第28話 結構鈍いなあ

 その後、僕と姉さん、それに杉原と鎌田さんは互いのテーブルをくっ付けて4人でお喋りしていた。こうしておけば、仮に誰か知っている人がこのテーブルに気付いたとしても、まさかデート途中だとは思わないだろうという考えだからだ。


「・・・さとるくーん、コーヒーのお替りが欲しいなあ」

「・・・ゆーすけー、コーヒーのお替りが欲しいなあ」

 姉さんと鎌田さんがほぼ同時にようにしてコーヒーのお替りを催促したから、僕と杉原は思わず顔を見合わせて苦笑してしまったけど、互いに立ち上がり、各々の手にコーヒーカップを持って並ぶようにしてカウンターに行った。

 さすがに店内の客は少し減ってきているけど、まだまだ大勢いる。コーヒーのお替りをしたい人も大勢いるのか、僕の前の前にいた女性のところで珍しくコーヒー切れになってしまい、僕の前にいた男性に店員さんが「あと2、3分お待ち頂けますか?」と丁寧に説明していた。

 僕と杉原はコーヒー待ちをする形になったけど、その時、左にいた杉原が

「・・・雄介、ちょっといいかあ?」

「ん?どうした?」

 僕は杉原が声を掛けてきたから杉原の方を向いたけど、杉原は僕の方を見てなかった。いや、わざとカウンターの方に真っ直ぐ視線を向けているとしか思えないような緊張した顔をしていた。

「・・・今の2年生で同じ中学の奴はオレ以外に朝倉さんや小野、長谷部とか5人いるけど、小学校まで同じというのはオレしかいないのは雄介も知ってるよなあ」

「あ、ああ・・・」

 僕は杉原の方をずっと見ているが、恐らく杉原は僕が見ているのを知ってる筈なのに、相変わらず僕に視線を合わせようとしない。いや、見るのを躊躇っているような素振りだ。

「・・・オレは雄介と愛美さんが姉弟だと知っているが、その関係がでいるけど、正直、自信を無くしている」

「・・・・・」

「雄介も知ってると思うけど、愛美さんは香澄さんと並んで、2年生の女の子の中でもSSクラスと言われている程の子だから、愛美さん狙いの男子連中が『あんな事を言ってるのはカレシがいるのを隠す為の偽装工作だ』と言ってる連中がいる一方で『だから愛美さんは本気だ』と言ってる連中もいて、そいつらが揃いも揃って、オレに真偽の確認に来ているのは雄介も知ってるんじゃあないのか?」

「そ、それは・・・」

 そう、杉原が言ってることは事実だ。僕も間接的ではあるが聞いた事があるし、特に僕と姉さんの関係を『義理のきょうだい』と言ってる連中の最大の根拠が事だ。

 姉さん狙いの連中は僕と姉さんの関係が双子だろうと義理だろうと関係ないけど、僕以上にその事で一番迷惑を被っているのは間違いなく杉原なのも事実だ。

「・・・オレは今年は風紀委員という立場上、間違いは正さなければならないと思ってるけど、既に噂が独り歩きしている状態では『お手上げ』だとも思っているよ。実際、佳代子ちゃんはオレが双子だと言っても『あー、それってデマだよ』とか言って全然信じてもらえない」

「そうだったのか・・・」

「それに・・・」

「それに?」

「オレも正直、愛美さんの言動を見ていると、お前たち二人が本当に双子なのか自信を無くしている、というか、オレは正直、どちらが正しいのか分からなくなったと言った方が本音かもしれない・・・」

 そう言うと杉原は珍しく「はーーー」とため息をついた。

 たしかに杉原から見たらはた迷惑な話だけど、僕は正直、自分の立場がどうであれ姉さんは姉さん、僕は僕だと思っているから無関心な態度を貫いているから、それが逆に周りに迷惑を掛けていたのは否めない・・・

「・・・たしかに、愛美さん狙いの男から見たら雄介は『目の上のタンコブ』だろうけど、もまたしかりだ」

「へ?」

「ゆーすけー、お前さあ、結構鈍いなあ」

「はあ?」

「お前が無関心を装ってるから、逆に『あんな事を言わせているのはカノジョがいるのを隠す為の偽装工作だ』と言ってるがいる一方で『だから雄介も本気だ』と言ってるもいて、そいつらが揃いも揃って、オレに真偽の確認に来ているのを雄介はどう思う?」

「マジ!?」

「お前さあ、自分が回りにどう思われてるのか無関心なんだろうけど、その事でをそろそろ自覚しろ」

 そう言うと杉原は僕の方を振り向いてニヤリとした。

「・・・3月以前の話になるけど、今年のA組の中にも、オレに聞いてきた女子が2人いるけどな」

「マジ!?」

「その二人はオレにハッキリ言ったぞ。『雄介と愛美さんがなら、お前と付き合いたい』って。もしかしたら既にコクってるけど雄介がダンマリを決め込んでるのかもしれないけど、オレはそこまで詮索する気はないし、その子もオレの仲介役を断ったからオレは関与しない」

「・・・・・」

「ま、互いに堂々と『オレたちは付き合ってまーす』とか言えるようになったら、こーんな場所でコソコソと話すような事をしないでダブルデートでもしようぜ」

 そう言うと杉原は僕を軽く肘打ちしたから、僕も「ああ、そうだな」と言って軽く肘打ちを返した。

『・・・お待たせしましたー。コーヒーのお替りを希望の方、こちらへどうぞ』

 店員さんが僕たちの方へ声を掛けてきたから僕もその声の方を向いたけど、その店員さんは桜井さんだった。桜井さんは僕や杉原に気付いたようで軽く左手を上げてくれたけど、バイトモードを最後まで崩さずコーヒーのお替りを注いでくれた。


 それにしても・・・杉原が言ってたことが本当なら、僕狙いの子が少なくともという事になる・・・朝倉さんがその1人だった可能性もあるけど、だとしても、もう1人いる事になる・・・朝倉さん以外の2人だったというの可能性もある。

 いや、杉原は『今年のA組』と言ってたから、B組やC組の子はカウントしてない・・・


 一体、誰だ?


 いや、あまり深く考えるのはやめよう。ここで考え込んでいては、本当のデート中である杉原と鎌田さんに失礼だ。それに、僕の事を諦めた可能性もあるし。

 そう思って僕は、さっき杉原が話していた事は頭の隅に完全に追いやり、席に戻った・・・

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