第4話 青年の日の思い出(「焼鳥×野菜巻き串 くるくる」さんの松囃子)

晩酌の儀を始めるにあたって、買ってきたパックを並べるのはここ数日の恒例となっている。

ただ、串の味が移るのを避けてか小分けにされており、今宵はその数が多い。

机上がいっぱいとなるため纏めながらの開封を続ける。

その合間にウィスキーソーダでお浸しと豚キムチチーズで心を鎮める。

一昨日のお好み焼きの際にキムチを買い忘れたのを我ながら恥じたが、その悔いを晴らすには充分であった。

半分空いたジョッキを見つめながら、私は昨年の自分に思いを馳せた。


昨年の梅雨の頃、熊本では「ためし酒」というイベントがあった。

この街を中心に行われた祭典に私も参加し、その際は様々の店を知ることができた。

ただ、こちらの「焼鳥×野菜巻き串 くるくる」さんは気になっていたものの、利用可能日と私の予定が合わず当時は訪ねることができなかった。

その後、気にはなりつつもなかなか機会がなく、このような形での初利用となった。


僅か十か月前の高揚を懐かしく思いつつ、その頃の心に戻って次の品に手を付ける。

鶏皮の塩と鶏皮餃子を続けて頬張り、さらに、肉汁を湛えた身を皮が支える唐揚げが続く。

皮被りにここで気付くも、そのいずれもが異なる個性を主張して愉しい。

そして、ポテトサラダをクラッカーに乗せて小休止。

本丸にとりつく前にジョッキを空け、呼吸を整え、三杯目のウィスキーソーダを作って対坐する。


一礼し、チャーシュー丼に箸をつける。

幾重にも重なったチャーシューに度肝を抜かれながら、ひとまず、オニオンスライスとタレの染みたご飯で様子を伺う。

それだけで胸の高鳴りは止まないのであるが、一切れにかぶりつくと三枚肉の歯ごたえが小気味いい。

透明な脂身は琥珀を彷彿とさせ、その秘められた強かな味は青春を呼び起こす。


何の憂いもなく、自由に白米と脂身を堪能できた時代。

胃袋が余裕に満ち、敵なしと誇ることができた時代。

その過ぎ去った時代の追憶に突き上げられ、そのままの勢いで丼を平らげた。


後に残ったのは満腹感と満足感。

そして、この夏に向けての希望。


「ためし酒」の今年の開催を知らせるポスターが、凛として街角を見据える。

まだ、街の灯は燦然として輝いていることを堂々とその姿は示していた。



【店舗情報】

「焼鳥×野菜巻き串 くるくる」

熊本県熊本市中央区下通1-8-18ツインビル1F

電話番号:096-356-5599

営業時間:月~日、祝日、祝前日: 18:00~翌6:00(3:00?)

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