし、ほとんどの人間が興味を失ったように元の会話に戻っていった。


入ってきた二人もさほど気にすることなく、慣れた足取りで奥のカウンターへと足を進め、とまり木に腰を下ろした。

注文をしようと口を開いたところを後ろから剣呑さを含んだ声に遮られる。


「おい、ネーチャン。ここはあんたらみたいなのが来る店じゃねーぜ」


いかにもといった厳つい顔の男性が三人。

めんどくさそうに振り返った女性の眉間にしわが刻まれる。


「ちょっとマスター。ココいつからこんなマナーの悪い人間受け入れるようになったのー?」

「あ、マスターいつものロックで」


男たちを完全に無視した二人の言葉に男が凄みを聞かせて怒鳴る。並の女性だったら震え上がっただろうが、この二人は例外だった。


「おいこら! 無視してんじゃねーぞ!」


めんどくさそうに振り返った二人はため息まじりに口を開いた。


「あのさー、ここは楽しくお酒飲むところじゃん? 女性お断りって書いてるわけでもないし。お店に迷惑かけるような行為、控えたら?」

「気に入らないなら店移ればいいだろう」

「ああ!? やんのかコラ!!」

「出ていくのはお前らの方だろう!!」

「「なんで?」」


女性二人の不思議そうな声がきれいに重なる。


「てかさー、店ん中で暴力沙汰は御法度でしょ? 出禁になるよー?」


その言葉に男たちが顔を見合わせる。収まりがつかないながらも出禁は困ると思ったのかもしれない。

しばらく睨み合いが続いたが、その静寂を破ったのは意外にもマスターの一言だった。


「ここはお酒を飲むところです。飲み比べで勝敗をつけてはいかがですか?」

「おう! 受けて立ってやる!」


女性二人はマスターをチラっと見ると、顔を見合わせ、意味深な笑みを浮かべた。


「受けて立ちましょう♪」

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