カモン!ケモナーの村

ゆるくちプリン

第1話 カモン!ケモナーの村

 


 プロローグ


 とある夕日の照りつける日、私は何故か電車に乗っていた。

 何故こんなところに居るのだろう?

 私、星野絵里は生粋のケモナーにして動物園の飼育員をしていた。

 しかし、突然倒れてきた板材から兎を庇って怪我をしたはずなのである。

 本来あれだけの板材の下敷きになれば、かなりの重症だろう、だが私の身体には傷一つなく、それどころか三日前に猫のニーナに付けられた傷まで治っている。

 戸惑っていた私の前に一匹の犬が現れた、しかし犬と言ってもただの犬ではなく、何故か二足歩行で歩いている。

 戸惑う私に、犬は口を開いた。

「前に座ってもいいかい?」

 やたらイケボだった。

 例えるなら男性歌い手くらいのいい声に私が戸惑う中、犬は続けた。

 君、兎助けた後の記憶ないでしょ?

 頷く私に笑顔で続ける。

「いやぁ、人間もまだまだ捨てたもんじゃないね。君みたいに動物を命をかけて助けるなんて、とても凄いと思うよ。君、名前はなんて言うの?」

 絵里です。私がそう答えると犬は満面の笑みを称えて、こう言った。

「絵里さんかぁ〜君には今から天寿を全うした動物達の村に特別に招待するよ!!」

(犬の決めポーズ)

(一瞬の静寂)

「はい?まずここ何処なんですか?貴方誰なんですか?」

 そう聞くと犬は笑顔で、

「この電車は絵里さんが元いた世界と、異世界を繋ぐ電車。そして僕はこの電車と今から行く世界アニトピアの管理人アストロって言うよ、宜しくね。」

 すいません、一つだけ良いですか?

 真剣な顔をした私の事を見て、アストロも真面目な表情になった。

 私には一番聞きたかったことがあった、ここで聞いとかないと後で大変な事になるかもしれない。

 そこって…ネット使えますかね?

 私の質問を聞き、アストロはお約束とばかりにズッコケてしまった。

 電車の中なのに。

「あ、そこなんだ二足歩行とかには興味無いのね。」

 しかし、アストロはすぐに自分の席に座り直し何も無かったかのように答えた。

「まぁ使えるけど通信料は君がいた世界の倍くらいだよ。」

 そうアストロが言い終わった時、電車のアナウンスが鳴った。

「間もなく〜アニトピア〜アニトピア〜」

「さぁ着いたよ、行こうか。」

 アストロはそう行って、電車の先の方に向かって行った。

 私も置いていかれないようにアストロに着いていく。ドアが開き、駅のホームに降り立った。

 

 通信料高いのかぁ… 

 

 

 

 

 チュートリアル 

 

 駅から出ると、私は信じられない光景を目にした。

 なんとそこには私が飼育員時代、モフり、そしてあの世へ送り出した動物達がいた。

 ただ、二つだけ違うところがある。

 それはそこにいた動物達がアストロと同じように二足歩行で歩き、当たり前のように話している。

 そんな非常識極まりないそして楽しそうな世界に驚き、立ち尽くしていた私にアストロは告げた。

「今からこの世界の住民に君の事を紹介させて貰うね。」

 やっぱり似合わないイケボだな。

 そう私が思った時、住民達がこちらの方に近づいてきた。

 そして大きな声でアストロが言った。

「はーい!皆こちらに注目してーこちら今日からこの世界に来た星野絵里さんでーす。皆もう知ってると思うけど仲良くしてあげてね〜。」

 アストロがそう言うと周りの動物達から一斉に拍手が起きた。

「ちょっ、ちょっと待って!」

 私は思わず声をあげてしまった。

 辺りが一瞬にして静寂に包まれる。

「貴方達は誰なの?ここはどう言う世界なの?なんで動物なのに二本足で立っているの?なんで通信料が高いの?」

 まくし立てるように、心に溜まった疑問を吐き出した。

 基本的な説明は電車内で聞いてはいたが、やはり信じられない。

 特に一番最後の疑問に関しては、何故なのか説明すら聞いていない。

 アストロは笑顔で答えた。

「ここがどう言う世界なのかはさっき説明したからある程度は分かってるよね?」

 私は頷いた。アストロは続ける。

「そして、ここに居る動物達は皆絵里さんが飼育員の時に天寿を全うし、絵里さんによって天国へと見送られた動物達…と、ここまでは説明したよね?」

 じゃあ何が疑問なの?アストロは不思議そうな顔をしてそう言った。

「あ、分かった。二足歩行でしょ?」

「イヤ、違うから、そこもまぁそうだけどそこじゃあ無いと言うか…」

 私が呆れていると、アストロが何かに気付いたかのように声をあげた。

「あぁ〜そうなんだ、そっちなんだネットの使用料金の方が二足歩行の事のよりも気になるんだ。」

 私は思いっ切り首を縦に振った。

「実は…ここ圏外なんだけど特別に繋いでるからさー普通だと通じない所に通じさせるための料金だよ。」

 期待外れな返答に私は少し落胆した。しかし、周りにいた動物達の底抜けに明るい笑顔を見ていると、何故かそんな事どうでも良くなって、つい笑ってしまった。私の笑い声が周りにいた動物達にも広がっていく。そして、その笑い声はあっという間にこの世界を満たした。

 アストロが、

「あ、二足歩行にはほんとに興味無いんだ、通信料の方が大事なんだ…」

 と、訳の分からない事を言っていたが全力で知らない振りをした。

 どうせ聞いたって分かんないしこれ以上行数多くすると読者さんが着いて行けなくなっちゃうもんね。

 私は笑いながら、何処なのかも知らないこの世界で過ごすのも悪く無いな、とか思っていた。しかし、私はよくよく考えそして絶望した。

 この世界って…お金必要なんだよ…な?

 気になった私は、近くにいたアストロに声をかけた。

「この世界って…お金必要なんですか?」

 私が質問すると、アストロは笑顔でこう言!った。

「イヤ、まぁ別に要らないといえば要らないけど…」

 アストロの返答を聴いて、私はかなりホッとしt 

「あ、でも絵里さん、その場合ですと家が無いので野宿してもらう事になるけど…」

 ホッとしたのも束の間、あっという間に来た非常事態である。

 このままだと若い女性が夜空の下で寝る事になってしまう。それは流石に……ね?

 途方に暮れていたその時、たまたま目の前をに覚えのある兎が横切って行った。

(あの兎は確か…)

 気づいた時には身体が動いていた。

 そう、あの兎の名前はミミ。

 私が板材から庇った兎だ。ここに来ているという事は…もう天寿を全うしたのだろう。幸せそうに笑う彼女を見ていると、とてつもなく幸せな気分になった。

 そして、なんともクズな事も同時に思い浮かんだ。

「私の事覚えてる?覚えてるわよね?貴女を庇って板材の下敷きになった飼育員の星野絵里よ!!」

 少し戸惑っていたミミだが、言葉の意味と私の事を思い出したのか、泣きだしてしまった。

 そして、私の方を向き素晴らしい笑顔でこう言った。

「ありがとう」

 と、私はその一言でもう涙を堪えるのが精一杯だった。

 しかし涙を堪えてこう言った。

「そうよね!私も貴女に会えて本当にうれしいわ!ところで、そんな私に恩返しができるとしたら、貴女どうする?」

 は?ミミはポカンと口を開け、私の言っている事が分からないと言いたげな顔をしている。

「いやだから、私に庇って貰ったんだから何かお返しするべきだと思わない?」

「いや庇ってもらっても気づいたらここにいたんだから、結局死んでんじゃねーか」

 遂に本性表したとばかりに、ミミは乱暴にまくし立てる。

「ほら、アストロさんも何か言ってやってくださいよ!」

 ミミは私の後ろに居たはずのアストロに助けを求める。

 しかし当のアストロ本人は、壁に半身を隠しながらそっと静かにミミを見つめている。

 助けるつもりは無いようだ。

「何故見てるんです!アストロさん!貴方と私は仲間じゃ無かったんですか?」

 どこかの特撮番組で聞いた事のある台詞を叫びながらミミは膝をついた。

 そんな事が目の前で起きていても静観しているアストロもアストロだと思ったが、今はそれがラッキーである。

 膝をつき、軽く絶望しているミミの肩に、私は優しく手を乗せた。

 やめてくれ、私が一番分かっている。あぁそうだよクズだよ。

 でも仕方ないじゃない私だってここで生きて行かなきゃならないんだから…仕方ないわよね。

「仕方なくねーよ。」

 そんな声が項垂れた兎から聞こえた気がするが私は気にする事無く次の動物の元に向かう。 

 御察しの通り、私は前世で世話をしていた動物達を片っ端から訪れ、恩返しと称して金を巻き上げたのだ。

 これにより、私は何とか雨風を防ぐ事のできるアパートを借りる事が出来た。

 …失ったモノも沢山あるが…

 例えばミミ、先程までは眩しい笑顔だった彼女の目は何故か虚ろだ。

 しかも何故か分からないがやたらと石をぶつけてくる。

 他にも老衰で死んだゴリラのニシさんは先程までは可愛い孫を見る目だったのに今では何故か目尻に涙を浮かばぜ、パチンコ、ボート、競輪…と、うわ言のように呟いている。

 少し可哀想な気がしたが、私だって生きていかねばならない。

 仕方のない事だと割り切ろう。

 兎にも角にも、これでこの世界で生きて行く事は出来そうだ。

 実は、アストロから役場で働かないか?と誘いを受けたのだ、これでニートになるという最悪なクズルートは回避出来そうだ。

(まぁ今も大分クズだが…)

 

 その夜、私は夢を見た。

 その夢には子供の頃の私が出てきた。

 捨て犬を拾って来て母親に叱られている。そんな事もあったな…あの犬、少しの間飼っていた。

 なんて名前か忘れたが拾って来て二ヶ月で眠る様に息を引き取っていた事は覚えている。

 思えばそれがきっかけで動物に携わる仕事に興味を持ったのかもしれない。

 次の場面は動物園の飼育員

 二十三歳の時に初めて担当の動物が亡くなった。

 その時の事は今でもたまに夢に見る。それだけショックだったのだろう。

 そして場面は変わった。

 そこには私が二十九年間の間に出会い、別れた様々な命があった。

 きっと、これから増えて行くことは無い無数の光が私を包んだ。

 

 起きて、起きてください…

 貴女には世界を救う運命があるのです…

 貴女はロ〇の勇者なのです…

  

 いや、誰がドラクエ始めろっつったよ。

 今ここでメ〇ゾーマ使ったら燃えるのこの小説の作者だから。

 そんなこんなで村で最初の目覚めは低気圧で頭は痛いし、新環境に慣れていないせいか、全身は倦怠感に包まれている。

 しかし生きて行く為だ。

 そう自分を鼓舞し、私は職場に行く為の準備を始めた…

「ここで生きていく」

 そう私は決心すると、部屋のドアを力強く開け、初めてだらけの世界へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 とある夜、村役場に勤める管理人は、短い間だが世話をしてくれたある女の子の写真を見て「おかえり」と告げた。

 

 

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