第八話 『使役』してみた。

――運営に助けてもらおう……。

 

 とかいろいろ考えていた私だったけど、結局このダンジョンの出口に辿り着いたのは、その時から現実でさらに三日近くが経過してからだった。つまりゲーム内で言えば、一ヵ月目にしてようやく外に出られそうなのだ。


……違うんですよ。これにはわけがあるんですよ。


 ボス部屋みたいなところから、意外にもあっさりと死ぬことなくセーフティエリアに戻ってくることはできた。気付けばモンスターとの戦闘も、一時間を切るのが珍しくなくなっていた。

 ゲーム的に考えて、きっと下層よりも上層の方が出現するモンスターのレベルは下がるだろうし、そのまま行けばあっさりと上に出られたかもしれない。いや、実際にあっさりと辿り着くことはできた。

 なのに何故、私がまだこのダンジョンにいるのかって?

 ふっ。実は、できちゃったんですよ。


 そう――使役? ってやつ。


 なんと私はセーフティエリアに戻る途中、ジャイアント・マンティスとか言う名前のデカいカマキリを手懐けることに成功したのだ。


 特別な事はしてない。

 空腹を覚えたのでオルトロスの硬いお肉を食べていたら、丁度カマキリが現れたのだ。

 気を逸らすため喰いかけの肉を投げたら、何故かカマキリが食べちゃって。


――ジャイアント・マンティスが仲間になることを了承しました。受け入れますか? YES/NO


 なんて表示が出たのだ。


 それで受け入れたら、あっさりと仲間になってくれた。


 折角仲間になってくれたので、この子と一緒にモンスターと戦う練習をしていたのだ。だから、上層の出口に辿り着くまで時間がかかったというわけ、仕方ないね。


 ちなみに仲間にしたモンスターのステータスは見られるようで、カマキリの捕まえた時のステータスはこんな感じ。



名前:カマちゃん   LV.84/90  

種族:ジャイアント・マンティス   危険度A


HP 1300/1300(-20%)

MP 100/100(-20%)

 攻撃力 930(-20%)

 防御力 850(-20%)

 敏捷性 770(-20%)

 命中力 690(-20%)

 魔法耐性 980(-20%)

 賢さ 540(-20%)


称号  オプション効果を隠す ▲


 『使役獣』

  プレイヤーに使役されているモンスターに与えられる称号。プレイヤーの『使役』スキルのレベルによってステータスに制限を受ける――汝、主に忠誠を誓う者か?




 うん、強いね。

 こんなの序盤でいていい敵じゃないよ。よくレベル1で倒せたよ、私。魔法を使ったところ見たことないし、MPも低いから、あんまり魔法には長けてないのかな?

 

 そう言えば、このダンジョンはあまり魔法を使うモンスターはいなかった。ジェネラルゾンビやらサピエンスリッチなんて名前のアンデット系の魔物が使ってきたんだっけ?

 時々、オルタロスって言う名のわんちゃんも使ってた。あいつらの状態異常には苦しめられたけど、おかげで便利な称号貰えたからいいかな。

 それに、アンデッド系はボス部屋に近い層にしか出てこないし。


 まぁ、それは置いといて仲間になったジャイアント・マンティス、私はカマちゃんって付けたんだけど何か弱体化してるんだよね。十分強いんだけどさ。


 称号の中にはデメリットにしかならないものもあるみたいだから気を付けないと。そう、例えば魔剣士クラスを選ぶと最初からついてくる『二兎を追う者』とかね。

 称号オプションの見方が分からなくて気付かなかったけど、この称号は本当に迷惑。これがなければもうちょっとこのダンジョンを、早く攻略できたんじゃないかな?

 攻撃力が1割下がるってどういうことなの? それも技・魔法スキル以外の攻撃って……むしろ技・魔法スキルで攻撃したことないんだけど。


 はぁ、まぁいいか。今となっては関係ないし。

 なんせ私は……むふふ。

 

 さて、ここを出る前に最後のステータス確認と行きますか。




名前:アンズ  LV.82/100 

種族:ヒューマン

クラス:魔導剣士 LV.13

スキルポイント:22



HP 800/880

MP 790/790

 攻撃力 700(+5)

 防御力 670(+10)

 敏捷性 700

 命中力 680

 魔法耐性 650

 賢さ 580


一般スキル

 『看破LV.1』『気配感知LV.4』『隠密LV.6』『採取LV.1』『使役LV.9』

 『暗視LV.10』『悪食LV.7』『耐震LV.5』


技・魔法スキル

 『火炎魔法LV.5』『氷水魔法LV.3』『土木魔法LV.2』『風雷魔法LV.4』『回復魔法LV.10』

 

称号  オプション効果を隠す ▲

 『二兎を追う者』

 クラス『見習い魔剣士』を選んだ者に与えられる称号。技スキル・魔法スキル以外の攻撃手段は威力が10%低下する――器用貧乏で終わる気かい?


 『二兎を得し者』

魔導剣士に至った者に与えられる称号。称号『二兎を追う者』の効果を打ち消す――さぁ、本領発揮といこうか?


 『下剋上』

レベル差が三十以上ある相手をソロ討伐したプレイヤーに贈られる称号。自分よりレベルが上の相手に対する時、ステータスが10%上昇する――無謀を勇気へと変えた者へ。


 『インセクト・キラー』

  危険度A以上のインセクト系の魔物を10体以上ソロ討伐した者に贈られる称号。インセクト系モンスターに与える攻撃が10%上乗せされ、戦闘も回避しやすくなる――歩く虫よけスプレーってか。


 『ビースト・キラー』

危険度A以上のビースト系の魔物を10体以上ソロ討伐した者に贈られる称号。ビースト系モンスターに与える攻撃が10%上乗せされ、戦闘も回避しやすくなる――一流の魔獣虐待人。


 『アンデット・キラー』

 危険度A以上のアンデッド系の魔物を10体以上ソロ討伐した者に贈られる称号。アンデッド系モンスターに与える攻撃が10%上乗せされ、戦闘も回避しやすくなる――アンデッドの天敵なら、きっとあなたは聖者なのだろう。

 

 『ゴーレム・クラッシャー』

 危険度A以上のゴーレム系の魔物を10体以上ソロ討伐した者に贈られる称号。ゴーレム系モンスターに与える攻撃が10%上乗せされ、戦闘も回避しやすくなる――心無き土塊つちくれに、恐怖を抱かせし君へ。


 『不屈の闘志』

 ゲーム内で最初に死に戻りが100回を超えた者に贈られる称号。HPが半分以上残っている時、それを上回るダメージを受けた場合でも必ずHPは1残る――諦めない限り、君は死なない。


 『原初の魔導剣士』

 ゲーム内で最初に魔導剣士になったものに贈られる称号。パーティー内にいる魔剣士クラスは、ステータスが10%上昇する――見せてもらおう、先達の力というものを。


 『被虐の鑑』

 八種類以上の状態異常を受けながら、一度もアイテムを使用しなかったものに贈られる称号。全ての状態異常を高確率で無効化する――異常さえも繰り返されればいつかは慣れる。


 『敬虔な宗教家』

 ゲーム時間で一か月間、一切の回復アイテムを使用しなかったプレイヤーに贈られる称号。一分ごとにHPが10%回復する――頑なに回復薬を拒否する様は、宗教に殉ずる姿勢と似ている。

 

 『孤高のボッチ』

 ゲーム時間で一か月間、他のプレイヤーと交流のなかった者に与えられる称号。ソロプレイ時にステータスが10%上昇する――大丈夫。みんなあなたを受け入れてくれる。



武器・装備 説明欄を表示する ▽

武器

 『木の棒』レア度:E 品質:―― 耐久値:―― 効果:攻撃力+5 

装備

 『布の服』レア度:E 品質:―― 耐久値:―― 効果:防御力+5

   『布のズボン』レア度:E 品質:―― 耐久値:―― 効果:防御力+5





 うわっ。

 さすがに称号が増えすぎて、オプション効果を表示してると何が何だか。


 まぁ取りあえず言えることは、私のクラスが『魔剣士』から『魔導剣士』になったことで、『二兎を追う者』を打ち消す『二兎を得し者』の称号がもらえたってことかな。


 そのうえ、今までの戦いの結果増えた称号やスキルが結構ある。元々あったスキルも進化して強くなった。

 これはもう、始まりの街ぐらいなら無双できるんじゃないかな? むふふ。


「よーし、チュートリアルも終わったし……攻略を開始するとしましょうか」


 目の前にある石の壁。その壁の一部は分かりにくいけれど引き戸になっているのだ。戸の隙間から光が差し込んできているし、ここを開ければ外に出られるのは間違いない。

 私が今までここから出なかった理由は、出て行こうとするこちらを窺うカマちゃん――ジャイアント・マンティスのためだ。


 大人でも容易に通れる出口だけれど、十メートル以上の巨体を持つカマちゃんにはどう考えても普通には通れない。そのため、どうにかカマちゃんを外に出す方法はないかと思案していた。


 カマちゃんと一緒に戦闘しながらも、ずっとそのことで悩んでいたんだけれど、ついに私はその方法を編み出した。

――いや、編み出したって言うか気付いただけなんだけれど……。


「えーと……この『使役LV.9』ってのを意識して……」


 ステータス欄にある一般スキルの『使役』。そこを意識すると、なんと選択画面が見られるのだ。



『使役LV.9』

 使役モンスター一覧

 ・カマちゃん(種族:ジャイアント・マンティス)――召喚済

            『送還しますか? YES/NO』

            『放棄しますか? YES/NO』

 


 表示された内容を改めて確認し、私は何度も確認して『送還』を選ぶ。きっとその下にある『放棄』を選んだら、主従関係は終わっちゃうんだろうな……。

 もちろん、コントローラーやキーボードなんかで選ぶわけじゃないんだけど、うっかり『放棄』なんて選択しないように気を付けなきゃね。


「よし、『送還』っと……」


『送還』を選ぶと、カマちゃんが光の粒子となって消えていく。まるで戦闘で倒されちゃったようだけど、これで一時的にいるべき場所に『送還』されたってことでいいんだよね? ……いるべき場所がどこだか知らないけど。


「ちょっと確認しておこう」



『使役LV.9』

 使役モンスター一覧

 ・カマちゃん(種族:ジャイアント・マンティス)――召喚未

            『召喚しますか? YES/NO』――最大MP2割消費

            『放棄しますか? YES/NO』



 再び『使役』の欄を見れば、ちゃんと召喚可能になっている。ただ、召喚するのに最大MPを二割もっていかれるんだ……。

 使役してからずっと出しっぱなしだったから気付かなかったな。


「カマちゃん、しばしの辛抱だよ。私がゲームに慣れたら呼び出すから、ちょっと待っててね」


 消えてしまったカマちゃんにそう告げて、気を取り直した私は改めて出口へと向き合った。


 そうして戸を勢いよく開け放ち、ついに私は体感で一ヵ月過ごしたダンジョンから一歩踏み出したのである。

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