第35話 意気投合(?)

「・・・ま、まあ、とにかく立ち話も何だから、座ってよー」

 そう言うと朝倉さんはスティックを置いて立ち上がったけど、たしかに椅子とテーブルが並べられてある・・・はあ!?さっきまでから僕に時間稼ぎを命じたって事かよ!!

 ったくー、姉さんは僕の苦労を全然分かってないです、ぷんぷーん。

 でも・・・椅子の数は1つ、2つ、3つ、4つ・・・どう考えても朝倉さん、南城さん、姉さんの3人に加えての方広寺さんの4つだから、僕は最初からパシリ!

 ま、まあ、普通なら朝倉さんが絶対に「雄介君も一緒にどう?」などと言わないよなー。それならサッサと方広寺さんを姉さんたちに預けて、僕は綾香ちゃんとの約束通りサッサと帰るとしよう!

「あ、あのー・・・」

 方広寺さんがちょっと戸惑ったような表情で姉さんたちに声を掛けたから、朝倉さんが

「ん?どうしたのー?」

「・・・わたしにここで『一緒にお茶会していこう』って事ですかあ?」

「そうだよー」

「まさかとは思いますけど『タダで飲み食いさせる代わりに入部届を書け』とか言い出さないですよねえ」

「うーん、本音はそう言いたいけどー、それをやるとうちのクラスの風紀委員が黙ってないから大丈夫だよー」

「本当にいい?」

「ま、疑ったらキリがないけどー、あたしも愛美も佳乃も同じクラスになっちゃったから、朝から晩まで同じメンバーで顔を合わせてるから張り合いがないのねー。だからあ、誰でもいいからトークしてくれる人が欲しかったのよー」

「わたしにトークに加われって事ですかあ?」

「そうだよー。だから入部届とかは二の次でいいからトークしようよー」

「えー、でもー、そこにあるビスケット、勝手に食べてもいいんですかあ?」

「あー、気にしない気にしない。どうせ工場直売所で買った『割れビスケット』の箱買いだから、スーパーの半額セール並みの値段だから気にしなくてもいいよー」

 おい、ちょっと待て・・・あのビスケットのパッケージ、どこかで見た事があるなあと思ってたけど、母さんが先月、工場直売所の店員さんに交渉して、うちのオヤツ用にと格安で箱買いした物じゃあないかあ!美樹ネエも何袋か持って行ったのは知ってるけど、どう見ても姉さんが勝手に持ち出して、朝倉さんや南城さんとのお茶会用に使ってるとしか思えないぞ!母さんが知ったらボヤくぞ、ったくー。


 そんな方広寺さんは・・・迷ったような顔をしてたけど・・・結局座ってるじゃあありませんかあ!


「・・・ふーん、上之島中学かあ」

「そうですよー。東部中学とは隣の校区ですけど、わたしの家は校区の境界ですけど距離だけで言えば東部中学の方が近いくらいですからー」

「というと自転車?」

「いいえ、徒歩ですよー」

 朝倉さんがビスケットを食べながら方広寺さんと話してるけど、ハッキリ言って朝倉さんと方広寺さんが意気投合(?)して、二人だけで延々とトークしてるから、完全に姉さんと南城さんは蚊帳の外だ。

 そんな朝倉さんと方広寺さんを横目に見ながら、僕と姉さん、綾香ちゃん、南城さんは4人でコソコソと(?)とトークしてる。というより、姉さんが自分で椅子を2つ持ってきて、僕と綾香ちゃんに「ここに座れ!」と言わんばかりに並べたから、仕方なく座ってるに過ぎません、ハイ。


「・・・あのー、僕、帰ってもいいかなあ」

 僕はボソッと言ってみたけど、姉さんもそうだけど南城さんが「まあまあ」と言って僕を無理矢理引き留めている。こうなったら何を言っても無駄だ。諦めて姉さんの気が済むまで第二音楽室にいるしかあるまい。

「どうせ雄介君だって暇なんでしょー?」

「そ、そりゃあ今日の予定が無くなったのは認めるけどさあ」

「女の子だけの中に男が1人!まさにハーレムよ!」

「南城さーん、揶揄ってるのが見え見えですよ」

「あれっ?雄介君はハーレムに憧れないの?それともメグミン一筋?」

 南城さんはそう言って僕の右腕を自分の左肘でグリグリしてるけど、完全に揶揄っているのが丸分かりだ。

 でも、姉さんがその話に乗っかって割り込むのは勘弁して下さーい!

「あったり前でしょ!雄介は私一筋に決まってるわよ!」

「ヒューヒュー。メグミンは雄介君に愛されて幸せよねー」

「そういうヨシノンは翔真君に愛されて大変よねー」

「ちょ、ちょっと勘弁してよー。あんな奴のどこがいいのよー。あいつに声を掛ける女の頭の中を覗いてみたいわよー」

「ヨシノンさあ、そういうあんたは毎日のように翔真君としてるわよねえ」

「どこがですか!百歩譲ってなら許しますが、120%の確率でラブラブトークはあり得ません!」

「冗談に決まってるわよ。ヨシノンと翔真君が付き合うような日が来たら、その瞬間、人類は滅亡するわよ」

「うわっ!そこまで言われたら絶対に付き合わないから安心して。その代わり、誰かカッコいい人を紹介してー」

「紹介してもいいけど、あんたが1学期の中間テストで、学年ブービーを脱出できたらねー」

「あらー、随分ハードルが低いわねえ。それならもう確定したも同然ね」

「ホントに大丈夫?」

 姉さんはそう言って南城さんをニヤニヤ顔で覗き込んでるけど、その南城さんはニコニコ顔のまま姉さんを見てる。

「大丈夫大丈夫!この南城佳乃、嘘は言いません!」

「あらー、それじゃあ、もし次もブービーだったら罰ゲームとしてをやってもらおうかなあ」

「メグミーン、わたしを揶揄ってる?」

「ヨシノンがそこまで自信満々なら、『世にも恐ろしい事』が起きないって事なんでしょ?香澄さんの手をわずらわせる事も無くなるし、一石二鳥よねー」

「いいわよー。ブービーメーカーになったら、それこそ翔真君と二人で『元祖やきとり弁当』で買い物してやるわよー」

「うわっ!そこまでしてくれるなら、感謝の気持ちを込めて、証拠の写真を撮ってヨシノンが結婚する時まで残しておいてあげるね」

「オッケーオッケー!」

 南城さーん、その自信、どこから湧いてくるんですかあ?それとも大ほら吹きなんですかあ!?綾香ちゃんはその辺りは分かってないからニコニコして話を聞いてるに過ぎないけど、姉さんは完全に南城さんを揶揄っているとしか思えない顔をしてるぞ。後で南城さんも後悔しなければいいけど・・・

 もっとも・・・南城さんも、その自信過剰が度を過ぎてるが故にギターをやる事になったというのを忘れてなければいいけどね。


 そんな僕たち4人の会話を余所に、朝倉さんと方広寺さんの会話は熱を帯びている(?)


「・・・へえー、漫画家ねえ」

「・・・そうなんですー、だから新人賞にかれこれ3、4年くらい応募し続けてるけど、入賞した事は一度もないですー」

「まあ、あたしも中学の頃は暇さえあれば漫画を描いてたし、勉強なんか二の次で新人賞に応募しまくっていたから、その気持ち、よーく分かるよー」

「うっそー!朝倉先輩も応募してたんですかあ!?」

「『してた』ではなく『している』が正しいけどねー」

「あらー、それじゃあ、色々な意味でわたしの先輩ですねー」

 おいおいー、ここは女子ロックバンドサークルなんだろ?何がどう転んだら漫画家志望の子が2人も集まるんだあ!僕も姉さんも綾香ちゃんも、それに南城さんも4人でヒッソリと話す事しか出来ないぞー。

「・・・方広寺さんはマン研には行かなかったの?」

「マン研?マンガ研究会ですかあ?」

「そうだよー」

「わたしも最初はマン研にしようと思ってたんだけどー、最初の1分でキッパリお断りしてきました!」

「あー、やっぱりねー。あたしもマン研に1年生の時に1度だけ顔を出した事があるけど、あたしも1分で『二度と行かない!』と思ったよー」

「朝倉先輩もですかあ?」

「あったり前だよー。誰がどう見て『エロマンガ同好会』だからねー。女子は腐女子ばかりで、男は美少女エロマンガしか描かない、あたしから言わせればアホ共の巣窟だよ。だいたいさあ、どうして我が校にああいう同好会が認められたのか、あたしが校長なら即日解散を命じたい気分だよー」

「ですよねー。わたしはホノボノ系のマンガが好きなので、ぜーったいに、ああいうのはお断りです!」

「あーんな腐った連中の集まりが同好会として認められて、あたしらのような大真面目な連中がサークルだなんて、絶対におかしい!」

「賛成であります!」

 うわっ!完全に朝倉さんと方広寺さんが意気投合しちゃってる!!たしかに朝倉さんは美少女・美青年揃いの少女漫画というよりは、ホンワカ系のマンガばかり書いてるのは僕も知ってる。というより、朝倉さんの口癖は「男は美青年、女は美少女しかいないなら誰も苦労しない」だから、余計にマンガ研究会とは反りが合わないんだろうね。

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