その2 変身にゃ!

 とある研究所にて白衣を来た一組の男女が話をしている。

 というより男性の方が両手になにかを掲げ興奮気味に話している。


「見たまえ! 麻帆くん! ついに完成だ! ぼくの夢が現実になったんだ!」

「あーーはい、おめでとうございます。どうでも良いですけどこれ、残業付きますか?」

「いや、付けるけどさ、もっと喜んでよ。一緒に頑張ったじゃん!」

「えーーまあ、仕事はきっちりやりたいタイプですから」


 研究所と工場が合わさったようなラボで興奮気味の男性とその話をやる気の無さそうな女性がコーヒーを片手に適当に聞いている。


 男性の名は窓際まどさい 煙太えんた

 女性は 杉砂すぎさ 麻帆まほと言う。


 このラボの所長と研究員だ。そして今このラボで世界を変える発明が生まれたのだった。


「あーーぼくの夢、この変身ベルト! これで悪の組織をやつけるんだ」

「へーーいたら良いですねそんな組織」


 麻帆は興味無さそうにパソコンになにやら打ち込んでいる。窓際は気にしていないところをみるといつものやり取りなのであろう。


 トラブルは突然やって来る! ラボのドアが激しい音をたて勢いよく開く。


「おい! ここに世紀の発明があるらしいじゃねえか。大人しく寄越せ!」


 銃を持った5人組が入ってくる。


「おい、麻帆くんいたよ、悪の組織!」

「わーー本当にいるんですね。でここからも残業付きますか?」

「うん、つけるからもう少しリアクションしてよ」


 不審者が来たのに喜ぶ男と興味無さそうな女を見て、銃を持った男達の方が戸惑う。


「こ、このベルトは渡さないぞ! これは正義の為に使うんだ!」

「あのーー所長が着けて戦えば良いじゃないですか。力とスピードが4倍になるんでしょう?」

「そ、そうなんだけど、人体への負担も4倍だからよっぽど丈夫じゃないと使えないよねこれ」

「けっ、使えねぇーー」

「麻帆くん? あれ? そんな感じだったっけ?」


 相変わらず無視され流石に男達も苛立ちが頂点に達する。


「ぐだぐだうるせえんだよ! 早く寄越せ! それなんだろ早くしろよ!」


 1人の男が銃口を窓際に向ける。流石に窓際達も無視が出来ず緊張感が空間を支配する。


 そんな空間を演出するかのようにラボの上で雷が鳴る。

 やがて1つのいかずちがラボの天井に落ちそのまま破って、ちょうど窓際達と男達の間に落ちる。

 落ちてきた雷の衝撃で窓際達は吹き飛ばされる。


 落雷の衝撃で辺りに誇りが舞い上がり視界が悪くなる。


「いたたた、痛いにゃー」


 声が聞こえる。


「崖から落ちたけど助かったのかにゃ! 運が良いにゃ!」


 煙が晴れ視界が良くなってくる。


 そこには研究員とネコ耳の少女と銃を持った男達がいた。


「にゃーーにゃんだお前ーー!」

「お前がなんだーー!」


 銃を持った男達とネコ耳の少女、シシャモは威嚇し合う。


「お前が何かはどうでもいいから、その手に持っているものを寄越せ!」

「にゃ? 手?」


 シシャモの右手にはいつの間にかベルトが握られていた。


「いいから寄越せよ!」


 1人の男が無理やりシシャモからベルトを奪おうとベルトを引っ張ってくる。


「にゃんか分からんけど嫌にゃ!」


 ブンブン、ベルトを振って抵抗する。


「あっ!」


 シシャモの見た目より力が強かったのか男がベルトを手から放してしまう。

 放されたベルトはシシャモのちょうどおへそ辺りに当たるとバンドが勝手お腹に巻かれ背中でロックされる。


 ガチャン! キュイーーーーン


「にゃにゃ! にゃんの音にゃ」


 お腹のベルトから鳴る音に驚くシシャモに窓際が何かを投げる。


「ネコ耳の君、それを使うんだ!」

「なんにゃ? これは」

「それはフロッピーディスクだ」

「ふりょぴー?」

「ふっ、さてはフロッピーディスクを知らない世代かな」

「いや、そもそもここどこにゃ、お前誰にゃ!」

「そんなことはどうでもいい! さあ、早く右のレバーを引いて待機状態にして、真ん中の穴にフロッピーディスクを差し込んで変身するんだ!」


「やらせるかよ!」


 男達が銃を発泡し銃口から火花が散り煙が立ち上る。

「にゃ、にゃ、にゃにする」


 シシャモは転がりながらも避けて物陰に滑り込む。


「あーーなんにゃもう! これを引っ張れば良いにゃ?」


 ベルトの右レバーを横に引っ張る。ベルトが派手に光り始め音楽が流れる。


 キュイキュイン! スタンバイモードOK! ジャジャーン!

 ズンズンチャ! ズンズンチャ!


「うるさいにゃこれ!」

「ネコ耳の君その状態でフロッピーディスクを差し込むんだ」

「ふロビー? これかにゃ」

「えい! えい! 上手く入らないにゃ」


 シシャモがフロッピーディスクを上手く入れれずあたふたしていると


 シュイーーン! グッバイ!


 そう音声が流れベルトは静かになる。


 ガチャン!


「お! 入ったにゃ! ん? でどうするのにゃ?」


「あ~待機音声中にフロッピーディスクを差し込まないと変身出来ないんだ! 省エネモードが発動するから音楽ループ4回でスリープ状態になるんだ! もう一回やろう! 諦めるな!」


 どこの誰も知らない男が熱く語っている姿にシシャモはうんざり気味な顔をみせる。


「いや、そもそも初めからやる気は無いにゃ」


 そう言いながらも、シシャモはとりあえずレバーをもう一度引いてみる。

 音声が流れ始めフロッピーディスクを差し込む。今度は上手く入れれた。


 ガッチャン! フロッピーディスク リーディングOK! ノーマルモード スタンバイ!


「いいぞ! それで真ん中にあるボタンを叩くように押してこう言うんだ」


「変身!」


 窓際はどっかの仮面を被ったバイク乗りみたいなポーズをとる。


「あいつ頭大丈夫かにゃ? まあ、この場合流れに身を任せるしかなそうにゃ」


 ベルトのボタンを叩く。


「変身にゃ!」


 キュキュキュイーーーーン!!


 目映い光が放たれ皆が目をつぶる。


 やがて光が消えるとそこには、全身が赤色のパワードスーツに胸元と手足に銀のプロテクター、腰には短いスカート、赤い仮面を被り、首に白いマフラー、目は昆虫の複眼のようで黄色く光る。

 そしてネコ耳と尻尾にアホ毛。


「にゃんだこれーー!」


 シシャモは自分の姿が変わったことに驚く。


「ありゃなんだ、あれが発明品? と、とりあえず撃て!」


 男達の銃口が再び火を吹きシシャモに向かって鉛の弾を発射する。


「あいててて、痛いにゃ!」


 突然の変化に呆然と立っていた為、被弾してしまうがダメージがシシャモに入らない。

 頭上に[0]の文字が出ては消えて行く。


 シシャモは自分のステータス画面を開く。

 

 LV.1のまま特に変わったものはない……いや項目が1つ追加されている。


[ステータス・スキル補正 パワードスーツ着用時4倍]


「パワードスーツ? これのことかにゃ? 4倍補正ってレベルが上がれば上がるほど、とんでもないことににゃるのでは?」


「今はとりあえずあいつらを倒すにゃ!」


 男達へ攻撃するため

 シシャモのスキル『跳躍』を使用してジャンプして飛び込む。


「って飛びすぎにゃーー!」


 男達の元へ飛び込もうとしたら体当たりになり結果2人を倒す。


 ピロリン[経験値+4]


「おぉ! 初めて見たにゃ! 後3人いるからレベル上がるんじゃにゃいか?」


 初めての経験にちょっと興奮するシシャモに男達が銃を撃つ。


「ふふふ、見えるにゃ! 攻撃が見えるにゃ!」


 銃弾を避け素早く2人の男のお腹と顎にネコパンチを繰り出す。

 そのまま走り、空中でくるっと横回転して回し蹴りを最後の1人の顔面にヒットさせる。


 空中に輝く

『クリティカル』

 の文字。


 ピロリン[経験値+6]


 パパパパーーン!


[LV.1→LV.2]

[会得スキル 変身 ベルトの空間収納可能]


「おおーーレベルが上がったにゃ!」


「凄いぞ! ネコ耳の君! そうだ変身を解除するにはレバーを押し込むと良い」


「お、こうかにゃ」


 ガチャーーン! シュイーーン! グッバイ!


 シシャモが元の姿に戻るとベルトが空間に空いた穴に吸い込まれ消えて行く。


「なんだそれは? ベルトが消えたぞ!」


 窓際が驚いていると空に稲光が走り、雷が落ちてシシャモに当たる。

 雷の衝撃でラボが揺れ塵や埃が舞い上がる。

 煙が晴れるとそこにはシシャモの姿はなかった。


「なんだったんだ彼女は……消えたのか」

「所長、ベルトも消えましたよ」

「あーーーーーー!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る