第5話 新たな拠点

 陛下が報酬についての説明を始めようとしていた。


「ところで樹はまだ宿住まいだったよな?」

「はい、そうですが、それが何か?」

「いや、Sランクになってまでいつまでも宿住まいというのはどうかと思ってな、拠点となる屋敷を用意した」

「え、あ、はい」

「ここなんだがな」


 そう言って陛下は地図を取り出した。


「ここって、貴族街じゃないですか!? いいんですか?」

「ああ、その辺は問題ない。樹の今までの実績を考えたら、拠点となる屋敷を与えるのが遅いくらいだからな」

「なるほど……」

「それと、使用人も何人か派遣しておいたからの」


 陛下は微笑んだ。


「それは助かります。ありがとうございます」

「お前さんの今までの頑張りの結果だ。気にするでない。早速、今日から住めるようにしといたからな」

「分かりました。では、早速行ってみようかと思います」

「ああ、ご苦労だったな」


 樹は席を立ち、王宮を後にした。


「陛下からもらった地図によるとこの辺り何だけどなぁ」


 そこは、王宮から歩いて数分。

貴族街の中でも一等地に当たるところだった。

貴族街は王宮から近ければ近いほどその価値は上がり、地位も高くなるのだ。


「ここだよな……」


 流石は元は王家所有の屋敷なだけあってかなりの大きさだ。

門には綾瀬の文字と陛下から頂いた家紋が描かれていた。


「入っていいんだよな。俺の家だもんな」


 樹は玄関の扉を開けて中へと足を踏み入れた。


「「「おかえりなさいませ、旦那様」」」

「あ、ああ、ただいま」


そこには執事、メイド、料理人、庭師、警備員など家の使用人たちが並んでいた。


「私、綾瀬家の家令を務めさせて頂きます、執事のセザールと申します」


 そう言って深々と頭を下げた。


 白髪混じりの頭に燕尾服姿。

歳は60歳前後といった所だろうか。

いかにも仕事が出来るという感じがひしひしと伝わってくる。


「メイド長を務めます、アリアと申します。旦那様の身の回りのお世話をさせて頂きますので、何なりとお申し付けして」


 アリアと名乗ったメイド長は20代前半くらいの銀髪をポニーテールにした、美しい女性だった。


 他にも使用人たちが樹の元に次々と挨拶をしていく。


「それでは皆さん、仕事に取り掛かるように」


 セザールの指示で皆、それぞれ仕事に取り掛かった。


「二人とも、少しいいかな?」


 樹はセザールとアリアに向かって言った。


「はい、なんでございましょうか?」

「おれ、スキルで人のステータスを確認出来るんだけど、二人のステータスを見てもいいかな? 陛下が戦闘スキルにも長けてる者をって仰っていたから」


 人のステータスを勝手に覗くのは失礼な事なので、いくら使用人でも、確認を取らねばならない。


「私は構いませんよ」

「私もです」


 二人の了承を得た所で樹はスキル『鑑定』を使い、ステータスを確認する。


「では、ちょっと失礼しますね」


 この時はこの行動が今後の自分の冒険者生活に変化をもたらすとは考えもしなかった。


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