第31話「激突!高野山・終」

道摩は山中を抜けて、石畳の敷かれている場所へ出ようとしていた。

慧春尼の居る奥の院までは、石畳を200メートル程進めばよい。

道摩の胸騒ぎはここまで来る間に急激に膨らんでいた。

それは、危険を予知する兆候に変わっていた。

疲労ではなく、意志に反して足が進まないのだ。

それでも無理やり足を動かし、残り50メートル程になった。

その時、微かな音が聞こえた。

―何かが来る。方向は……

―上!

道摩が上空を見上げた瞬間、強烈な死のイメージが襲ってきた。

反射的に石畳から逸れて、横の茂みに飛び込み伏せた。

その瞬間に、爆発音と強烈な熱風が辺りを包む。

道摩が飛び込む寸前まで居た場所に、炎の雨が降り注いでいた。

上空を仰ぎ見る。

ローター音を響かせて、猛烈なスピードで太平洋方面へ飛び去るヘリコプターが見えた。

道摩は奥の院の方に目をやった。

そこには、盛大な炎を巻き上げる奥の院のシルエットがあった。

道摩はすぐに慧春尼の法力を探ったが、何も感知する事が出来なかった。



ハンニバル大佐は、報告を待っていた。

裏高野の退魔師達を出来るだけ傷つけずに、

任務を達成出来る様に配慮した、プランAは失敗に終わった。

だが、任務の失敗は許されない。

ハンニバル大佐はプランBの実行命令を下し、その結果を待っているのであった。

プランBの作戦それは、

AH-1Z ヴァイパー。

アメリカ海軍が誇る、戦闘攻撃ヘリでの強襲であった。

消音対策が施されてはいるが、最高時速417キロメートル。

夜間でも、静止攻撃目標に対して、約6キロメートル先からでも攻撃が出来る。

武器に関しては、対人、対戦車、対空、対地物、と攻撃目標に応じて、

様々な武器を換装出来る万能型である。

今回、使用するのは焼夷弾であった。

目標を焼き尽くすのが目的である。

今回は目標が小さく、被害も最小限に止める様する為に、

カスタマイズした物を使う予定になっている。

それでも焼夷弾の炎は、一旦点けば簡単に消えないのは変わらない。


ヘッドセットをした兵士がハンニバル大佐に声を掛けた。

「ハンニバル大佐。デルタ2より入電です」

大佐がヘッドセットを取り、応答する。

「作戦本部。作戦本部。こちらデルタ2!こちらデルタ2!目標に対しての攻撃命中!目標の破壊を確認!繰り返す!目標に対しての攻撃命中!目標の破壊を確認!」

「デルタ2!こちら作戦本部!ハンニバル大佐だ!よくやった。速やかに帰還せよ」

ハンニバル大佐は、部下に命じて撤退の準備を急がせた。

「デルタ1チームの回収は、済んだのか?良し!では全員撤退だ!これより帰還する」

「ラジャー」


今回の作戦の趣旨は広瀬教授本人と、教授が作成した量子コンピューターの強奪である。

また、それが叶わない場合はプランBとして広瀬教授の抹殺及び、量子コンピューターの破壊する様に命令が下されていた。

量子コンピューターの開発に関しては、官民共に各国が鎬を削る争いをしている。

しかし、現時点では使える物は存在していない。

アメリカ軍は広瀬教授が量子コンピューターの作成に成功した事も、

特殊な特徴を備えている事も掴んでいた。

握り続ける為には、アメリカ軍に絶対に必要不可欠であると考えた。

成果を公表される前に手中に収め、それが出来ない場合は存在ごと葬り去る。


公安警察の護衛で、広瀬教授が高野山に連れて来られているのは、

衛星写真で完全に捉えられており、場所の特定は簡単だった。

裏高野、いや、慧春尼が広瀬教授の研究に資金援助していたことも、

アメリカ軍諜報部で把握されていた為、作戦上支障を来す場合、

広瀬教授と共に身柄を拘束、最悪止むを得ない場合は抹殺との指令が出ていた。


ハンニバル大佐は、プランA として送り込んでいた部隊を回収したのを確認すると、再度ヘッドセットを取り、

太平洋上に待機するアメリカ海軍第7艦隊原子力空母

「ロナルド・レーガン」に連絡をした。

「作戦完了。これより帰投する」





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