第45話 衝撃の事実

 「やぁ、また会ったね。」


 そう言って人影はこちらへ歩み寄ってくる。

 俺は有希乃を守るように前に立つ。


 「今度はどんな用ですか。」


 俺はいたって平静を装って男に問いかける。

 その傍らで有希乃の様子を窺う。

 その表情は怯えというより驚きの方が勝っているような面持ちに俺は少し違和感を覚えた。


 「いやぁお楽しみの所邪魔してしまって済まない。」


 と男が全く申し訳なさそうに言い放つ。

 ダメだ、全然考えが読めない。


 「用というのは君の後ろの子に用事があるんだ。」


 「...っ!」


 とっさに身構える。こいつ何をする気だ...?

 緊張した空気が周りを支配する。

 ...がその緊張を破ったのは意外な人物であった。


 「演劇の話は良いから...。。」


 「はい?」


 有希乃の口からとんでもない言葉が出てきたような気がする...。

 俺が聞き間違っていないのなら今有希乃「お兄ちゃん」って言わなかった?

 そもそも有希乃に兄弟姉妹はいなかったはず...。

 するとその瞬間その男の雰囲気が変わって...。


 「いやー本当に良かったよ!有希乃ちゃんとーってもキュートだったよ!」


 「やめてよ。あれでも結構緊張したんだから。」


 「あーそれとこのビデオ複製して親戚皆に配ろうと思うんだけど良いかな?」


 「絶対止めて。」


 会話に置いて行かれる俺。何これどうなってんの?

 

 「あの...これはどういう...。」


 たまらず状況の説明を有希乃に求める。

 すると有希乃はため息をついて


 「この人は私の従兄弟のお兄さん。」


 「あ、従兄弟の方か...。」


 何だ、そういうことか.。これで万事解決...じゃないわ!

 そのくだんのお従兄さんのこと聞かないと。

 そう思ったがどうやらその必要は無くなってしまったようだ。


 「いやーこの前は怖がらせてしまったかな?ちょっと有希乃ちゃんの彼氏という人はどんな人間なのかなーって気になってしまって。」


 「ああ...そういう...。」


 相手から真相を開示してくれたようだがどうも納得いかない。

 別に裏があるわけでも無さそうなんだがどうもこの思いがけない真実に無力感を感じずにはいられない。

 って有希乃彼氏できたって言ってくれてたんだ...。俺まだ言ってないのに。


 「とりあえずお従兄ちゃん早く帰って!」


 従兄の振る舞いにしびれを切らした有希乃が一喝。


 「有希乃ちゃんに言われちゃ仕方ない。ま、また顔出すから有希乃ちゃんも彼氏君も楽しみにしててね。」


 そう言って謎の男もとい有希乃の従兄は去って行った。

 一体何だったんだ...。

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