お家デート!?

第14話 好感触

 戦いとは生前から定められし運命であり決定的宿命に相違ない。

 これを聞いてまず一つ思うことがあるとするならば、それはずばり、「厨二病乙」か、「日本語でおk」と、そこら辺が妥当だろう。

 しかしながら、意味は的確に伝わらなくとも、伝えたいことは伝わっているのではないだろうか。


 どれだけ逃げたい戦況や境遇にあったとしても、決して逃げることは許されず、正当化されず、また回り込まれて逃げることは失敗に終わるのがセットだ。

 大体どのゲーでもモブ相手には逃げることが出来たとしても、重要イベントの場合逃げられないことの方が多いと思う。


 どの逃げ道を模索し探ったところで、自らが望む結末を辿ることは決して許されず、残されるは戦闘の道一択。


 つまり何が言いたいのかと問われてみれば、一つだけ言えることがある。というより言いたいことを用意してる。ひとつどころか山ほどある。その分で日本列島程の島国も爆誕する。しないけど。



「……格ゲーは戦うことが前提なのがおかしい」


「いやこれ戦うゲームだし、当たり前だから」


 俺の発言に呆れながらも抗議する声が横から飛んできたが、それをスルーする。

 3人ではやや手狭に感じる部屋の隅に置かれているシングルベットを背もたれにして綺麗に掃除されている地べたに腰を下ろして仲良くゲームをしている。

 小さなテーブルを挟んで置かれているテレビ画面に向かってコントローラーをポチポチと操作していた。画面に写る俺の操作していたキャラは見るも無惨に横たわっていた。


 つまりそれが何を意味するか、それは──



「負けた…。うぐっ」


「はい勝ちー。いやよっわ、まじよえーわ」


「南氏の急成長は目をみはるものがありますなあ」


「ふふーん?でしょー?もっと褒めてくれていいよ。ほら、高梨ももっと褒めて」


「対戦相手に素直に褒めるほど、俺は真っ直ぐにできちゃあいねぇよ!くそっ!もう1戦やる」


「ふーん?おけ。いいよ、もっかいね。オタク君はよ貸して」


 次の対戦相手のはずだった早尾が持っていたコントローラーを南は渡される前から無理やり奪い取り、さっきの試合の延長戦と急遽変更。「あぁ、次僕だったのに……」と、物悲しそうにぽしょりと呟き、期待に満ちていた眼差しをしょんぼりとさせた。


 一方南は俺の挑戦を真正面から叩き潰すつもりらしく、目をギラギラとさせ闘志を燃やしていた。

 格ゲーにまるで縁が無さそうなギャルギャルした南に負けるのは腑に落ちないでいた俺は、当然負けるつもりは微塵もない。



 勝ち筋を1回も見出すことは出来ず、画面にはもう見慣れたキャラと負けを意味するポーズが映し出される。何度噛み締めたかわからない敗北の味をあじわった。


 南は俺の隣に座る早尾を挟んだ横にクッションを下敷きにして、コントローラーを片手に腕を高々と上げて勝利宣言をした。それもこれでもかとドヤ顔を敗者の俺に見せつけてくる。少し腹立つ。というかだいぶ腹立つ。このアマァ…。ゲームじゃなくてリアルだったら、ほんのちょっと力入れて捻って痛い目にあわせてやってたぞ、まじで。女だったことを幸運に思えよ!



 南はあまりゲームをやっていないと始める前はそう言っていたはずだが、何回戦かする間にみるみる成長速度が上がり上がりで、それはもううなぎ登りを遥かに凌駕りょうがするレベルの成長具合だった。


 その結果、数十分も経つ頃には、格闘ゲームで俺はギャル相手に為す術なくコテンパンにされて負けた。状況を整理するとますます苛立ちが募り顔が歪む。



「それにしてもタカナ氏弱いでござるな?今度一緒にやる?」


「……いや、いい。やらない」


 挙句の果てには早尾に同情をされ、背中を優しくさすってくれる。

 南の素質が飛び抜けているということにしたかったが、どうやら俺が下手すぎるのも理由のひとつのようだ。俺、そんなに弱い?少し自信あったんだけどな……。



「はぁ…、どうしてこうなったんだっけ」


 自分が初心者相手にコテンパンにされた事実から目を背けたい一心で、つい独り言のように呟いてしまった。




 早尾が放課後の教室で、夏休みの誘いの返事を返す為に南のグループに一緒(付き添い)に突撃してから数日が経って、今日は土曜日で学校は休みだ。


 結局、あの日、遊びの返事だけのはずが、場の流れ的に一気に飛躍してしまい思いの丈を伝えるまでに至ったわけだが、南は遊びの話はオッケーで、告白の件は取り敢えず保留という形で落ち着いたのだった。


 どうやら最初は告白を断るつもりでいたらしかったが、高城や三浦の後押しが効いたおかげでなんとか保留、ということになったのだ。「知りもしないで決めつけるのは嫌いじゃないのか」と南の友達だからこそできる挑発だと思った。

 ちなみに後押ししてくれた理由は面白そうだから、だ。面白そうならば何でもやってみたくなるのが今どきのギャルというものだろうか?兎に角、好奇心旺盛のようだ。


 あれから事態はあっさりと終息し、完全下校を知らせるチャイムがなる時間のギリギリまで教室に居残りし、話は問題なくスムーズに進んでいた様だった。


 早尾も1回ペースを掴めばそこから躓くつまずことも無かった。何より、アニメの話から入れたのが大きかった。自分のフィールドからのスタートで勢い付いたおかげだった。

 どれもこれもアニメのおかげだ。……いや、アニメのおかげ、と言うよりは南が意外にも偏見や見た目で決めつけるタイプではなく、吟味した後で考えるという性格だったからというのもある。正直、これには南への好感度も上がった。


 翌日学校に来てみれば、予想よりも数倍早くに早尾の告白の話は拡散されていたみたいで、殆どの生徒が話を耳にしているみたいだった。


 1番驚いたのは、皆からの反応が好感触であったということだった。

 あの話がどのように広がったのか正確には知らないのだが、俺たち2人で話しているところにわざわざ足を運んで来た者達は口を揃えて「カッコイイことするじゃん」とか、「案外男気あるんだな」と声をかけてきた。

 てっきり数々の罵声やらが飛んでくるものだと覚悟していた早尾と俺は拍子抜けしてしまい、力がガクッと抜けたものだ。


 更に驚くことは、早尾の急成長であった。

 以前に比べて芯のある男になった気がするのだ。

 行動一つ一つに迷いがなくなり、かっこよく見えさえする。スポーツをやっていてガタイがよく顔立ちも整っていれば、それだけでかっこよく見える事例は当然幾らでもあるだろう。それでも、太っていて、そしてかっこいい訳でもない早尾の背格好で格好良く見えるのはとても不思議な感じだ。


 どれもこれも自信が着いたからなのだろう。

 俺としては彼の成長を傍で見ることが出来ることに知らず知らずのうちに感動を覚えていた。


 このまま、どんどん男を磨いていって欲しい。

 早尾の悪い癖や心構えが変わってこのまま容姿まで変わってしまったら、もしかしたら自分の傍から居なくなってしまうのではないかと不安に思ったりもするが、それはまだ彼には内緒にしておきたい。

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