第3話 狙われた小林教授

 車を駐め渉ちゃんと僕は小林教授の元へと急ぐ。来るように指定された研究施設は大学の講堂とはだいぶ離れており周囲には木々がぐるりと植わっている。学生達の賑やかな喧騒は遠くここは静かだ。

 建物に近づくと黒服の男達が数人裏影から慌てたように出て来た。その内の一人が猿ぐつわに両手両足を縛られた小林教授を肩に担いで走り去ろうとしている。


「渉ちゃん!」

「はぁっ――」


 ザシュッ……ザシュッ!

 渉ちゃんの長い脚が男達を蹴り上げていく。彼女がリーチを伸ばすと拳が教授を担ぐ男の鳩尾みぞおちに決まる。

「ぐはぁ」

「ぐほぉっ」

 次々と鮮やかに男達を気絶させていく渉ちゃんには僕の助けなど無用だった。彼女は空手の有段者。

 僕は男の肩から落ちた教授を介抱し猿ぐつわなどを解いた。彼は肩で息をしながら「虎太郎を助け出してくれ」と言って眼鏡を外しフレームの赤い模様を擦る。スイッチ音がし目の前の空間に人一人分ぐらいの大きさの真っ黒い穴が広がった。

「兄キを?」

「渉さん虎太郎は生きているはず。2020年夏の今日、俺と虎太郎の研究ではタイムワープホールが開く事になっていた」

「タイムワープ?」

「早くっ! この穴は維持が難しい。閉じても今日中なら開けられるはずだ!」


 渉ちゃんの瞳には複雑な光が浮かんでいた。躊躇いと希望と。兄を助けたいがもう絶望したくないはずだ。


「渉ちゃん! 行こう!」

 教授を襲った奴等は意識がなく、僕が持参した七つ道具のリュックから出した長縄で大樹に縛りつけておいた。これでしばらくは大人しくしていることだろう。

「真ちゃん……私は」

「大丈夫! 僕がいるから」

 なんの根拠もないし、腕っぷしは明らかに渉ちゃんの方が強い。だけど僕は僕なりに彼女を支えたい。

 目線を交わす。決意が固まった。

 渉ちゃんの手を僕は掴み二人で真っ暗な穴タイムワープホールに飛び込んだ。




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