Line 16 新規導入した機械の説明会

その日の講義を終えて夕方になった頃、教室棟にあるパソコン室にて新しい機械の説明会が始まる事となる。

 新しい機械って…

僕は、昼間に光三郎が話していた機械の実態を知り、茫然としていた。

説明会を実施するというからどんな凄い機械が導入されたのかと期待していたが、パソコン室に運び込まれていた機械は日本の企業ならどこにでもある物―――――――――――――スキャナー機能のついた大型の複合機プリンタだったのである。

「これで、テストに限らず色々な用途で使えそうですネ」

フー先生…」

すると、僕の隣に立っていた宥芯ユーシンがその場で呟く。

因みに今回の説明会では、一度に全教職員や事務・技術員が集まる事が困難のため、2回に分けて実施されている。僕が参加しているのは、その内の1回目の方だ。

「これで、使い魔にやらせる必要もなくなりましたね…」

「手書き複写も、大変でしたしね…」

一方で、他の教職員達も複合機プリンタの事を話していた。

 …今回、複合機これを目にするのが初って事は、今までどれだけアナログな方法でやってきたんだろう…?

僕は、彼らの会話が英語のため意味は解らなかったが、機械への視線から「初めて見る機械」だと認識しているのを感じ取っていたのである。


「では、新たに投入した機械の説明と、読み込んだデータの扱い方について説明を始めます」

翻訳機を片手に説明するのは、初めて目にする技術員だった。

 光三郎しか技術員は知らないから、少し新鮮だな…

僕は、彼の説明を聞きながらそんな事を考えていたのである。尚、光三郎は2回目の説明会にて、教職員や事務職員らに説明する事になっているようだ。

彼の説明によると、複合機プリンタで読み込んだデータは様々な手段で活用が可能のようだ。インターネットを介してE-mailで配信したり、FTPサーバーに送ればデジタルデータとして保管も可能だ。他にも、共有フォルダーに送信したり、設定したパソコンのフォルダーに直接送信も可能だという。

「では、今度の定期考査については、サーバーに保管するか教職員が使用するパソコンに直接送るのが最善だろうか?」

「…そうですね。E-mailだとメールアドレスを登録する事になりますが、そこで個人プライベートのメールアドレスに送信されて悪用される可能性がありますから、E-mailは避けた方が無難でしょう」

すると、教職員の一人が、技術員に対して質問をする。

すると、その技術員はすぐに答えてくれた。


その後、実践という形で技術員が手本を見せてくれる事となる。

その技術員は1枚の書類を取り出し、複合機のカバーを上にあげる。次に、読み込む側の原稿を読み込む硝子面に押し当て、端っこに描かれている用紙のサイズに合う場所へと書類を合わせていく。

彼がスキャンしようとしている紙は、A4サイズの書類のようだ。

僕を含め、説明を聞いていた教職員達がその行動を観察していた。画質等の調整を複合機のパネル上で操作し、書類のスキャンが開始される。

 この機械音、懐かしくもあるなぁ…

僕は、技術員の実践を見守りながら、魔術師学校ここに来る前の職場について思い返していた。前の職場では、複合機プリンタでスキャンやコピーをする事なんて、日常茶飯事だ。その光景は、誰もが目にしているだろう。しかし、今は違う。普通の人間社会よりはアナログではあるが、新しい技術ものを取り入れようとする魔術師の学校。現在いまの人間社会に近づこうとする魔術師達の光景は、かなり新鮮に感じていたかもしれない。

「スキャンが終了しました。それでは、今回は自分のパソコンに直接送っているので、画面上からチェックしていこうと思います」

スキャンした書類を取り出した技術員は、その場にいる全員の前で述べる。

その直後、彼が使用するノートパソコンを開いて、スキャンしたデータを確認していた。また、個人のパソコンに直接送る際は、専用のアプリケーションが必要である事もこの時補足で説明されたのである。

「今度の定期考査で使用する採点システムは、特定のアプリケーションを開き、そこにあらかじめインポートしておいた各科目の回答データを元に自動採点を行うという事になりそうですね」

技術員は、ノートパソコンのデスクトップ画面にあるアプリケーションのショートカットをその場にいる全員に見せながら話す。

「質問をいいですカ?」

すると、技術員に対して宥芯ユーシンが挙手をしていた。

「はい、何でしょうか」

「自動採点システムに取り込むテストの回答データは、複合機プリンタからスキャンして使用はできますか?」

彼女は、自身が感じていた率直な疑問を述べる。

 それはちょっと無茶なような…

僕は、内心で呆れながらも話に耳を傾けていた。

案の定、技術員も苦笑いを浮かべながら口を開く。

「それは流石に厳しいでしょう。採点システムでインポートできるデータの拡張子は、CSVファイルと決まっています。複合機プリンタでスキャンしたデータは基本、JPEGファイルかPDFファイルのいずれかなので、できないと思って頂いた方が良いです」

「……わかりましタ」

技術員の返答を聞いた宥芯ユーシンは、半分納得したような表情かおで呟いていた。

彼女が呟いたのとほぼ同時に、外から馬の足音のような音が響き始める。


「少し失礼するわ!!」

「ヴァネル氏!!?」

足音と共にパソコン室へ現れたのは、リーブロン魔術師学校の救護室担当のミシェル・ヴァネルだった。

その姿を見た教職員達は、何が起きたのかと目を丸くして驚いていた。それは、僕とて例外ではない。

「ミス・ヴァネル。急いでいるようですが、何かあったのですか?」

説明をしていた技術員が、ミシェルに問いかける。

すると、少し息のあがっていた彼女は、深呼吸をしてから口を開く。

「原因は今の所不明なんですけど…どうやら、間違えて風の精・エアリエルが学内のパソコンに侵入したようなの」

「なっ!!?」

彼女が述べた思いがけない台詞ことばに対し、その場にいる全員が驚いていた。

同時に、動揺の空気が広がり始める。

「そもそも、エアリエルがパソコンに侵入できるものなんですか?」

「風は、ありとあらゆる物を運ぶ能力ちからを持っています。それは、他人だけではなく自分自身も…。加えて、パソコンを動かす電気は、つまる所“雷”…。連なる属性故に、間違えて入ってしまうなんてことが起きたのかも…」

僕の素朴な疑問については、宥芯ユーシンが答えてくれたのである。

「それで、私は皆への連絡係として、方々を回っているんです!まだ説明会は終わっていないと思いますが、一旦パソコンや機械類の電源を切るよう伝えに来ました」

「成程…!」

それを聞いた技術員は、すぐに彼女がパソコン室を訪れた理由を悟った。

現在、通常の講義は終了しているので、生徒がパソコンを開いている可能性は低いだろう。一方で、生徒達が使用していない分ノートパソコン及び複合機プリンタを起動している今この場所が悪目立ちしてしまう。


『ちょっと!勝手に入らないでよ!!』

「ライブリー!?」

技術員がパソコンをシャットダウンしようとしていると、Mウォッチに宿るライブリーに声が響いてくる。

僕は彼女が宿るMウォッチを見つめたが反応はなく、ひとまず次に話しかけてくるまで待っていた。

『…朝夫。今、変な奴がMウォッチの中に侵入する所だったわ…。何とか、撃退したけど…』

数秒後、ライブリーがため息交じりの声でこちらに応答してくれた。

「けど……どうした?」

僕は、ライブリーが言いかけたその先を聞き出そうとする。

「プ…プリンタから、何かが印刷されている…?」

すると、複合機プリンタの近くにいた教職員が、機械の不自然な動きに反応する。

技術員が使用していたノートパソコンはシャットダウンしたため、印刷はすぐにできないはずだ。

「…もしかして…」

『…多分、朝夫が考えている事が正しいと思う』

成り行きを見守っていた僕が呟くと、ライブリーもそれに応えてくれた。

「…って、なんじゃこりゃ!?」

技術員が、複合機プリンタから取り出されたA4サイズの紙を手に取るや否や、声を荒げる。

『風の精が私達・電子の精霊みたいな真似ことができるとは思っていなかったけど…』

ライブリーは、その場で溜息をつきながら呟いていた。

印刷されたA4サイズの紙に書かれていたのは、アルファベット表記なので英語かと思われるが、並びがメチャクチャでわかりにくい文字の羅列がたくさん印字されていたのである。その現象は、このネットワーク機能がある複合機プリンタに風の精・エアリエルが侵入してしまった事を意味するのであった。

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