5話♡:迷宮の探索。

「あれ? 僕の提案なら、反対しないんじゃなかったの?」


 取りあえず、青筋が出そうになるのを抑えながら、ニコッと笑顔作ってみた。

 笑顔と涙は女の武器と言う。

 それを使うのは、些かの抵抗があるけれど、クラスメイトが僕をどう見ているかを考えれば、だいぶ効果的があるんじゃないかなとは思う。


 男であった自分を否定しているような気分に陥り、とても死にたい気持ちでいっぱいになったけれど、背に腹は代えられないのです……。


「う、うおおおおっ、やばっ」

「やばいな今の笑顔。くそっ……今回はしょうがねぇな」

「勇気って元々女みたいな顔してたけど、本当に女になったらスゲェな。破壊力が恐ろしい事になってる」

「うわー、俺だけに向けて欲しいわ、その笑顔。でもそうだな。勇気が困っちゃうもんな。困らせたいワケじゃないんだよ」

「独占欲そそるよなぁ」


 クラスメイト達が異常な歓喜を見せた。

 怖っ……。

 一瞬で了承して貰えたは良いけど怖いよ。


 ……気づいたら襲われていた、なんて事になったら嫌なので、一つ保険をかけよう。


「ところで、班分けすると一人余るよね。そう、先生のゴリ。で、そのゴリを僕の班に入れようと思ってる。……皆が知っての通り、僕は女になっちゃってるんだけど、この体だと男みたいには動けないんだ。これはつまり、僕の班は僕って言うお荷物抱えてるって事でもあるワケで、その補填として、ゴリを入れたいなって」


 本音は、元教師であり年上でもあるゴリの目があれば、仮に変な事を考えても行動には移せないだろうと思いましてです。

 ゴリ自身が襲う側に回る可能性については……ゴリは女に興味が無さそうだからまず無い。


 この提案は、概ね賛同を得られた。

 クラスメイト達の大多数が、「ゴリか……まぁゴリなら良いか。仕方ない」と受け入れてくれた。


 勝手に班決めをされたゴリ本人はと言うと、軽く肯定。

 以前に宣言した通り、基本的には、僕らが決めた事に文句を言わないつもりなのだろう。


 ただ、あくまで”大多数”が受け入れの姿勢を見せているだけなので、当然に中には微妙な感じの表情しているのも数人居たけれど――って微妙な顔してるの僕の班の奴らだった。


「ちっ……ゴリ必要無いよな」

「本当にな」


 僕の班から恐ろしい呟きが聞こえてくる。

 班員新しく決めなおした方が良かったかな……。

 とは言っても、もう決めてしまった事なので、今更どうにかする事も出来ないのであるからして、これに関しては諦める他に無いんだけどさ。

 それに、ゴリ保険をたった今かけた所なので、変な事を考えるクラスメイトが一人二人混じっていても、実際に行動には移して来ないとは思うし。



 さてはて、何はともあれ、探索班と待機班を決める事が出来た。


 で、最初の探索班をA班、B班、C班、D班と呼び、待機班をE班、F班、G班、H班と呼ぶ事にして――それから、どの班にどのアルファベットをつけるかの段階になって――と、ここでまた、懲りないクラスメイト達が不和を起こし始めた。


 ――待機班は絶対嫌だ。

 ――探索班以外は受け入れない。

 ――死んでも待機班にだけはなりたくない。


 そんな声がドッと湧いて来ました。

 探索班をやりたい、と言う声が圧倒的になりすぎて、割り振りに支障が出るレベル。

 なんでそんなに探索班をやりたいのだろうか。

 理由を訊いてみると、


「いやほら、迷宮って事は宝箱もあるかもだろ? なら、探索班だと手に入るワケだし」


 微妙に納得出来る理由ではあった。

 現時点では取らぬ狸のなんとやらだけど、それでも上手いこと自分だけ甘い汁を吸える可能性があるのならば、そっちを選びたいって言うのは理解出来る。


 ただ……気持ちは分かけるけども、皆が納得する方法を改めて考え直す、なんて事は僕的にはしたくなかった。


 だって面倒くさい。

 非常に面倒くさい。


 なので――班長によるアミダくじで決めようと言った。

 なので――純粋なる運否天賦だからね、と強行する事にした。


 反発を多少は招いたけれど、泣きそうな顔したらみんな一瞬で納得してくれた。


「うおおおっ! やったぜ探索班!」

「げぇ……待機班じゃん」


 各々アミダの結果に喜んだり落ち込んだり。

 うんうん。


「ははっ、俺も探索班だ。早めに凄いお宝の一つでも見つけて、勇気にプレゼントしないと」


 はて……何か気持ち悪い呟きが聞こえたと思ったら、茶メンだった。

 こいつ班長だったんだ。


 しかしプレゼントね。

 僕にとっての最高のプレゼントは、君みたいなのが目の前から消える事なんだけれど、一生気づかなさそうだよね。

 

 さて、茶メンの事は放っておくとして。

 取り合えず、このアミダで振り分けた班は七つだ。

 なんで八ではなくて七なのか、つまり一つ分抜かしているのかと言うと、例外枠を一つ作ったからである。

 僕の班――A班だ。

 A班は探索班って事で決定済という事にしたのだ。

 反対や文句は無かったのかって?

 出ましたよ出ました。

 これに関しては、泣きそうな顔しても許されそうに無い雰囲気ではあったかな。

 でも、


 僕が言いだしっぺだから責任あるし絶対やる!

 僕が行かなきゃ誰が行くの!?


 と、めちゃくちゃ暴れて納得させた。

 危険だからとか、心配かけさせんなって言う、鳥肌が立つ台詞も続々飛び出して来る中、寝転がって「やだやだ絶対やる」とジタバタ喚きちらして勝ち取ったよ。


 だって、魔物とのエンカウント率が高いのは、圧倒的に探索班だからね。

 何がなんでも探索班じゃないと駄目なんだ。

 最初からこの方向に持って来るつもりでもあったし。


 恥ずかしく無いのかって?

 そんな感情は、もう、だいぶ無くなりつつあります。


「……待機班か」

「……終わった」


 待機班の嘆きが聞こえて来る。

 この世の終わりみたいな顔をして、地面に膝をついて、嗚咽を漏らしているのだ。


 なんだか少しだけ、ほんの僅かにだけど、僕の良心が痛む。

 全員が納得する方法を考えるのは面倒くさいと思っていた僕だけれど、さすがに、こんな姿を見せられては、同情しないでも無い。


 そこで、探索した後には休憩も必要と言うことにも地味に気づいた僕は、戻って来る度に探索班と待機班は交互に交代でどうか、という案を出した。

「それで頼む」「ありがとう女神」と涙を流された。


■□■□


 なんやかんやと時間が掛かってしまったけれど、ともかく、これでいよいよ探索が開始である。

 班を小分けしているので、全ての道を手分けして探索していく、というやり方で行動開始だ。

 各探索班は、別々の道を進み、その後ろ姿がやがて見えなくなっていく。

 僕の率いるA班も、同じ様にして横道へと入り、奥へと向かった。


「……ん」


 ひんやりとした空気が肌に纏わりついて、僕は思わず唇を堅く結ぶ。

 大勢のクラスメイト達と一緒に居た時は、なんだかんだで騒がしいと言うのもあってか、そこまで強く意識はしていなかったけれど、こうして少人数になって見ると、ここは迷宮の中なんだと思い知らされる。

 班員たちも目を細めて、その空気を感じ取っているようだ。



 時に、A班にどういう人物が揃っているのかを、まだ説明していなかったよね。僕とゴリに関してはもう不要だから、それ以外の残りの四人について、述べようと思う。


■□■□


 一人目はくろがねと言う苗字の男だ。

 高身長かつ筋肉質な肉体を持っている。

 見た目通りに格闘技系の空手部に所属で、あんまりチャラくない男である。


「鉄には初段のあだ名を進呈しよう」


 茶メンと違って別にムカつきはしないけど、取り合えずあだ名を進呈しておく。


「突然なんだ。初段……まあ、空手はやってるけどよ」

「あだ名つけるの案外楽しいかも、ってちょっと最近思っただけだよ。それより、鉄は確か段か何か持ってたよね? だから初段ってあだ名にしたんだけど」

「あぁ持ってる。ただ、初段じゃなくて二段だ」

「二段ね……。二段なのに初段ってあだ名だと何かおかしいよね。それじゃあ初段じゃなくて二段で」

「好きに呼べ」


 そっけない。

 硬派と言うか何と言うか。

 まあ、僕を見る目にむっつりした感じが無いのは好印象である。

 ただ、異世界来る前と比べて、若干心の距離があるような、無いような……。

 同じ班だったから話しかけた事くらいあるけど、ここまでそっけ無くは無かった気はする。

 もしかすると、僕が女になったから、なのかな?

 二段は女の子が苦手なのかも知れない。



 二人目は、斉藤である。

 意地が悪そうな表情をいつもしていて、そんな見た目通りに悪い意味でノリが良く、度々変な問題起こすタイプでもある。

 先刻、ゴリいらねって言った筆頭でもあるね。


「君は……」

「んんっ? 勇気どうした? ……ところで、さっきあっちに宝箱あった気がしてなあ。二人で見に行かね? こっそりさ。安心しろよ。ちょっとぐらい手は出るかも知れねぇけど、そこはほら、気持ち良くしてやるから」


 斉藤が、ひそひそとそんな事を耳打ちして来た。

 ひしひしと伝わって来る性欲が、非常に気持ち悪い。


「行きたきゃ一人でどうぞー。大体、今はそれよりも、君のあだ名どうしようかなって思ってる所だったよ」

「ダーリンとかで良いんじゃね?」

「うーんと、そうだねぇ……ケダモノ一郎にしようかなって思ってる」

「お、おいっ。そりゃあんまりだ。俺を怒らせんなよ? 一生後悔するぐらい犯して――」

「ゴリの目があるけど? ゴリにボコボコにされたい? ドMだったの?」

「――くっ。ちっ、覚えとけよ」


 少し煽ってみた。

 こういう相手は強気で接するに限るのだ。

 下手に出たりすると、調子に乗って歯止め効かなくなるからね。



 で、三人目は、後藤と言うケダモノ一郎と仲が良いヤツで、性格も同レベルである。

 後藤のあだ名は……お友達のケダモノ一郎と揃えてあげる事にしよう。


「よし、ケダモノ二郎ね」

「はっ?」

「君のあだ名。ケダモノ二郎」

「イラッと来るあだ名つけるなよ。その口、あとで無理やり塞いでやろうか? 俺の口でな」


 ものすごく気持ち悪い。


「お? どうなんだ?」

「あんまりふざけた事言うとボコボコにするよ。ゴリがね」

「て、てめぇ。ゴリが居るからって調子乗りやがって……」


 こいつへの対応も、ケダモノ一郎と同じに、適当に煽ってあしらっておく方向で行こうと思う。



 さて、班員紹介も、いよいよ次の四人目で終わりになる。

 四人目は高橋と言う男で、性格やら容姿やら、何から何まで普通な感じだ。

 性格は……その場のノリに合わせるのが得意だけど、一方で思い切りが無い感じだったと思う。周りに流される、優柔不断タイプと言うか。


 さて……高橋にあだ名をつけるとしたら、何が良いかな。

 僕はちょっと悩む。

 そして、良い感じのを思いついた。


「高橋あだ名決まったよ」

「え? いや、俺はあだ名とか別に――」

「風見鶏で良いでしょ」

「……何か、馬鹿にされてる感じが」

「ケダモノ三郎が良い?」

「い、いや、風見鶏で良い」


 僕が風見鶏に少しキツく当たっているのには、理由がある。

 本人はその場のノリに合わせただけ、と言い訳するかも知れないけど、風見鶏も確かゴリの参加に難色を示していた。

 僕はきちんとそれを見ていたのである。


■□■□


 全員の説明が終わった。

 僕は一息つきながら、これからするべき事を思い出す。

 長々と人物説明が入ってしまったけれど、当初の目的を忘れてはいけないのである。

 

 ――僕のレベル上げ。


 と、まぁこのように目的が明確なので、後は行動するだけだ。

 やり方もちゃんと考えていたよ。

 エキドナに頑張って貰う事になるけれど、秘密裏にレベルを上げる方法を、思いついているのだ。

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