第38話 羽根(4)

バーンの声が響き続ける中、影の頭上が円形に光を放ち始めた。

建物のちょうど天井付近だ。

辺りは昼間のような光に包まれた。

天使の召喚をしながら、門を開けようとしていた。

本来なら霊的に高まった地でもないこの場所に門は開かない。

ガーディアンズ・ゲートのようなものがないと不可能なはずの召喚をバーンは独りでやろうとしていた。

心のどこかに確信があった。

自分の『力』を怖れずに、暴走させることなく使えれば、門なしでも召喚が可能だと。

この周囲の精霊達がみんな好意的に力を貸してくれると。

そうすればおのずと天界の門は現れると。

「おお、大地よ、悲しむべきかな!

悲しむべきかな!悲しむべきかな!

悲しむべきかな!悲しむべきかな!悲しむべきかな!

地の悪行は……過去、……現在、……未来を通じて大いなるもの…なり」

頭上の円形の中に光の八芒星が出現した。

その中心がまばゆい光を放っていた。

臣人は結界を張りながら、目を見張った。

今まで感じたことのないほど大きな『力』の流れを感じた。

マイナスの気ではない。

あたたかいプラスの気。

癒しの光。

浄光だ。

(ヒュ~っ!まさかこれほどとは!

いつになく『力』の開放率が大きぃんやないか!?

これが本来のアイツの『力』なんか?)

風にあおられた炎がその門に向かって渦を巻いて吹き上げていた。

ちょうど回廊を掛けるような形で下から上に流れ込んでいるように見える。

同じように光が上から下に差し込んでいた。

さらに身動きがとれなくなった影はもがいていた。

「離れよ!」

一際、厳しい口調でバーンが命令した。

影はビクッとして動きを止めた。

「されど…汝の大いなる音は離れるなかれ!」

その声を境に今度は苦しみはじめた。

声を上げて、のたうち回っている。

それと同時に榊も右肘を押さえた。

鋭い痛みが走った。

その影の苦しみと同調しているようだった。

バーンは右手を降ろすと手を開いたまま榊の背後に向けた。

ゆっくりと両眼を閉じた。

精霊の力を右手に集中させた。

「Coraxo Chis Cormp Od Blans Lucal Aziazor Paeb Sobol IlononChis OP Virq Eophan Od Raclir Maasi Bagle Caosgi, ・・・Ds Ialpon Dosig Od Basgim, ・・・Od Oxex Dazis Siatris Od Salbrox,・・・Cinxir Faboan Unal Chis Const Ds DAOX Cocasg Ol Oanio Yorb 」

聞き取りづらい音の羅列が聞こえ始まると榊の背中が温かくなってきた。

痛みを感じていた腕からその苦痛がすうっと消えていった。

榊は腕を押さえながら身体中の力が抜けていっている気がした。

何か優しいものに包まれて、護られている。

そんな気がした。

「統……」

これ以上は言葉にならなかった。

バーンは右腕の傷に取り憑いていると言った。

自分が願わなければ、離すことはできないとも言った。

榊は心の中で必死に離れてくれるように呼びかけた。

これ以上自分を苦しめないでほしいと懇願した。

実体のない霊ならばちゃんとした所へ行ってほしかった。

何度も何度も思った。

何度も何度も願った。

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