第21話 side カエデ・シスタルト

 古びれた木造家屋。

 その中に、整えられて一室。

 そこが私の仕事場だ。

 整えられてるなんて言っても、それは凡そ50年も前の事だろう。

 今となっては隙間風が差し込む扉に防音機能や、断熱機能は期待できない。

 それこそ外が望める窓もいつ外れてしまうのかと思うばかりである。


 そんな、言ってしまえば完全に機能が低下した一室に設けられた机が、私の相棒だ。


「カエデさん! この書類ここ置いときますね」

「あ、はい」

「カエデちゃん! 薬草持ってきたよ!」

「あ、ありがとう」

 最近までは、仕事なんてろくになくて埃をかぶっていた机も今は輝きを取り戻し、そこに書類が積み上げられていく。

 といっても、王都のような大手のギルドとは違うので山がいつまでもなく、すぐに山は解けていくのだが。

 村の子どもが持ってきてくれた薬草を、作業テーブルに広げてもらい鑑定にうつる。

 周りの人には教えていないが、これでもギルドに来た当初は村の成績を上げるために、私が薬草採取を行っていたころもあるので薬草の見分けには自信がある。

「あ、これとこれは甘くておいしいんだよ」

「そーなんだ」

 薬草より先に紹介された、リンゴやミカンなどは完全に今回の依頼とは別だが、満足げに言ってくれるのでおとなしく聞いておく。

「で、この薬草。 トモギハーブの葉っぱが三十枚ね!」

「ちょっと確認するね」

 トモギハーブというのは解熱作用のあるこの地方の特産品だ。

 特産品といっても、村の外れの魔森地付近が群生地なので、以前は取りになんていけなかった。

 ただ、それは以前までの話。今は違う。


「えーと、30枚ちょうど! ありがとね」

「ううん、カエデちゃんを助けなさいってお父さんたちが」

「そっか」

「あ、じゃあ遊び行ってくるね!」

「はい、行ってらっしゃい」

 そういって手を振ってかけていく子に手を振り返し、ハーブを木箱にしまい納品書を書く。

 本当にお手伝い感覚でやっているから、彼の親の名前を書類に書き込み木箱の中に入れる。


 ついこの間までは、子供が薬草とりなんて考えられなかった。

 大人たちだって、薬草とりが危険を伴うからと嫌っていたのだから、それも当然のことだったが。

 それこそ、遊びなんて言ってもろくに遊ぶところはなく、荒れた公園で追いかけっこをしたりするぐらいだったが、温泉と一緒にそばに作られた遊び場は子供たちのいい遊び場の様だ。


 流石に、王都のような金属で出来た豪華な遊具はなく、全部木の手作りだが好評。

 たまに大人も遊んでいる節だってある。

 一部だが、予算を出資した側としてもうれしい限りだ。


「さてと...お礼言わないと」

 ここに至るまでの功労者は、頭の中で何人か浮かんでいるが、今回は一匹。

 その子のことを考えて、木の籠に入ったリンゴを一つ手に持つ。


******


「ワフ」

「グリド。 お疲れ様」

 ギルドの渋くなった木戸を押し開ければ、来るのがわかっていたのか地面に座り込んでいた大きな熊、グリドに声を掛けられる。

 鋭い牙と爪をちらつかせるその姿は最初見たとき怯えたが、こうもなじんだ姿を見せられればなんとも愛着がわいてくる。

「アウ」

「ありがとね」

 なんといっても、自分のつけた名前で反応してくれるのだからかわいいものだ。


 実際、私がリンゴをあげなくても自分でとれるだろうし、村の人たちから色々差し入れはあるのだが、こうしてリンゴ一個を嬉しそうに受け取られればこっちもうれしくなってくる。

「危なくなかった?」

「アウ...ガウ...アウ」

「そう」

 あの子の薬草採取に共に言ったであろうグリドは、ジェスチャーでどの辺に行ったかを教えてくれる。

 それを読み解く限り、魔森地の手前でやめたのだろう。


 この子が来てから、村の子どもたちが遊びやすくなり、村の大人たちも安心して生活ができるようになった。

 毎朝、決まってレントさんの家の方から大きな音が聞こえるがレントさん曰く『訓練です』だそうなので、グリドちゃんもレントさんも相当強いのだろう。


——レントさん


 ある日いきなり現れた凄腕の冒険者。

 シエテさんとリリスさんも美人だし、何よりリリスさんはレントさんより強いらしい。


「一体どういうかんけいなんだろうねぇ」

「アウ?」

「グリドはなんか知ってる?」

「ガウ」

 聞いたって教えてくれないのはわかっているが何となくそう聞きたくなってしまった。

 

 今レントさん達は、狼山カースに任務に向かっている。

 今回の任務はあまりにも怪しいのだがそれを承知で行ってくれた皆さんには頭が上がらない。


 最近の国からの任務はあまりにも怪しいものが多い。


 ガコン!


 グリドちゃんを撫でていれば、ギルドの入口に置かれたポストが音を鳴らした。

 誰もこの瞬間には投函をしていない。

 そして、ポストの前には私とグリドちゃんしかいないんだから。


 こうなってくると、予想できるのはただただめんどくさい自体のみだろう。


「はぁ」

「アウ?」

「あ、グリドちゃん気にしないで」


 ポストを開ければ、王都のギルド印が打たれた便せんが一つ。

 通信魔法によって一方的に送られてきた手紙だ。

 頭の中で浮かぶ、めんどくさいシナリオを考えて便せんに視線を這わせる。

『ミフネレイカを見つけ次第報告せよ』

 そんな最近典型文とかした内容が書かれている。


「うーん、ファイア!」

「アウ!?」

「大丈夫大丈夫!」


 掛け声と一緒に出した、炎でぱっと手紙を燃やし灰にする。

 なんでレイカさんを探しているかなんて知らない。

 わかろうとも思わない。

 少なくとも彼女は今、この村の住人でレントさんが置いている人だから悪いわけがない。


 なにより、

「助けてって言っても助けなかったくせに」

 何度も救援要請を送ってきた国なんて、私はとうの昔に見限っている。


「さて、グリドちゃんお仕事戻るね」


 だから、みんなの村を守るために今日も机に着く。


「取り合えず水増し請求しよ」




 

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