第7話・聖女が城にやって来た
あるいは異世界からの聖女の降臨、その
魔王によって世界が歪められたことで現れたらしく、本来なら魔王を斃すことで解放される魔力により元の世界に帰れるらしかった。
けれど魔王の魔力は全てロタール殿下が吸収してしまった。実質ロタール殿下が魔王位を乗っ取った形である。私としては、もちろん絶対に彼を傷つけて欲しくはない。彼女の帰りたい想いには共感したし協力も惜しまなかったけれど、彼を傷つけるか否かに関してだけは譲るつもりはなかった。
ついでにいうと純粋に実利の面だけを見てもロタール殿下をどうこうするのはよろしくなかったりする。彼が魔王を喰らってから、魔物の活動も魔王登場以前よりおとなしくなったからだ。仮に彼が斃れれば、魔物の活動が活発になる。彼から放出された魔力が再び魔王を形成すれば、なおさら魔物禍が酷くなるだろう。そもそも彼を傷つけられるか、傷つけても殺せるかという問題もあるけれど。
では帰りたいとねがう聖女に対し、私たちは何をしたか。ロタール殿下がその全智全霊をもって聖女の元いた世界への門を開いたのだ。単純な方向性しか与えられていない解放された魔力で帰れるのだから、もっと効率的な術式を使用すれば消費魔力を抑えられるだろうとロタール殿下は考えた。そして今までの研鑽の甲斐あって、素晴らしい術式を組みあげた。私やリオネル殿下、聖女自身も手伝ったが肝心な部分はやはりロタール殿下の手になるものである。
実験も本番も成功し、聖女は無事に帰っていった。彼自身が言うには、術式の成功はアルケタイプとなり、神に近しい力をふるえるようになったがゆえに可能なある種の力技と言えるかもしれないとのこと。発動には、人間一人ではとうでい賄いきれぬ莫大な魔力が必要であったゆえ。それでも十分すぎる成果は出しているし、すごすぎて何がいけないのか私にはちょっと理解できない。
聖女は王城に滞在していたわずかな間に、レオナル殿下と恋に落ちた。なんだかんだ言って弟に甘いロタール殿下は後に、聖女の了承を得て再び彼女を召喚する。そして後に彼女はレオナル殿下と結婚した。生まれついての後ろ盾はなくとも、聖女はこの世界の人間には未だかつてない魔物の六体同時契約に三体同時使役の能力もちである。恐らく聖女の後にもそれが可能な人はいないだろう。人間の象徴ともいえる従魔化の能力がこれほど強力であれば、人類の守護を担う王家の配偶者としても相応しいのである。もちろん人格や教養も水準を満たしていなければ駄目だが、幸い彼女はその優しくも芯の強い人格に、常識こそ違うが高度な教育を受けていたという教養も、全く申し分がなかった。レオナル殿下と彼女は非常にお似合いだろう。
それにしても、聖女がロタール殿下と初めて対面した際、表面上は取り繕っていたとはいえ、非常な驚きと動揺を見せたのはなぜだったのだろうか。まるでここにいるはずのない人間、さらに正確に言うなら、とっくに亡くなったはずの人間に出遭ったかのような、怯えの混じった驚きっぷりだった。まあ、しばらくすると最初の頃の動揺が無かったかのような打ち解けっぷりもみせたのだが。
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